【短編】ナパールム

@anko37564

ナパールム


ナパールムは、不思議な女の子です

体は油のように半透明で、心臓の部分には丸い種のようなものが見えます

頭にはタコの足みたいに、ながーくのびるぬたぬたした髪の毛 かわいい

スーパーアイドルの彼女は、毎夜

「儀式」に出かけます

大きな火を囲み、たくさんの人が集まる中で

ナパールムは大好物のラーメンを食べます

周りにいる銀色の重そうな甲冑に身を包んだ祭祀たちが、仰々しい姿に似合わない現代的なカメラを構えて、ナパールムの姿をおさめるのです

ナパールムは、恥ずかしくて、熱くて、暑くて

苦しくて 真っ赤になっていきます

すると、体から、だんだんとどろどろとした

油のような液体があふれ出してきます

やりすぎると、ナパールムは溶けて死んでしまうので、加減が大事です

仕事が終わり、真っ赤になったナパールムを冷やすのは、水道人間のシズです

頭も手も蛇口になってます

目も口もないツルツルのイケメンでした

シズはナパールムにいつも優しくしてくれるので、嫌いではありませんでしたが、シズの冷たすぎる水はナパールムの体を冷やしてかちかちに固めてしまうので、苦手でした

とけだした油は、大事に集められて

高級食材 ナパールムの油として、世界中の人が口にすることになります

祭祀たちは歓声を飲み込みながら、ひたすらナパールムが顔を真っ赤にしながらラーメンを食べる姿をカメラにおさめていきます

この写真は、専属モデルをしている雑誌「牛脂」に載せられます。

料理人や、牧場主など、

様々な人が見る、大人気雑誌です。

ある時彼女は、雑誌の取材にきていたライターの男の子

エンくんに恋をしてしまいました

しかし、なんと彼は真っ赤に燃え盛る炎の子どもだったので、

ナパールムは、近づくだけで 真っ赤になってどろどろになってしまいます

ナパールムは、彼のことが好きでしたが

一緒にいるとどろどろに溶けてしまうので、近づくことを怖がるようになってしまいました

しかし、難しいもので エンくんは、そんな彼女を心配してか、やたらとナパールムに話しかけたり、近づいてくるので、ナパールムは困ってしまいました

そして、ついにエンくんは

「どうして僕を避けるんだい?

僕は、君のことが好きなんだ」

と、言って ナパールムを抱きしめました

自分のことしか考えてないバカでした

ナパールムは、熱くて苦しくて、悲鳴をあげそうになりましたが、もう大好きなエンくんに包まれて死んでもいいと思ってしまいました

二人ともバカでした

しかし、気がつくと ナパールムは冷たくびしょびしょになって、目の前にいたエンくんも 黒い灰のようになって煙を吐くだけでした

「大丈夫ですか ナパールムさん!」

偶然通りかかったシズが、二人に水をかけて

消火してしまったのでした

ナパールムは、

ぼーっとして 何も答えませんでした

それからと言うもの、ナパールムは文字どおり火が消えてしまったかのように 仕事をするにも、何をするにもやる気がなくなってしまいました

エンくんの火が消えたように、ナパールムの火も消えて、冷たくかちかちに固まってしまったみたいです

シズは、ナパールムを心配して 世話を焼いてくれるけど、シズは何かある度に冷たい水をナパールムにかけるし、そもそも体が冷たいので

ありがた迷惑でした

小学校とかにある、水しか出ない昔の蛇口です

ナパールムは、

仕事のたびに 大きな火を見つめているようになりました

エンくんのことを思い出していたのかもしれません

シズは、蛇口を針金でぐるぐる巻きにして、

水が出ないようにしてしまいました

ナパールムにはどうでもいいことでした

ナパールムは、ある儀式の日に、ついに真っ赤な火に飛び込んでしまいました

ナパールムの油を喰らい、すさまじい火柱が立ち上ぼります

熱い!

甲冑姿の祭祀たちは、このままだと、自分たちが熱くて死んでしまうので、甲冑を脱いで涼しくなってから消火をするか、どっちにしようか考えて慌てふためきました

こんな時こそシズの出番です!

しかし、シズは水が出ないように針金でぐるぐる巻きになってしまっていたので、水が出せませんでした

シズは、意を決して火の中に飛び込みました!

しかし、凄まじい火はどろどろとシズの体を溶かし、その熱さは

来るな!と、自分を拒む

ナパールムの瞳のようでした

消防隊がたどり着いて消火が済んだときには、もう ナパールムは溶けて、消えていました

溶けてぐちゃぐちゃの蛇口になったシズは、

涙すら流せませんでした

溶けて消えてしまった、ナパールムの跡には 火種のようなものが落ちていました

それは、ナパールムの心の種が 死の間際に、エンくんと一つになったものかもしれませんでした

ナパールムの死は、しばらくの間世間を賑わせましたが、次第に誰もが忘れていきました

シズは、ナパールムの種を持ち帰り

燃え盛る活火山の麓に埋めました

シズは、火山の姿に あの日、自分を焼いた炎のような瞳を思い出します

火山の爆炎に焼かれ、真っ赤な鉄が、ぽたりぽたりと、火種に流れ落ちます。

シズは、もはやわかりませんでした

死してなお、彼を拒むようにナパールムの火種は赤く、赤く燃え続けます

火に当てられたあの日から

シズにはわからなくなってしまいました

自分の行いが何をもたらすのか

彼が恋しているのは、もしかしたら

この火山のように

みずからを焼いたあの破滅的な炎そのものなのかもしれません

ついに シズは、活火山の中に飛び込んで

どろどろに溶けて死んでしまいました

哀れに思った神様は、シズを、銀色の美しいランプに生まれ変わらせました

神様が、シズのランプの中に、ナパールムの火種をそっと入れると、安心したように

火種は、美しい炎を芽吹かせたのでした

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