ギルド対抗戦編
第10話 指名依頼
ソフィがこの世界に転移してきてもうすぐ一か月となる。
色々なことがあったがソフィは元の世界に戻れるかという不安など一切なく、別に戻れないのならこの世界で暮らしてもいいかなと思い始めていた。
「我には『レグランの実』があれば、別にこの世界で暮らしていける」
ソフィは街の中心付近のギルドの近くにある宿に、この前のクエスト報酬である銀貨三枚で連泊していた。
部屋は質素ではあるがベッドが備えられており、一通りそろってあり清潔なのでソフィは何の文句もなく過ごしている。
そして今日もまた買ってきたレグランの実を齧りつつ、ベッドでゴロゴロしていると部屋をノックする音が聞こえてきた。
「む、入ってよいぞ」
ソフィがノックに返事を返すと、この宿で働く若い従業員が部屋のドアを開けた。
「失礼します、ソフィ様。何やらギルドからの遣いだと申される方が、ソフィ様に面会を申し出ておられますが、お通ししても宜しいでしょうか?」
ここ最近リーネの誘いもあり、初クエスト以降二人でパーティを組んでクエストをこなしており、気が付けばランクEの120Pまできていた。
ソフィはもしかしたらランクアップの知らせがギルドから来たのかもしれないと思い、宿の従業員に面会の許可を出すのであった。
「それではお通しさせていただきますね」
若い従業員は恭しく頭を下げて部屋を出ていった。
そして数分後、ギルドからの使いというものが部屋に入ってきた。
「君がランクE冒険者のソフィ殿だな」
ソフィはてっきりギルド職員が入って来るのだと思っていたが、現れたのは腰に剣を差した冒険者の女剣士であった。
「うむ、そうだがお主は?」
「私の名前はサーリサ。冒険者ギルドからの命令を受けてソフィ殿に伝言を頼まれてきた」
ソフィは気づかれぬように『
【種族:人間 性別:女 名前:サーリサ 年齢:21
魔力値:104 戦力値:7795 職業:剣士 冒険者ランクD】
どうやら偽名というわけでもないし、ギルドから本当に遣わされたのだろうとソフィは判断した。
「ふむ、聞かせてもらえるかな」
見た目が十歳の子供でだいぶ偉そうな口調のソフィだが、サーリサは特に嫌な顔一つせずに頷いた。
どうやらサーリサという女性は、冒険者として相当に経験が豊富で些細な事には動じない性格のような印象をソフィは抱くのであった。
「ギルドマスターからソフィ殿に『指名依頼』が入っている。詳しくは明日の明朝5時にギルドに来てくれとの事だ」
「すまぬ。まだ冒険者になって日が浅いものでな。お主の言う『指名依頼』とは一体なんなのだろうか?」
ソフィには聞きなれない言葉があり、サーリサに聞いてみる。
「『指名依頼』とはギルドのクエスト等を通さずに、
「なるほど、ギルドのクエストとは関係がなく、ディラック個人が我に直接依頼をしたいというか」
「そういう事だな。まぁ『指名依頼』の報酬などは依頼主であるギルドマスターからお話になると思う。指名依頼は絶対に受けないといけないわけではないが、普段のクエストよりかはポイントの付与が大きくなるのでその辺は留意してもらいたい。以上である」
サーリサの口調は非常に分かりやすくハキハキして聞き取りやすいが、そこに感情は余り含まれず、淡々と話す彼女を見てソフィは、
「うむ、分かった。伝言感謝するぞ、サーリサ殿」
「礼には及ばない。これも仕事なのでな、それでは失礼する」
一礼をしてサーリサは部屋を出ていった。
「『指名依頼』というのは初めてだな。話を聞いてみないとわからないが、面倒でなければいいのだがな」
中断していた『レグランの実』を食べながら、そうソフィは呟くのだった。
翌朝、時間通りにソフィはギルドの門を開けた。
鍵が開いてはいたが、窓口なども締まり中は閑散としていた。
「おお、待っていたぞソフィ君」
部屋の奥からディラックが顔を出した。
「とりあえず部屋に入ってくれ」
ソフィが中に入ると、ディラックはコーヒーとレグランの実を出してくれるのだった。
「おお! 気が利くではないか」
「ふふふ、我がギルドの
そういってディラックは、レグランの実の横に
「むっ、これは?」
