第29話 仲間

 祝勝会で賑わった前日から一夜明けた次の日。


 今日もまたギルド対抗戦がある為に、ギルドの面々は準備に勤しんでいる。


 グランの今日の相手は『トンプーカ』という全国の冒険者ギルドから見れば、中堅どころのギルドで決勝に進出した事も何度かあるが、ディラックが言うには昨日戦ったスイレンたちが所属する『リルバーグ』のギルドと比べると数段落ちるだろうとの事だった。


 ソフィが冒険者ギルドの代表になる前のこれまでの『グラン』の町のギルドの戦績では『リルバーグ』どころか『トンプーカ』でさえ、予選で当たってしまえば辛いと感じていた相手であった為に『リルバーグ』のギルドに勝てた事は『グラン』のギルドの関係者の意欲や気持ち的に大きな変化を及ぼしたようである。


 そして肝心の試合だが今日も午前中はAからDの試合が行われており、早速決勝行きを決めたギルドがちらほらと出てきている。


 やはりストレートで決めたギルドは、現役最強の剣士リディアが所属する『サシス』のギルドだった。


 次いでBブロックも『ケビン王国』領土で五指に入る選手がいる『ローランド』が、決勝トーナメント行きを決めたのだった。


 Cブロックは魔法使いのみで構成されているギルド『ニビシア』が決勝行きを決めていた。


 今回スイレンたちが敗れた事で『ニビシア』のギルドは、今回と言われている。


 そして今Dブロックで『レルドール』が『クッケ』と『ミネバーシ』のギルドを倒して決勝行きが決まったところである。


 やはり大方の予想通りに強者達がいるギルドが、安定して決勝行きを決めたといったところだった。


 そして大番狂わせといっていいのは、やはり午後からの出場のEからHグループである。


 一番驚かれたのはやはり、前回準優勝を決めた『リルバーグ』が、万年予選リーグ落ちである『』のギルドに敗れた事だろう。


 第一試合でスイレンを相手に圧倒してみせた、ソフィの人気は爆発的な急上昇を果たしており、今日決勝行きを決めるところを一目見ようと、空席が多かった第一試合と違い、今回は既に試合が行われる前から満席で立ち見客が出ている程であった。


 どうやら大陸中に存在する対抗戦に出場しているギルドからも『グラン』の町の冒険者ギルドは、一躍注目を浴びているようである。


 Eブロック予選リーグ二試合目『グラン』と『トンプーカ』戦がまもなく開始である。


「今回は負傷しているディーダ君を大将にして、僕が先鋒で行くよ」


 どうやら2回戦目の戦う順番は『ニーア』『ソフィ』『ディーダ』という順番になった。


「うむ、分かった。ニーアよ、お前の後には我がおる。お主は『魔力』の配分など気にせずに、で一気に勝負を決めるがよい」


 同じ『魔法使い』という事でソフィは、ニーアの戦い方をよく分かっていた。


 そして前回ソフィがニーアに質問を行った時のように、倒せると判断した時は出し惜しみをせずに、一気に自分の持ち得る最大限の力を示せとアドバイスを送る。


 ソフィにアドバイスを送られるまでは、小規模な魔法で相手の出方を挫いて少しずつ有利に持っていけるように試合を動かそうと考えていたが、その考えを変えてみようかと思えたのであった。


「そうだね……。後の事は任せる事にするよ」


 この時ニーアは自分より頼りになる者が、自分の後を支えてくれるという安心感を初めて自覚した様子であった。


 これが仲間なんだとニーアは嬉しくなり、誇らしい気持ちでリングに上がっていく。


「これより『グラン』のギルドと『トンプーカ』のギルドの試合を始めます!」


 開幕の挨拶を済ませた後、先鋒だけがリングに残り後の選手はリングを降りていく。


「それでは、先鋒戦開始!」


 審判のコールの後、Eブロック第二試合、先鋒戦が開始されたのだった。


 普段であればニーアは小規模の魔法で陣形を整えて場をコントロールしながら、徐々に攻め立てる戦いをしていたが、今回は彼の出せるを放つために詠唱を開始する。


 『古より世界に伝わりし火の言霊、我の魔力に呼応し体現せよ』


 ニーアの詠唱によって炎の塊から人影が出現し、その炎に包まれた人型の影が諸手を挙げると、ニーアの頭上高くに円形の炎が作り出された。


 ――上位魔法、『炎者の爆風フレイマーバースト』。


 そしてニーアが詠唱を終える前に、斬りかかろうとしていた『トンプーカ』の剣士は間に合わず、ニーアが召喚した炎の影の魔法により、吹き荒れる風と共に数多の火球が剣士に降り注いでいく。


 ニーアの生み出した魔法は、一発一発が早くそして重い。


 勲章ランクCまで登りつめた魔法使いの魔力をつぎ込んだ渾身の攻撃であった。


 残存魔力を気にせずに本来の魔力をつぎ込んだニーアの攻撃は、勲章Cランクどころか、Bランクの下位クラスの威力を誇り、それだけの『魔法』を受け続けた『トンプーカ』の剣士は、そのまま意識を失って倒れるのだった。


「勝者、ニーア選手!」


 観客席から地鳴りのような歓声が、リング場に雨のように降り注ぐのだった。


 ニーアの創り出した炎の影の大きさと、その派手な炎の爆風で敵を一気に攻め立てる魔法は見ていた観客達を興奮させるには十分過ぎる程だったようで、会場全体は大盛り上がりであった。


 続く二試合目もニーアの上位の『魔法』が活躍を見せて、二人抜きを達成したが『トンプーカ』の三人目の選手、武道家『トンシー』の前に魔力枯渇を起こして敗れてしまった。


 毎年決勝トーナメントに進む常連の冒険者ギルド『トンプーカ』の選手相手にニーアは、二人抜きを果たしたのだから、彼の『魔法』は十分に全国に届くと、試合を見ていた多くの者達に知らしめる事が出来たのであった。


「うむ。よくやったぞ、ニーアよ。お主の『魔法』をしかとこの目で見させてもらった」


 ソフィのアドバイス通りに全力で彼の持ち得る魔法を使った事で、ニーアは魔力枯渇を引き起こして息も絶え絶えだったが、彼は自分より背が小さいソフィに肩を抱かれながらも、絶大なる安心感に包まれながらリングの下まで運んでもらうのだった。


「君が居てくれるから安心して戦えたんだよ。あとは頼むよ……、ソ、フィ、く……」


 そのままニーアは安心しきった顔を浮かべたまま、完全な魔力枯渇で気絶するのであった。


「クックック……! 後は我に任せてゆっくり休むがよいぞ」


 ソフィは優しくそう声を掛けてディーダにニーアを任せた後、再び相手選手が待つリングに上がっていった。

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