1-30 三人の女

 朝から街中に花火の音が轟いた。

 外を見ると魔王城立魔王育成専門学園の上空には色鮮やかで様々な形をした花火が打ち上げられていた。

 その光景は朝日と花火の相性が良くつい見惚れてしまうほどだった。

「花火綺麗ですね」

 いつの間にか隣にいたカミュが声をかけてきた。その言葉はいつもとは違う声のトーンだった。

 こんなカミュは珍しいな。変態でも見惚れる時は見惚れるのだな。

「確かに綺麗だな。対抗戦の始まりを告げるに値する華やかさだ」

「そうでした。今日から私達は敵同士でしたね」

 カミュは人一人分ほどの距離を取った。

「なんで離れるんだ?」

「だって、闇討ちされる可能性が…」

 俺は思わず笑ってしまった。

「なぜ俺がお前をわざわざ闇討ちする必要があるんだ。それにその距離では俺が本気を出したら全然足りないぞ」

 俺とカミュは珍しく大声で笑った。


 俺たちは第一演習場へと集まっていた。

「今日から皆が待ち望んでいた学年別対抗戦だ。それぞれの学年一位に輝いたものが一週間後に開かれる全学年対抗戦へと駒を進めることができる。全学年対抗戦には魔王様など絶大な権力を有する方々もお見えになる。そんな方々に実力を認められた暁には何かあるかもしれないな。皆検討を祈っているぞ。一位を目指して頑張ってくれたまえ」

 バリモ学長による学長の言葉が終わると魔法で作った拡声器からアナウンスが流れる。

「それでは十分後に学年別対抗戦第一試合目を始めます。出場する生徒は所定の位置に移動してください」

「ほら早く行くわよ。二人とも」

 ニアが俺とピカトルを急かす。

「ニアさん。そんなに急いでも始まる時間は変わらないんだよ。ゆっくり行こうよ」

 朝に弱いのか眠気まなこでピカトルが口を開く。

「俺もピカトルに賛成だ。急いだところで何も変わらないからな。それに俺たちの試合はここで行われるんだぞ。大丈夫か?」

 珍しく焦っているニアに対し確認を取る。

「えっ!?本当だ。自分でも気がつかないうちに緊張していたのかもしれない」

 彼女はそういうと大きく伸び深呼吸をした。

「大丈夫だ。俺たちなら万が一、いや億が一にも負ける事はないだろう。そんなに気負う必要などない」

「わかったわ。考えてみればこのクラスにはカイがいるんだものね」

 ニアは笑顔を向けてくる。

「そうだよ。ニアさん全部カイくんに任せればいいんだよ」

 ピカトルは相変わらず眠気まなこだった。

「まあ、いざとなったらピカトルを盾にすればいいだろうからな」

「ちょっとそれはひどいんじゃない」

 軽く冗談を言い合い笑っていると反対側から嫌味が聞こえてきた。

「っけ!Sクラスの皆さんは御気楽でいいですね〜」

「ほんとにね。才能に恵まれた人は羨ましいわよ」

「うんうん」

 対戦相手の女三人が俺たちに聞こえるように嫌味を言い放つ。

 ニアが小声で声をかけてきた。

「あの人達むかつくわね。私一人で相手してもいいかしら?」

 ニアはプライドの高い努力家だからな。先程の才能どうのこうのが気に食わないのだろうな。あいつらの魔力を見てみたがそこまで高いようでもないみたいだし、大丈夫だろう。

「俺は構わぬ。どうせピカトルも許すだろう。存分に戦ってこい」

 俺は立ちながら寝ているピカトルの頭に手刀を叩き込みながら許しを出す。

 ちょうど開始のアナウンスがなる。

「これから学年別対抗戦一年生の部。Sクラス対Dクラスの試合を行います」

 俺たちは戦闘開始戦へ移動する。

「開始!!」

 俺とピカトルは邪魔にならないところまで移動して腰を下ろした。その行動に観客席からはブーイングが飛び交った。

「あなた達の相手なんて私だけで十分よ」

 ニアはブーイングの嵐に負けないぐらいのはっきりした声で言い放つ。

「っけ!俺たちを舐めてるのか」

「そうみたいね。いくらSクラスだからって舐めすぎよね」

「うんうん」

 そういうと、魔法陣を描く。

「「「火炎ファムナス」」」

 三人は同時に魔法を放つ。

 さすがクラス代表に選ばれるだけはあるな。個々の魔力は取るに足らないが息は凄く合っている。

獄炎ファムナリス

 ニアの放った魔法と三人が放った魔法が衝突する。

「なかなか息は合っているみたいだけれどそれだけでは私には勝てないわよ」

 ニアは魔法陣を展開する。

槍炎ファムレンス

 無数の炎の槍が三人の眉間目掛けて放たれる。全弾命中し爆煙が三人を包み込む。

 ニアのやつ、あそこまで制御できるようになったのか。あいつも成長しているんだな。だが、それだけではあいつらは倒せないようだな。

 爆煙が薄くなり中心にいた三人が姿を表す。しかしどこにも負傷しているようなところは見られなかった。

「ニアのやつ驚いているようだな。少しは成長したようだが魔眼はまだまだだ」

「そのようだね。それにしてもあの子達すごいね。あの歳で魔力融合させられるなんてそうそういないよ」

 さすが、ピカトルだ。こいつはあの三人のカラクリに気付いているようだな。個々は取るに足らないが融合させる事でニアよりも魔力を大きくしている。魔力融合は二人だけでも難しいのだがな。それを三人でやってのけるとは素晴らしい才能の持ち主のようだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る