第18話 抽選会と貴族
――『サシス』の町にあるギルドの二階。
部屋の一室に参加表明している合計32名のギルド長たちは集められた。
数日後に開かれるギルド対抗戦、その対戦相手を決める為の抽選会のためである。
今回は例年と異なり王国の貴族を国賓に呼んで、一緒に試合を観戦させようという『サシス』のギルド長の提案でその採決も同時に決めようとしていた。
「はるばる遠くからお集まりの各町のギルドマスターの皆様、よくぞお越しいただきました」
そして遂に『サシス』のギルド長の挨拶を皮切りに抽選会は始まった。
「まずは例年通り前年度の功績がよかったギルドから、順にくじを引いていきましょう」
そう厭味たらしく告げた後にサシスのギルド長『クラッソ』がくじを引く。
「私が引いた番号は3番」
3番はAブロックであった。
「次は前年度準優勝の『リルバーグ』のギルドですね」
クラッソに抽選を促されて、『リルバーグ』の背が高い女性のギルド長『シャル』が前に出る。
……
……
……
「さて、
そしてディラックの番まで回ってきたのでくじを引く。最後なので何が出るかは決まっているが、一応引かされるようだ。
「それでは皆様。今一度目の前のボードをご覧ください」
ボードには今決められた抽選結果が示されており、AブロックからHブロックまでの合計8ブロックに、32ギルドの名前が貼りだされていた。予選リーグでは1ブロック4ギルドで行われて、各ギルドの代表選手3対3で勝ち抜き戦で試合が始まる。この中から1ブロック上位2ギルドが決勝に進出するのである。
予選リーグを勝ち抜いて、決勝まで辿り着けばそこからは、決勝トーナメントで上位16ギルドが争われる。
決勝トーナメントで4回勝利すれば、今年度の優勝ギルドという事である。
(『グラン』はEブロック17番か、くそ……! 同ブロックに『リルバーグ』が居る)
ディラックは自分と同じブロックに、優勝候補と言われているギルドの一つ、スイレン擁する『リルバーグ』の名前があり表情を歪ませた。
各自ギルドの長が自分の対戦相手をメモするなりし終えて、自分の椅子に座った頃を見計らってクラッソが声をあげた。
「さて皆様、最初に申しました通り、今回は観戦に国賓を御呼びしたいと思います」
クラッソがそういうとザワザワとし始めた。
「『ケビン王国』と『ルードリヒ王国』の貴族を御呼びして、試合の観戦を共にしていただこうと思うのですが、その件で各町のギルド長の皆様の意見をお聞かせ願いたい」
クラッソの言葉に皆一様に黙り込んだが、『リルバーグ』のギルド長シャルが手を挙げた。
「私は賛成だ。ぜひ王国の貴族の方々に我らギルドの強さを知っていただき、今以上に頼っていただきたいのでな」
シャルの発言を皮切りに、次々と賛成意見が多く出始めた。
ディラックは『ケビン王国』と『ルードリヒ王国』の外交問題を懸念して、反対意見を投じようと手を挙げようとするが、その前に『ローランド』のギルド長が声を上げた。
「クラッソ殿。どうして今になって貴族を御呼びしようとしているのですかな? 貴族たちに何かを吹きこまれましたか?」
『ローランド』のギルド長ホーキンスがそう言うと、少し苛立ちが見て取れる表情でクラッソが返答する。
「吹き込まれたとは心外ですな? 我々冒険者ギルドの国に対しての貢献は素晴らしく、その冒険者ギルドに所属する冒険者たちが戦い、どこが一番強いのかを決める由緒ある戦いを是非、貴族の方々にもご覧頂きたいと思っただけの事であり、他意などありませんよ」
早口でまくしたてるようにクラッソがそう告げるとホーキンスは、鼻を鳴らした後にそれ以上の言及をせずに頷いて座った。
「さて、他に意見はありませんか? 反対意見などがあれば今の内にお聞かせ願いたいのですがね」
「別の国家の貴族同士が顔を合わせる場で自国の領土のギルドが負けた場合は、心証が悪くなりうる懸念があると思われます。ここは外交的な面でも控えるべきではないですかな?」
ディラックは席を立ちながら声をあげた。
「はっはっは、それは心配しすぎですよ。あくまでギルド対抗戦は年に一度のお祭りです。もちろん敗ければ悔しいと思う感情はあるでしょうが、それを理由にして外交的な問題にする者などおりますまい」
そう言われてしまえばディラックには反論しようもなく、結局貴族を交えての観戦は賛成多数により可決された。
そして対抗戦の対戦表を各町のギルド長に配られて、抽選会はお開きとなった。
ディラックが宿に向かって帰る途中『ローランド』のギルドマスターのホーキンスが話し掛けてきた。
「すまない、ディラック殿! 少し宜しいかな」
急に話しかけられたディラックは驚いたが、ホーキンスと分かるとすぐに笑顔で頷く。
「ああ、これは『ローランド』のホーキンスギルド長。私に何か?」
