2-8 謎の洞窟
「まあ、とりあえず。カイ君が本性を現したので万事OKですね」
鈴木はいつもの笑顔に戻ると急いでどこかへ向かってしまった。俺は困惑している二人の下へ向かった。
「なんかよくわからないことが起こったが、改めてよろしくな」
「何が何だか、もうさっぱりだよ」
握手を求めた俺の手に綾香は手を重ねてきた。すると、どこからともなく猿飛が大声を出し戻ってきた。
「何を呑気に握手しているでござるか。タッチでござる!!」
猿飛は綾香と俺に手を触れようとしたが俺は綾香を抱え、猿飛を躱した。
「猿飛。お前はいつまで鬼ごっこをするつもりなんだ?周りをよく見ろ」
猿飛はあたりを見た後、俺を見てきた。
「お主、カイ殿でござるか?」
「そうだが」
猿飛の質問に肯定した瞬間。猿飛は俺に向かって飛んできた。
「カイ殿がかっこよくなっているでござるぅ」
俺は飛び込んでくる猿飛の頭を抑えた。すると横から頭を叩かれた。
「ちょっとカイ。いつまでこの状態でいるつもりよ」
「ああ、忘れていた。悪かったな」
俺は綾香を下ろすと猿飛が俺たちに質問をしてきた。
「ちょいとよろしいか。先生殿はどこに行かれたのでござる」
「知らん」
その場にいた。全員が首を横に振った。
俺たちは先生が走っていった方向へ向かって歩いた。
「鈴木はいつもあんな感じのふざけたキャラなのか?」
「だいたいわね。でも時々変に真面目になる時があるけどね」
綾香は静かに後ろをついてくる桜の頭を撫でた。
「どうした?さっきから静かだけど。そんなに声を録られたことが嫌だったのか?」
「……」
桜は綾香の声に視線を動かしたが声は出さなかった。綾香はますます心配そうな顔になったが、それ以上は何も言わなかった。
あの時の鈴木はどこか変だった。人族のことはまだ分からないところだらけだが、あれは異常と言ってもよかった。それに声を録られてからの桜の様子にも違和感があるな。もしかしたら何かを隠しているのかもしれない。
俺たちは校舎から離れ、勇者学園の近くにある山に着いた。
「たしか、こっちのほうに走っていったよね」
「確かな。ここら辺に何かあるのかもしれない」
相変わらず静かにしている桜の肩を叩いた。
「おい。本当に大丈夫か?」
「大丈夫です」
桜はようやく声を出したが、全く目を合わせようとはしなかった。
「お三方!!こちらへ来るでござる」
山の頂上辺りから猿飛の声が聞こえてきた。俺と綾香は目を合わせると、綾香は桜をおんぶし、走り出した。
山の頂上に着くと猿飛がこちらに手を振っていた。
「こっちでござる!!できる限り静かに来るでござるよ」
静かに来いと言っているお前が一番騒いでいるように感じるのは俺だけなのか?
疑問に思い綾香を見るが、特に何も感じていないようだった。
「ここを見るでござる。誰が何のために掘ったのかは、わからないでござるが明らかに最近作られたものなのは確かでござろう」
猿飛は足元にある、人ひとりがやっと通れるような穴を指さした。
確かにこの土の具合から見て猿飛の言った通り、最近できたものだろうな。
「俺が先に様子を見てくるから三人はここで待っていてくれ」
猿飛は不満げな顔をしたが、綾香が何とか説得したようだった。
「それでは、行ってくる」
俺は二人に手を振り、体に保護魔法をかけ穴を落ちていった。
穴の中は真っ暗で何も見えなかったが、少し薬品臭かった。
なんだ、この匂いは何か研究所があるのは確かだろうな。
俺は、壁を頼りに真っ暗な穴を進んでいった。前を見ても後ろを見ても真っ暗でどこから来たのかすらわからなくなってきた。
これは非常に危ないな。とりあえず進むしかないな。いづれ何処かに着くだろう。
しばらく暗闇を彷徨うと微量だが声が聴こえてきた。
「あ……は……はは……やっぱ……いいな……」
この声は聞き覚えがあるぞ。多分、いや確実に鈴木だろうな。あいつはここで何をしてるんだ?
