良子ちゃんと私
私は眼を覚ました。
きょろきょろと周囲を見回す。
だが、ここがどこなのかは解らぬ。
景色に色はなく、また形も安定していないようだ。
私は、そこに頭から突き刺さっていた。
場面が変わる。
私は城にいた。
其処はとても脆く、やはり形が安定しない。
ああ、何て不安定なのだ。
それでは、それでは駄目なのだ。
城が崩れる。
私はすっかり埋まってしまった。
しかし、すぐに助け出されるのだろう。
場面が変わる。
穴を掘っている。
道具は私の頭である。
幸い、私の頭は硬いため大事はない。
場面が変わる。
トンネルが開通したらしい。
喜ぶ声が聞こえる。
私の視界はぶんぶんと揺れる。
よほど嬉しいのだ。
ああ、良かった。
私は嬉しい気持ちになった。
それから暫くして。
「良子ちゃん」
大人の女の人の声である。
「帰りましょう。お父さんが待っているわよ」
良子ちゃんはお父さんが大好きだ。
だからとても喜んだ。
あまりに嬉しすぎて、手に持っていた私を放り投げてしまった。
私は泥に顔から突っ込んだ。
何も見えなくなった
「あらあら。お人形が――」
「あっ……」
良子ちゃんは私を助け出し、顔を拭ってくれた。
とても優しいのだ。
そんな良子ちゃんが、大好きである。
ああ、私が喋れたいいのに。
それなら、もの知りの私は、良子ちゃんに言ってあげられるだけれど。
生き物の命の尊さ(彼女は小さな虫を見つけると、私を投げて潰してしまうのだ。だから頭から泥の中につっこんでしまって、おとこぶりが少し下がってしまった)。
お城の作り方(水を掛けすぎなのだ。だからすぐに崩れてしまう)。
私の頭でトンネルを掘らないように(はげたらかっこ悪いではないか)。
そして。
知らない人にはついていってはいけないのだと(その女性はお母さんではない。良子ちゃんのお父さんの愛人なのだ。彼女はもう既にお母さんを殺害していて、これから良子ちゃんを殺そうとしているのだ) 。
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