第20話 ギルド対抗戦開始
ソフィたちがギルドの隣にある対抗戦が行われる会場に辿り着いた時、すでに多くのギルドの冒険者が集まっていた。
午前中はAブロックからDブロックの試合が行われて、EブロックからHブロックは午後から行われるのである。
一日に各町のギルドは一試合ずつ行われるだが、17番のソフィたちは今日、同ブロックの『リルバーグ』との試合が行われる予定である。
広い会場の一番高い部屋の一室が用意されており、見下ろす形で試合のリングを一望できる場所に各町のギルド長や、国賓として呼ばれた
「ケビン王国のマーベル侯爵、今日は宜しくお願いしますよ」
「これはヘルサス伯爵、お久しぶりです。こちらこそ宜しくお願いします」
マーベル侯爵もヘルサス伯爵も互いに王国の中で発言力の高い貴族であり、顔を合わせる場面も多く、別の王国の貴族同士といってもそこそこの親交はある様子であった。
「それではクラッソ、始めてくれ」
「はい、マーベル様」
ケビン王国の大貴族であるマーベル侯爵の管轄内の町である『サシス』のギルド長クラッソは、今回の対抗戦で自身のギルドを優勝させて自分たちのギルドが有能であることを見せる事で、今後マーベルから冒険者ギルドに対して便宜を図ってもらおうという狙いがあった。
そして貴族側であるマーベルにしても、自分の治める領地のギルドがこの大陸全土で優勝する程に優秀なのだという事を他の町を治める貴族や、王族たちに見せる事を目的として互いに利が一致している。
更にはルードリヒ王国側の貴族であるヘルサスもまた大きな思惑を抱えており、勲章ランクAのスイレンを王国軍に推薦した貴族である彼の今回の目的は、スイレンにこのギルド対抗戦で活躍してもらうことで王国軍にスカウトした自分の采配を各町の貴族に知らしめるという考えを抱いていた。
それも今回のような両国の冒険者ギルドが名を連ねる大舞台で名を知らしめたともなれば、ルードリヒ王国領で更なる大貴族としての『地位』を確固たるものへとする事が出来るだろう。
つまりはこうして三者三様の思惑と狙いがあって、これまでになかった今回の『ギルド対抗戦』の観戦が成立したというわけである。
そしてリング上に『サシス』の代表選手たちが集まっていた。
Aブロック第一試合はクラッソのギルドの『サシス』と、ルードリヒ王国の領土のギルド『リース』の町のギルドの対戦が行われる。
――こうして最初の試合から、両王国の冒険者ギルドが戦う事になるのであった。
『リース』の町の代表選手と『サシス』の町の代表選手が握手を交わして、さっそく第一試合の先鋒同士の戦いが始まった。
――『リースギルド』先鋒、カリシャ『剣士 勲章ランクC』。
――『サシスギルド』先鋒、ミルリ『拳闘士 勲章ランクB』。
『リース』の冒険者ギルド所属であるカリシャは、ここ最近討伐クエストで名を上げている剣士で『ルードリヒ』王国のギルド指定D級の
対するミルリ選手は拳一つで、勲章ランクBまで駆け上がったベテランで『
この『闘応気』という技は人間が身の危険を感じた時に痛み等の信号を出して、身の危険を知らせる伝達の働きを一時的に解除して、普通であれば動けない程の大怪我を負っていてるような状況下であって、平常通りに動く事を可能とするといった痛覚を一時的に麻痺させるような、リミッター解除の技である。
とても危険が伴う『技法』である為に、使用者のミルリもここぞという場面以外では使用を躊躇っている程であった。
試合が開始されて数分間、既にお互い相手の攻撃を躱しては受けて反撃をするという攻防を繰り広気続けている。
ミルリがうまくカリシャの剣の間合いを読み取り、剣が届くかどうかという瀬戸際まで踏み込んで攻撃するために、カリシャは非常に戦い辛いという印象を受けている。
そして一気に勝負を決めようとカリシャが、今までより一歩前に踏み込み、手のリーチを伸ばして剣を振りかぶる。
袈裟切りにしようと一気に力を乗せて振り切るが、ミルリはその攻撃を誘っていたのか、今までより前進した後にしゃがみ込んで掬い上げるように相手の剣に対応する。
相手が全体重を乗せて振り下ろしている剣を首だけで避けた後、その相手の反動を利用して下から掬い上げるようなアッパーカットで突き上げてみせる。
カリシャの剣は見事に回避されてしまい、そのままミルリのアッパーカットがカリシャのアゴを捉えて持ち上げるように突き刺さった。
「っ……!」
カリシャは錐揉み回転をしながら場外まで吹き飛ばされていき、そのまま意識を失って倒れるのであった。
――こうして第一試合の先鋒対決は、サシス王国のミルリが勝利したのだった。
