第6話 部活の後輩のためにライジング

 ゴールデンウィーク4日目。


 今日も立花来るのかなぁと思いながら、パソコンを立ち上げカタカタプロットの完成した短編を文章にしていく。


 昨日よりも軽快に積み上がっていく文字数に気をよくしながら書いていると、またしても制服姿の立花がとなりに座った。


 おれが無言で会釈すると、立花もぺこりと頭をさげる。


 それからは互いに干渉することなくそれぞれの作業に没頭する。


 たまになんとなくとなりを見てみるのだが以前のように長時間詰まったりする様子はなくすらすらと解いている。見た感じ数学はやっていないようだったから数学が特に苦手なのかもしれない。


 その日は集中力の切れたおれが先に帰った。帰り際も、会釈のみで特に会話はしなかった。


                       ☆


 ゴールデンウィーク5日目。


 きのう、久しぶりに物語を書いたからだるかったので、少し遅れておれはスタバに行く。


 おれはまたしても定位置に座り、カタカタ書いたり読書したりする。


 キリのいいところまでラノベを読んだところで、またしても短編を書くべく気分転換がてら店内を見回すとちょうど飲み物を買った立花が席を選んでいるところだった。おれのとなりは例によって空いているが、他にも空席はある。


 ひっそりと立花がどうするのかうかがっていると、立花はおれのとなりをちらりと見た後、別の席に座った。そして勉強を始めた。


 ほんの少し寂しさを感じながらおれは自身の作業に集中する。


 しかし、昨日かなり進捗を生んだことに対するうぬぼれとか、となりに立花がいない理由などを考えたりしてしまってあまり集中できなかったのでおれは早々に帰った。


                       ☆


 ゴールデンウィーク6日目。


 となりが空席のまま、おれがノリにノって登場人物たちの会話を生成していると遠くからこんな会話が耳に届いてきた。


「勉強してんのー?」

「あ、は、はい・・・・・・」


 軽薄な声に続くのは、静かで優しい声。


 立花の声である。


「あ、おれさー、塾講のバイトしてんだけど、よかったら教えてあげよーか?」

「あ、え、あ、い、いえ・・・・・・だいじょうぶです・・・・・・」


 おれがそちらに視線をやると、遊んでそうなクソが立花にしきりに声をかけ困らせていた。話しかけられるせいで勉強が捗らないようだが、話しかけてこないよう言うことも、席を変えることも立花はしない。


「あ、そだ。よかったらおれとLINE交換しない?」

「え、あ、え・・・・・・?」

「いや、ほら、勉強分かんなかったりしたら聞いてきていいからさ。ね?」

「え、あ・・・・・・」


 スマホを片手にぐいぐい、迫ってくる軽薄なクソに立花はどうしていいか分からずおろおろと眉尻を下げる。


 それに軽薄なクソは構うことなく一人で喋る。


「はは、いやまあマジのこと言っちゃうとさ、キミってかわいいからさ。仲良くなりたいんだよね」

「えっと、その・・・・・・」

「うん?」


 かわいい、と言われてぽっ、と頬を染めた立花に、にやりとわずかに口角を上げるゴミ。


 ・・・・・・猿め。


 もう少し脳内のピンクを垂れ流すのを我慢できないのか。あるいは、それができるからゴミクソになのか。


 まあ、どうでもいい。


 分かりやすく迷惑そうにしている立花に気づいているのかいないのか、ぐいぐいと迫り続けるゴミクソ底辺におれは舌打ちをして、執筆中の短編を上書き保存すると、立ち上がった。


 ・・・・・・いや、上書き保存はしっかりするのかよ。

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