ホーキンスは周りを見渡し、誰も居ない事を確認してやがて口を開いた。
「今回の国賓を招いての対抗戦の観戦は、十中八九貴族から差し込まれた事案でしょう」
ディラックもそう思っていたので小さく頷いた。
「もしかすると対抗戦は利用されているのかもしれないと、私は思っております」
ホーキンスの言葉は少しだけ、国を心配するようなニュアンスが含まれていた。
「『ケビン王国』と『ルードリヒ王国』は年々少しずつ関係が悪化していますし、このままだと危ういと私も思っておりました」
ディラックがそう言うと、ホーキンスは
「どういう思惑であれ、今後の事はクラッソ殿も気を付けたほうがよろしかろう。私の町とディラック殿の町は同じ『ケビン王国』の領土内です。
その何かとはあえて聞かず、ディラックは協力関係はいい事だと頷いた。
「ええ。ですが対抗戦でもし当たるようなことがあれば、本気でぶつからせていただきますよ?」
ディラックが笑みを交えてそう告げると、ホーキンスも笑い始めた。
「はっはっは、もちろんですとも。我々のギルドは『マケド』がいる限りはそう簡単には負けませんぞ?」
二人は別れ際に握手を交わして、その場を後にしたのだった。
そして宿に戻ってきたディラックは、早速ソフィたちを集めて抽選会の内容を話し始めた。
「というわけで、我々のギルドはEブロックの17番『ルードリヒ王国』のリルバーグが同ブロックで当たる事が決まった」
話を聞かされたニーア達は何も予選リーグで当たらなくてもと溜息を吐き、リーネもまた俯いて唇を噛んでいた。
「ふむ、噂をすれば何とやらだな」
ソフィは先日スイレンの話を聞いており、戦う機会があればいいとは思っていたが、まさか予選で当たるとまでは思っていなかった。
「ま、まぁ決勝へは上位2ギルドが上がれますし、まだ敗退が決まったわけではありませんから」
ディーダが周りを気遣うように声をかけ始めた。
だがディーダも心の中では半ば諦め気味なのは間違いなかった。
その理由の一つとして『トンプーカ』のギルドは、『ケビン王国』の中でも上位に位置する武闘派が揃っており、毎年そこそこ決勝へ進んでくるギルドであった。
『ルードリヒ王国』のギルド『イネル』も、『グラン』のギルドに比べると遥かに格上の冒険者たちが揃っているのである。
そんな中での勲章ランクAのスイレン擁する『リルバーグ』である。
『グラン』の選手達の士気が下がるのも仕方がなかったと言えるだろう。
「抽選会では貴族の観戦の話題も出たのだが、やはり国賓として呼ぶ事が決定した。私は最後まで反対したのだが、結局は聞き入れてはもらえなかった」
どこのギルドも王国に属する貴族たちに、いいところを見せて自身のギルドを優遇してもらおうという腹なのだろう。
「まぁ、決まってしまっては仕方ないですね。それで第一試合の相手は『リルバーグ』ですが、戦う順番はどうしますか?」
ニーアは気分を変えて、戦う相手のギルドのことを考え始めたようだった。
「そうだな、いつもはランク順に先鋒中堅大将を決めるところだが、今回はディーダ、ニーア、ソフィの順番で行こうと思うがよいか?」
ギルド長ディラックの采配に特に反論はなく皆頷いた。
「我が大将でよいのか? 勲章ランクEが大将だと他のギルドから舐められたりしそうなものだが」
ソフィとしては別に先鋒で、全て薙ぎ倒してしまえばいいと考えていた。
「うむ、君は見た目も若くランクはまだEだが、私は君を十分高く買っているつもりで勲章ランクもB相当と見立てている。ギルド指定モンスターの『アウルベア』を従えたという点も大きい。そんな君を大将とみるのは当然だろう?」
(いや、その見立てでもまだ甘い。私が思うにソフィ君はAランクと見るべきだ)
ソフィの魔力値を見たことがあるニーアは、ディラックの言葉を聞きながらも心の中でそう考えていた。
「お主がそう言うのであれば我はそれでよい。我が優勝させると決めた以上、優勝以外の結果はないからな」
ソフィはそう言ってレグランの実を齧り始めた。
「はっはっは、流石はソフィ君だ! いやはや、うむうむ! これは心強いものだな。そうだ、そうでなくてはな! はっはっは!」
心の底から嬉しそうにディラックは笑い始めるのだった。
「対抗戦は明日から行われる。我々はEブロックなので午後からだが、他の試合も見ておきたいので、午前中から観戦室に入っておいてくれ。私はギルド長たちの部屋にいなければいけないので、君たちと一緒に見ることは出来ないが、君たちを信じて応援している」
こうして今年度のミールガルド大陸最強のギルドを決める対抗戦が、幕を開けるのであった。
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