そしてそのまま第二試合に入り『リース』ギルドの二人目の『ガルム』が出てくるのであった(棒術士 勲章ランクB)。
『サシス』は先程のミルリが連闘となるため、そのままリング上に残ったままである。
一試合を終えると少しだけ休憩を取る事が許されているが、ミルリはこのまま勝負の勢いを維持したいと考えたようで、休憩申請を拒否して直ぐに次の試合を開始してもらう事にしたようだ。
ガルムが自身の持つ
長い棒を軽々と扱いながら相手を間合いに入らせず、中間距離を維持しながらガルムはミルリを攻撃する。
懐に入りさえすれば有利が取れるミルリは、なんとか見極めようと棒の動きを見るがガルムの棒はその長さに関わらず、速度が上がり二重にも三重にもブレて見えるようになった。
なかなか的を絞らせないガルムに、ジリ貧を感じたミルリが一度棒の届かない距離まで下がろうと後ろへ飛んだ時、それを見計らったかのように、ガルムは前に走り出して棒をミルリに突き立てた。
「ぐっ……!」
棒はミルリの腹に直撃して、一瞬動きが止まる。
そこに畳みかけるようにガルムは棒を突き入れた。
態勢を完全に崩しているミルリにガルムは勝ちを確信したが、ミルリは何事もなかったかのように相手の突きを見て即座に普段通りの速度で身体を捻りながら、一気に棒を躱して間合いを詰めてガルムのアゴに拳を叩き込んだ。
「な、何……?」
そのまま脳を揺らされてしまい、脳震盪を起こしたガルムはリングの上で意識を絶たれた。
どうやら彼の持つ技法である『
「ふう……」
ミルリは小さく息を吐いてリングにいる審判が、ガルムの生死を確かめにいくのを確認した。
そして審判は小さく頷いた後、ミルリの勝利を告げた。
――ミルリの二人抜きである。
「うおお……!」
ザワザワと試合会場の観戦席のあちこちから歓声が挙がった。
「何で直ぐにミルリは動けたんだ?」
「知らねぇのか? サシスのミルリと言えば『
「なんだそりゃ? その『
今の一戦で興奮冷めやらぬ観客席では、その観客同士で解説を行ったり、それを聞いた者達がようやく理解して歓声を挙げたりするのだった。
……
……
……
Aブロックの試合を観戦していた観客席の者達が今の試合の解説をし始めた頃、貴族たちや各町のギルド長がいる部屋でも『ミルリ』を讃える声が挙がっていた。
「流石は常勝と呼ばれる『サシス』ギルドの代表選手ですな。まだ一人目だというのに、全く『リース』ギルドを相手にしていない」
『ステンシア』の町のギルド長が同じ『ケビン王国』である『サシス』のギルドを持ち上げると、他の『ケビン王国』領土のギルド長たちが一様に褒めたたえ始めた。
それを傍で聞いていて面白くないのはヘルサス伯爵や、『リース』のギルド長といった『ルードリヒ王国』の者達である。
そしてそんな部屋の様子を見て、ソフィ達の所属する冒険者ギルドのディラックは溜息を吐くのだった。
(こんな様子で試合観戦が続くようであれば、どんどん場の空気が悪くなってしまうな……)
公平性や礼儀を重んじるギルド長もいれば、態度や口の悪いギルド長もいるので過去に脱落したギルドの長が苛立ち混じりに、暴言を吐いたりする事も稀にだがあった。
今年は貴族も同じ部屋で観戦している以上、揉め事が起きない事をディラックは祈るのであった。
そしてAブロック『リース』ギルド最後の一人、遂に大将格が出てくるのであった。
――『リース』の大将『リマルカ』(魔法使い、冒険者ランクB)。
「む、あやつは魔法使いだな」
午後から試合のある選手達の控室の横にある観戦室で、ソフィも試合の様子をモニター映像で眺めていたのだが、リマルカが出てきた時に反応を見せるのだった。
「あれは『リース』ギルドの大将のリマルカさんだね」
ソフィの隣で試合の様子を見ていたニーアも口を挟む。
「ふむ、ニーアよ。あやつにお主も『
ソフィは同じ魔法使いであるニーアに、リマルカの魔力値を測るように促す。
「え? 何かあったの? 『
言われた通りにニーアはリマルカの魔力値を測るが、そこには『魔力値』784と映し出されていた。
「な、なんだこの魔力値は……!」
勲章ランクBの魔法使いの平均魔力値は350から500が一般的で、ランクAでも平均魔力値は650程である。
ソフィはさらに『
【種族:人間 性別:男 名前:リマルカ 年齢:22歳
職業:魔法使い 魔力値:784 戦力値74527】。
「クックック、
ソフィがそう告げると同時、ちょうど指し示されたかのように、審判の試合開始の合図で戦いが始まるのであった。
……
……
……
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