第5話 Eランク冒険者と最強魔王

 外に出るとすでに騒ぎを聞きつけていたのか、大勢の人間達がソフィとEランクの男たちを取り囲むように集まっていた。


「おい、何があったんだ?」


 外に居た事情を知らない者がギルドの中から出て来た冒険者に訊ねると、どうやら中で様子を見ていたその男が口を開いた。


「ああ、あの子供が冒険者ギルドに登録しにきたんだが、横にいたあいつらがそれを揶揄からかい、馬鹿にするように笑った事で喧嘩になったんだよ」


「なるほどな。それにしてもあのガキも気持ちはわかるが、冒険者になりたいなら冷静になって相手をちゃんと見ねぇとな。あの男はDランク間近と呼ばれてる『両斧使いのジャック』じゃねぇか」


「ああ、可哀想に死んだなあのガキ」


 説明を行っていた冒険者の言葉に他の男たちも頷いた。


 周りに居た者達の中には、何とか助けてやろうと考えていた者も居たが、冒険者の説明に『使』という名前が出た事で、助けに行こうとしていた足を止めていた。


 どうやら両斧使いのジャックというのは、この町で相当になのだろう。


「おいガキぃ! 覚悟は出来ているんだろうなぁ?」


 一番最初にソフィに絡んで笑って来た男、両斧使いのジャックがソフィに斧を向けながら口を開いた。


「クックック、何の覚悟をすればよいのだ? ?」


 ジャックは鬼のような形相でソフィを睨みつける。


「て、てめぇ! もう許さねぇっ!」


 ジャックは左右に持つ斧を器用にクルクルと回した後、同時に振りかぶりながらソフィに向けて両斧を一気に振り下ろす。


 男の腕力は相当なものだと、見ている全ての者たちに感じられた。


 そして両手の斧にソフィの身体が叩き切られたかと思われたが……。


「な、なに……?」


 両斧はソフィの身体に当たったと同時に、刃が折れて砕けてしまった。


「クックック、あまり笑わせるなよ? そんな脆弱な武器で本気で我の体に傷をつけられると思ったのか?」


 そしてゆらりと、本当にゆっくりした動きでジャックの手を軽く掴んだ。


 ソフィは掴んだジャックの手をひょいっと軽く持ち上げると引力が空に向いているのかと思える程に、あっさりとジャックの身体が浮く。


 そのままソフィの頭上より高く持ち上げたジャックを


 ――ただそれだけだった。


 地面に叩きつけられたジャックは、ズドンという衝撃音と共に地面に埋まった。


 一部分が埋まるというものではなく、ジャックの体全身が地面を突き破って見えなくなる程までに埋められたのだった。


「なんだ? 軽く振っただけだったのだが……。お主しっかりと食べておるのか?」


「『えっ……!?』」


 ジャックと同時にソフィに攻撃を仕掛けようとしていた二人の男が、仲間が地面に埋まったのを見て、慌てて攻撃を止めてその場に固まる。


、まだ二人も残っておる。Eランクの実力とやらを我に見せてみろ!」


 ――だが、ソフィがEランクの実力というものを見ることはなかった。


 一人の男はソフィに顔を掴まれてそのままジャックと同じように地面に埋められてしまい、そしてその様子を見て逃げ出したもう一人の男を笑いながら追いかけた後に、背後から逃げる男の背中に飛び乗ってそのまま服の襟を掴んで空高く投げ飛ばした。


 そして意識を失って落ちてきた男の顔に合わせるように、地を蹴って空に浮かび上がるとそのままソフィは廻し蹴りを叩き込んだ。


 蹴り飛ばされた男はそのまま熊の魔物が居た森の方向へ飛んでいき、僅か数秒程で男の姿が完全に見えなくなった。


「む、少しやりすぎたか? しかしこれでは『』とやらの方がまだマシだったのではないか?」


 十歳程の子供がEランク冒険者三人を相手に圧倒する姿を見て、その場に居た者達が呆気に取られて言葉を失っていたが、という言葉を聞いていた一人の男が口を開く。


「お、おい小僧! ?」


 自分を取り囲んでいた数多くの野次馬の中に居た、一人の男の質問にソフィは言葉を返した。


「むっ? ああ、ここに来る途中の森で偶然遭遇してな。あやつも生まれたての魔物のようで、大したことはない奴だったが、まぁそれでもここに埋まっている男よりはまだマシだったな』


「な、なな……!? ギルド指定のCランク魔物モンスターの『アウルベア』を倒したですって!?」


 そう告げたのは質問した野次馬の男ではなく、窓口のギルド職員に呼び出されてこの場に現れた『グラン』の町のギルド所属の上層部の人間であった。


 ……

 ……

 ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る