第22話 現役最強の剣士

「それでは次の選手、リングへ上がってください」


 審判のコールを受けた『サシス』ギルドの大将を務めるリディアは、静かにリングに上がり始めた。


  その様子を観客席やソフィたちがいる観戦室、そして貴族たちのいる部屋と、正にこの一戦を全ての者達が注目するのだった。


「遂に来たね。ソフィ君」


 ニーアが興奮しながらリディアの名をあげた。


「ふむ、確かこの大陸で最強の剣士だったか?」


 ソフィの言葉に大きく頷くニーア。


「そうなんだよ、彼が冒険者ランクAの中で……、いや『ミールガルド』大陸にある全冒険者ギルドの中で『』って言われている剣士だ」


(少し誇張が過ぎるのではないだろうか? 我にはそのとやらは、そこまで強くは見えないが……。まだ我には、魔法使いの『リマルカ』の方が強く見える)


 そう思ってモニターの映像越しに、リディアの魔力を探知して『漏出サーチ』をかける。


 【種族:人間 性別:男 年齢:25歳

 職業 剣士 魔力値??? 戦力値:測定不能】


「待て。に……、だと!?」


 確かに『漏出サーチ』は、相手の戦力値を測る魔法で便利ではあるが、全く対策が出来ないわけでもなく、呪文や魔法に相当の心得があるものならば、術者の力関係の差を含めて対抗する事も可能なのである。


 もちろんソフィも隠蔽呪文を施しており、例え相手に『漏出サーチ』をされても相手に実際の『魔力』の正確な数値が開示される事はない。


 しかし問題なのは『漏出サーチ』自体が『アレルバレル』の世界であっても人間の世界では、失われし根源魔法と言われる程に珍しい『魔法』であり、この世界であってもどうやら知識では魔法使いは知っている者も居る様子だが、それがまさか一介の剣士がその『漏出サーチ』の対策魔法を身に着けているとは思わなかった。


 そしてソフィがは他にもあった。


 それは『漏出サーチ』で相手の値が測定不能と出たからである。


 つまりそれはソフィのの『』では、相手の力を推し量れないという事と同義である。


 現在のソフィはではあり、本来の彼の実力から比べれば、雲泥の差状態ではある。


 しかし本来の力を出してはいないとはいっても『グラン』の冒険者ギルドでは、誰も歯が立たなかった上に、討伐指定のランクC魔物モンスターのベアを全く相手にせず、あっさりと屠れるだけの力は有しているソフィである。


 現に先程まで勲章ランクBのリマルカ選手や、ここに来るまでに出会ったレンという少年に『漏出サーチ』を放った時には、その正確な戦力が測れていた筈である。


 しかしここに来て単に一目見ただけではそこまで強くはなさそうだと感じた『リディア』という勲章ランクAの現役最強の剣士とやらは、確かに今のだと『魔法』によって、明確に示されたのであった。


 その事実にソフィはニヤリと笑みを浮かべて、リディアとリマルカの試合に興味を持つのだった。


 ――そして審判の合図で最終戦が開始された。


「行くぞ……」


 ――上位魔法、『風衝撃ウィンド・インパクト』。


 ミルリ選手やウォルト選手の時と同じように、対近距離戦の戦いを仕掛けるリマルカに対して、リディアは微塵も慌てずに剣を鞘に入れたまま様子を見るように立っている。


 そしてリマルカの風の魔法が一直線にリディアを襲い掛かるが、その刹那――。


 恐ろしい速度で剣を抜いてそのまま襲いかかる風を


 何と物理で魔法を斬ってみせたのであった。


「何……?」


 一番早く反応して驚いているのは対戦相手であるリマルカではなく、観戦室で見ていたであった。


 物理で魔法を斬るといった芸当は、長く生きるソフィでも見た事はない。


「あれは東の小さな島国に伝わる伝統の抜刀剣術、居合というらしいよ」


 ニーアがその知識から説明をしてくれた。


「居合?」


(いや……、どんな剣技なのかとかは知らぬが、それよりもあのリディアという男が剣を振るう時に一瞬だが、


 どうやらニーア達は『居合』という剣技の方に意識を向けていて、剣を振るう僅かな一閃の瞬間に、光が放たれているのが見えてはいない様子であった。


 ソフィはそちらの方に意識を割かれて、試合よりもリディアの方に集中する。


(まさかな……)


「魔法を斬るなんて芸当、普通の剣士には出来ない。凄いよ本当に!」


 ソフィ達は視線をモニター映像に移して試合の続きを見る。


 先程までのように、対近距離戦用の戦いパターンを作り上げてきたリマルカだが、『風衝撃ウィンド・インパクト』を斬られた後に間合いまで入り込まれていた。


「た、盾よ……、ぐむッ!」


 だが、詠唱が無い高速発動のリマルカの『魔法』ですら、間に合わなかった。


 ――『』。


 いつ斬ったのか……。既にリマルカの間合いから離れて、元に居た場所で剣を鞘に戻すリディアだった。


 そして背後を向いたと同時に『リマルカ』選手は意識を失ってその場に崩れ落ちるのだった。


「勝者、リディア!」


 今日一番の歓声を挙げる観客を一瞥もせぬままに、リディアはリングを降りるのだった。


「『つ、強い……』」


 ニーアとティーダが同時に声をあげる。


 リマルカは確かに対近距離戦のエキスパートだった。


 そして彼が、一番得意とする相手である筈の近接職の剣士だったが、リディアの前では手も足も出なかったのであった。


(リマルカとやらは決して弱くはなかったが……、流石に力量に差があり過ぎたな)


「しかし、物理で魔法を斬るか……、クックック」


 物珍しい戦い方をして見せたリディアに、ソフィはこの世界では初めてといっていい程の興味を見出したのだった。


(素晴らしいではないか、どこまでの『魔法』ならあの剣技で斬れる?)


 ソフィは歪んだ笑みを見せながら、もう抑えられないといった様子で迸る魔力のオーラを纏いながらリディアを見る。


 そしてその場にいる誰もが、、その魔力に気づく事はなかった。


 そしてソフィのリディアに対する戦闘意欲は、増していくのだった。

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