1-28 学年別対抗戦〜最後の一人〜
俺は勢いよく抜こうと力を入れたがピクリともしなかった。
毎度毎度魔力を出さないといけないというのがめんどくさいな。
白い魔力を放ち、剣に触れると勢いよく抜けた。勢いのあまり尻餅をついてしまった。
起き上がり、手に握りしめたボロボロの剣に目を向ける。ボロボロの剣は俺の魔力を吸い取ることで聖剣へとその姿を変えていた。
なるほど。魔力を送って初めて聖剣となるのか。しかし先代の持ち主はよくこれを使ってドラゴンと戦っていたな。必要とする魔力量が尋常ではないぞ。
俺は、近くに鞘が無いか探したがそれらしいものは見当たらなかった。仕方なく
早く帰らなければ明日の学年別対抗戦に間に合わなくなるな。
俺は
城を飛び出し、商店街を抜け階段を上がっていく。すると後ろの方で何かが崩れる音がした。振り返ると今来た道が塞がっていた。
聖武具を持ち出すと遺跡に戻れなくなるのか。忘れ物には気をつけないとな。
洞窟を抜けると森へ出た。太陽は沈みかけており、夕暮れ時を告げていた。
俺は
自室のドアの前に立った瞬間、勢い良く眼前のドアが開いた。すると部屋からカミュが飛び出してくる。
「やっぱり、教官殿でしたか」
「やっぱりとはどういう意味だ?」
彼女は鼻をクンクンし始める。
「教官殿の匂いがドアの向こうからしてきたんですよ」
こいつの嗅覚はあの狼たちといい勝負をしそうだな。
俺は苦笑を浮かべ部屋へ入る。
部屋は汗臭く頭がくらくらした。
「カミュ、トレーニングをしたあとは窓を開けてくれ。この匂いを嗅ぐと頭が可笑しくなる」
「すみません。今開けます」
彼女はすれ違う瞬間、含み笑いを浮かべていた気がした。
俺は学園に向かい歩いていた。今日は珍しくニアが待ち伏せていなかったので久方ぶりにゆっくり登校することができた。
教室へ入ると、生徒全員が何かを待つように静かに座っていた。
俺は隣の席のニアに質問した。
「なぜ、今日はこんなに静かなんだ」
「今日、学年別対抗戦に出場する最後の一人がフォン先生から教えられるのよ」
ニアは緊張しているのか僅かに震えていた。
「大丈夫だ」
「本当?」
ニアは僅かに顔を傾けた。
「本当だ。最後の一人が誰になろうとも俺がこのクラスを優勝に導いてやる」
「あっそ」
ニアは表情筋を壊し無表情になった。
急に無表情になったな。ニアの考える事はよくわからないな。
チャイムがなるとフォンが教室へ入ってきた。その手には箱が収められていた。
「それじゃ、最後の一人を決めるよ」
箱を教卓へ置いた。
「これに当たりくじが入っています。そのくじを引いた人が最後の一人になります」
ラフクスが手を上げた。
「なんですか?ラフクス君」
ラフクスは立ち上がる。
「すみません。どうして最後の一人がくじ引きなんですか?」
「それはですね、カイ君とピカトル君以外は正直、実力が拮抗しています。なので残りのメンバーから一人を選ぶ事が難しいんですよ」
「だからってなんでくじ引きなんですか」
俺とピカトル以外は異議ありと言いたげにラフクスの言葉に賛同している。
「拮抗しているからこそ、最後の一人は運が良い人を選ぼうかなと思ったんですよ。ほら運も実力の内といいますしね」
フォンの顔は一見笑っていたが、内側からは真逆の感情が溢れ出しているように感じた。
ラフクスはフォンの圧力に負け口を閉じると自分の席に座った。
「それでは、皆さんくじを引きに来てください」
ニアたちは前へ移動し始める。
「引いてもまだ中を見ないでくださいね。せっかくなので一斉に見ましょう」
生徒たちはくじを引き終わるとそれぞれの席に戻っていく。
「これでみんなですね。それじゃあ、開いてみてください」
全員が勢い良く引いた。すると教室に声が響いた。
ニアは右手を上げている。その手には印が書かれた紙を握っていた。
「やったー!!私が最後の一人のようね」
ニアは俺を指差した。
「約束を覚えているでしょうね?カイ・グリアムズ。後で顔を貸しなさい」
「すまないが、約束を覚えていない」
「覚えているか、覚えていないかは関係ないのよ。約束した事は事実なんだから」
お前が覚えているのか聞いてきたのではないか。おかしなやつだな。
「まぁ、何かを約束したのは覚えているからな。後で約束を果たしてやる。むしろ今でも構わないぞ」
「後でいいわよ。バカ」
ニアは顔を紅くし睨みつけてきた。
「はーい、盛り上がっているところ悪いけど学年別対抗戦で対戦するクラスを発表するわね」
彼女は手を鳴らす。
「このクラスと対戦するのは一年Dクラスです。選ばれた三人は頑張ってくださいね」
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