第33話 青服の微笑
ソフィやレン達がストレートで決勝トーナメントへ進出を決めたといっても、一つのブロックに2ギルドが決勝へ行けるので続けて予選は行われた。
そして先程、全冒険者ギルドの結果が出たところである。
Aブロック決勝進出を決めたギルドは『リース』と『サシス』のギルドで、両方が『ケビン王国』の領土にある冒険者ギルドである。
Bブロックは『アーリス』と『ローランド』の冒険者ギルドで、こちらは『アーリス』が『ルードリヒ王国』の領土のギルドで『ローランド』が『ケビン王国』の領土である。
Cブロックは『ステンシア』と『ニビシア』の冒険者ギルドで、こちらも両方の冒険者ギルドが『ケビン王国』の領土である。
そして午前中最後の試合が行われたDブロックは『クッケ』と『レルドール』の冒険者ギルドに決まった。
『クッケ』と『レルドール』は、共に『ルードリヒ王国』の領土ギルドである。
――そして波乱が起きたのが、午後からのギルドであった。
まずEブロックはソフィ達『グラン』のギルドが決勝を決めて、もう一つのギルドが何と『トンプーカ』が『リルバーグ』のギルドを下して、決勝トーナメント進出を決めたのである。
――これで前回準優勝を果たした『
この結果はやはり勲章ランクAの『スイレン』が第一試合の中で行われた、ソフィ戦での負傷が存外に響いたようであった。
ソフィ戦後に彼はすぐに病院送りとなり一日ではとてもではないが、全回復など出来る筈もなく、スイレン選手を欠いた『リルバーグ』に『トンプーカ』の武術家『トンシー』の相手は出来なかったようである。
彼は武術の面では達人と呼ばれるだけあって、決して弱いわけではない。
あくまでソフィという規格外の存在と戦ったからあっさりと敗れたが、本来彼は決勝トーナメントに進出した後でも、全国の猛者相手に渡り合えるだけの力量は持っているのであった。
Fブロックは『ウィラルド』と『アリオル』の冒険者ギルドが、決勝トーナメント行きを決めてみせた。
各冒険者ギルドが今年は波乱と呼べる結果を残していく。
『ウィラルド』の冒険者ギルドは『ケビン王国』領土のセス地域のギルドであり、召喚術士のレンが居るところである。
そして『アリオル』は『ルードリヒ王国』の領土のギルドである。
Gブロックは『シーマ』と『ケラード』のギルドが決勝トーナメント進出を決めた。
こちらは両方とも『ルードリヒ王国』の領土である。
そして最後にHブロックは『ザイ』と『メラルド』のギルドが勝ち上がった。
どちらも『ケビン王国』の領土である。
★――――
『ケビン王国』側の領土にある冒険者ギルド一覧
『リース』『サシス』『ローランド』『ステンシア』『グラン』『ニビシア』『ウィラルド』『ザイ』『メラルド』『トンプーカ』以上。
☆――――
ルードリヒ王国側の領土にある冒険者ギルド一覧
『アーリス』『クッケ』『レルドール』『アリオル』『シーマ』『ケラード』以上。
……
……
……
『ケビン王国』領土のギルドが10『ルードリヒ』王国領土のギルドが6。
この合計16のギルドが決勝トーナメント進出を決めたのであった。
――そしてこの対抗戦の裏で、ソフィにとっての受難が始まろうとしていた。
とある宿の一室、二人の男が談話をしている。
話を持ち掛けたのは身なりがよく、帽子が似合う初老程の年齢の男だった。
「それでは『白金貨』10枚で、
殺しを請け負った男は上下共に青い服に身を包んだ背の高い男で、屈託なく笑う顔が印象的な20代の若い男だった。
「おやおや、子供一人に『白金貨』10枚ですか? これは随分と気前がいい事ですね」
そう言って青服の男は、
「その少年は報酬に見合った強さを持っています。何せ――」
初老の男が続きを喋ろうとするのを青服の男は右手で制止して頷く。
「結構。話をして頂かなくとも当然その少年の事は存じてますよ。現在の彼は冒険者ギルドの期待の星のようですからね」
青服の若い男はそう言って胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。
「まぁ確かにこの少年は強いようですが、所詮は『冒険者』の枠組みの中での強さですからねぇ」
――青服の男の二つ名は、『微笑』。
事に及ぶ前と後に変わらぬ微笑を浮かべたまま、任務を遂行する事からつけられた二つ名である。
「それでこの依頼に
青服が質問すると、初老の男は首を横に振った。
「可能な限り早く遂行してもらいたいところだが、確実に始末を果たして頂けるならば『微笑』のペースで構いませんよ」
初老の男がそう言うと青服の男はニコリと笑った。
どうやら男はこの依頼を気に入ったのだろう。
「そうですか、分かりました。それではこの依頼を引き受けましょう」
そう言って初老の男に会釈をして、青服の男は踵を返して歩いていった。
その青服の後ろ姿を見た初老の男は、この任務を確実に遂行されるだろうと確信するのだった。
……
青服は目を細めてソフィの似顔絵を見ていると、前から酒瓶を持って歩いてきたガタイの良い男に肩をぶつけられた。
その拍子に青服が持っていたソフィの似顔絵の紙が床に落ちてしまう。
「おっと……、これは失礼しました」
青服が屈強そうな男に謝罪をして紙を拾おうと身を屈めた瞬間に、ソフィの似顔絵は男の靴で踏みにじられた。
「おいおい、今ので俺の肩は折れちまったよ。謝罪の仕方ってものがあるだろ、兄さんよぉ? 手持ちの金全部渡して、床に頭を擦り付けて謝罪すれば許してやるよ」
「……」
青服は周りに誰もいないのを確認した後、微笑を浮かべたままで一瞬でその屈強そうな男の顔の前まで移動をした後に、眉間に指をおいたかと思えばそのままトンと軽く小突いてみせた。
「は? 何の真似……、ぐべっ」
屈強そうな男は青筋を浮かべながら怒鳴ろうとしたが、次の瞬間には白目を向いてそのまま倒れた。
「大事な似顔絵が貴方の所為で、くしゃくしゃになってしまったではありませんか」
微笑を浮かべたまま青服は、紙を拾ってそのまま去っていった。
その場には左手に酒瓶を持って、痙攣しながら涎を垂らした男だけが残った。
――
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