声がする方へ近づくにつれ、洞窟は整備された施設に変わっていった。その奥黒いローブを来た鈴木が立っていた。
「おい、鈴木。生徒を置いていったい何を楽しんでいるんだ?」
俺は、壁に片腕を預けた状態で、一人でニヤけている男に声をかけた。
「あれ?カイ君ではないか。ここまでどうやってきたんだい?」
鈴木は勢いよく振り返り、俺を確認すると笑顔に戻った。
「俺が先に質問したと思うのだがな」
俺は、ため息をつきながら鈴木に近づいていった。
鈴木は手のひらをこちらへ向けてきた。
「カイ君。ちょっとそれ以上は近づかないほうがいいよ」
鈴木は焦った顔で俺に止まるよう言ってきた。
「そんな顔されるとますます怪しいな。いったい何をしていたんだ?」
俺は、鈴木を追い込むように近づいていった。
鈴木は俺が止まらないのを確認するとスイッチが取り付けられている壁際に走って行った。
そんなところに走ったところで何も変わらないと思うのだがな。
俺は焦らずゆっくり近づいて行った。
鈴木がスイッチを上げると、洞窟の光が消えていく。
「ふぅ、もう大丈夫。早くこっちへおいで」
鈴木は汗を拭うジェスチャーをすると俺を読んだ。
俺の体が、施設内に入ったのを確認すると、鈴木はスイッチを下ろした。
「そのスイッチはいったいなんだ?」
俺は鈴木の操作していたスイッチを指差した。
「ああ、これかい?実はね。最近、害獣がよく校内に侵入してくるもんだからそれを殺すためのレーザーを出しているんだ。あと少し君が早かったら。バンッ!!だったろうね」
鈴木は手で何かが弾ける動きをすると、笑いながら近づいてきた。
「どこも怪我していないかい?うんうん。大丈夫そうだね」
「そんな事より、いったい何をしていたんだ?」
鈴木は、懐からマイクを取り出すと拡声器に取り付けた。
「聴けばわかるよ」
鈴木がボタンを押すと、拡声器から桜の声が聞こえてきた。
「ああ、なんて綺麗な声だろうか。君もそう思うだろう」
「なるほど。気持ち悪いな」
鈴木は桜の声を聴くのに夢中で俺の罵倒すら聞こえていないようだった。
「校内って言っていたな。もしかして、そこから学校に入れるのか」
鈴木は人差し指を口に当てると、階段を指差した。
静かに階段から出ていけ。ということだろう。どこまで桜の声が好きなのか。よくわからないな。
俺は急ぎ足で学校に戻り、山へ向かった。
「待たせたな」
綾香と猿飛が穴の近くに立っていた。俺の声を聞くと驚いた顔をして走って近づいてきた。
「穴の中で。桜見なかった?」
綾香は今にも泣きそうな顔をして聞いてきたが、あいにく心当たりがなかった。
「桜がどうかしたのか?」
綾香は俺の言葉を無視し、森の中を駆け出した。
「実はカイ殿が穴に入ったあと、拙者と綾香殿、二人でどうするか話していたのでござる、その時桜がいないという事に気づいてな。それから綾香はあの状態なのでござるよ」
「なるほどな」
俺は、先程桜の肩を触ったときにつけておいた保護魔法から魔力を探知し、桜の居場所把握した。
「綾香。少々落ち着け。桜の居場所がわかったぞ」
俺が桜と行った瞬間、綾香は物凄い勢いで戻ってきた。
「桜の居場所がわかったの?」
「ああ、あそこらへんだ」
俺は魔力を感じる方向を指差した。
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