夏の永遠

@anko37564

夏の永遠

暑い、真夏の放課後、

カーテンは重く気だるい熱風になびき、ゆるやかに教室を光が照らし出す。

私たちは、ずっと夏の放課後から抜け出せずにいた。

いつの頃からかはもう思い出せない。時計は止まったままだが、

もう考える事にも疲れるほどの時間が経過しているのは確かだった。

ごろりと床に寝転がる。

世界がぐるりと反転して、夕焼けによって縁どられた天井と蛍光灯ばかりが見える。聞き飽きたセミの死に際の声。

断末魔。うっとうしい。いい加減黙って欲しい。

纏わりつくような熱をもった床が背中を温める。

ぼんやりと熱い息を吐き出して、手で額の汗を拭った。

「ねえ、外出てみようか」

寝転がったわたしを覗き込むようになおがそう言った。

その顔はこのクソ暑い中にもうんざりするほど楽しそうで、

それが私を笑顔にするために長い時間の中で貼り付けられたものだという事を考えると余計に背中が暑くなる。

私は彼女を見ると、笑顔にならずにいられない。

「暑いから嫌」

わたしは諦めたようにじんわりと口の端を上げて笑った

「だよねぇ」

なおは私と同じようにごろりと床に寝転がる

はぁ…熱い息を一つ吐いて、また吸う。

「はは…はははっ」

私は無性におかしくなってきて、笑った。そのうちになおも一緒に笑い転げた。

涙が出たけど、それが汗かどうかももはやわからなかった。

夏しかないこの世界にも、夜はあった

毎日毎日、夜が来るたびに、屋上で二人で星を見た。

いつ見ても飽きなかった。

果てしないほど遠くの星たちは、いつだって変わらず涼しい笑顔を放っている。

なおは星を眺めながらゆっくりと真面目な顔で言った。

「明日は、きっと秋だよ もう夏は終わり」

「そうだね、きっと」


次の日、起きたらそこには何も無かった。

なおは、どこにもいなかった。

ただ茹だる様な熱風だけが、変わらず存在するばかり。

セミの声もしない、埃にまみれた自分の体、そして穴だらけの教室。

砂埃を運ぶ風が私を包み、長い夢を見ていたのだということをゆっくりと思い出させた。

なおは…わたしの姉だった。

数年前の事件で、世界は跡形もなくなった。

地軸が歪み、季節は夏を残してどこかへ行った。

あの日学校にいた私たちは、唯一生き残ったが、

もともと体の弱い姉がこの世を去るのは遅くは無かった。

私たちは、ずっとここにいた。

永遠に終わらない夏の中で、幾度も幾度も星を見た。

綺麗な星の中に、たくさんの夢を見た。

セミの声すらしないこの世界で、私はもう死ぬつもりだった。

終わらない夏の中で、星の一つになって。

私は、重い校舎の門を押し開け、外に出た。

夏は、きっといつか終わるものだ。

そうしたら、秋が来て、春が来る。

私は生き続けよう、埃まみれになっても。

その日が来るまで。

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