手に取り読んでみるとここからかなり離れた場所の地図と、その場所へ行く為のルート等が書かれている。
「実は今日君を呼んだのは、私から君へ直接依頼したいことがあってね。近々『ギルド対抗戦』が行われるのだが、その対抗戦にソフィ君も出場して欲しいのだ」
「ほう? 『ギルドの対抗戦』?」
「そうだ、このミールガルド大陸にある全てのギルドが参加する」
「それはそれは、かなりの猛者たちが出そうだな」
「うむ、我らのギルドも毎年参加はしているのだが、まだ一度も決勝トーナメントにすら進めた事がないのだ」
ディラックは非常に悲しそうな顔をしながら話す。
「そうなのか? 我から見れば、リーネなどは
リーネは冒険者ランク勲章はBで更に『忍術』で『姿』や『魔力』消すこともできる。
ソフィの居た元の世界の魔族や魔物を相手にするには、
ベア程の強さで指定魔物として数えられるのであれば、決勝トーナメントとやらには十分出場くらいは出来そうなものだとソフィは考えるのであった。
「いや、彼女は
「
「彼女はこのギルドの所属ではなく、別のギルドの所属の冒険者なのだ」
「それならば再度、このギルドに所属する手続きをすればよいのではないか」
当然の疑問をディラックに投げかけるが、彼女はこのギルドには所属する意思がないらしく断っているという。
「一度断られている手前、そう何度も勧誘するわけにもいかないしな。冒険者というのは、基本的に自由なものだ。何度も勧誘するのは、冒険者ギルドとしてはよくない」
「成程、確かに。では今このギルドにいる者で他に誰が出る?」
「この前に私の護衛をしてくれたニーア君と、ディーダ君が出る事になるだろう」
ニーアとは勲章ランクCの魔法使いである。
「あやつらか……」
ニーアは相手の魔力値も測れるほどの謂わば、ランクCに違わぬ中堅クラスであるのだろう。
しかし冒険者の平均がまだよくわからないソフィでも、優勝は難しいのではと思ってしまう。
「ギルド対抗戦の出場枠は三名。君が出てくれないとなると、冒険者ランクDの者から選抜することになるだろうな……」
「ディラックよ、このギルドにはランクAやBの冒険者はいないのか?」
ソフィはこの町に転移してきて一か月ほど経つが、リーネ以外のBランク以上を見た事がないのだった。
「数年前はランクAパーティも僅かながら所属していてくれていたのだがな。もう有名どころは別の町の冒険者ギルドへ転属してしまってな、情けない話だがここグランの町にはAランク冒険者はおろか、Bランク冒険者すらほとんどいない状態なのだ」
ディラックの話を聞いたソフィは、少し前にリーネが高ランク冒険者がこの町にはあまり居ないのだから、ソフィにさっさとランクを上げろと告げて来た事を思い出すのだった。
「ふむ、仕方ないな。他に出場する者がいないのならば仕方ない。我でいいのであれば出てもよいぞ」
ソフィの言葉にディラックは、喜色満面で口を開いた。
「おお! 出てくれるかソフィ君! よし指名依頼の報酬は、出来るだけ望みの物を出そう」
そういってディラックは胸を撫でおろしたのだった。
「それで対抗戦を行う場所が、この地図に書かれた町ということなのだな?」
「うむ『サシスの町』の近くまでは馬車の定期便が出るが、ギルド対抗戦が近い今は人が多く、混雑することが予想されるのでな。馬車で途中まで乗って、そのあとは歩いて行った方が早いだろうな」
「分かった。その辺はお主らに任せよう」
「参加してくれるのならば、数日後には町を出発してもらうことになるが、準備は直ぐに用意をしてきてもらいたい」
「いや、我は別にこのままでよいぞ」
予期せずにこの世界へ跳ばされてきたソフィにとって、荷物などは何も持ってはいない為、着の身着のまま何処へでもというスタンスであった。
「分かった。ではソフィ君が参加するという事は他の参加者たちにも伝えておく。また遣いの者を出すから、宿泊している宿などの場所を変えるつもりならば、また先に教えておいてくれよ」
「うむ、分かった」
……
……
……
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