第24話 愛理さんの恋心

 由希子さん達の謹慎が明けたら、すぐに夏休みが来た。

 部活は、たまにあるくらいだ。本当に、バイト三昧だったんだなと思う。

 夏休みは、午前中は学校。午後から友達が集まってくる、里沙さんと早苗さんは、塾があるときはここには来ないけど、春の騒ぎが嘘のように過ぎていく。


 庭の花々は相変わらず、咲き乱れていた。

 僕が気にしすぎているのだろうか、だけど僕自身はこの洋館の外に出るとひどく疲れるようになっていた。


「ふ~ん。じゃあ、今日は塾の日なんだね」

 今日は愛理さんと由希子さんの二人だ。

 どうしよう……里沙さんが来ると思って大量に作ったお菓子。

 愛理さんは食べないだろうし、由希子さん一人じゃあ無理だよね。

 飲み物を出して、適当にお菓子を出した後、二人をリビングに残して冷蔵庫の整理を始める為にキッチンに入った。

 なんとか傷みそうなお菓子は入ったけど……クッキーは常温で良いよね。

 一応、テーブルに出しておこうか、食べるかも知れないし。


 僕はクッキーを持って、リビングに戻る。


 なんだか、変な光景が目に入った。

 多分、由希子さんは寝てしまったのだろう。座ったままテーブルに突っ伏している。

 由希子さんの癖で、そんな寝方をしているときは必ず顔をどちらかに向けている。


 見間違いじゃ無ければ、愛理さんはそんな由希子さんに覆い被さるようにして、口の近くにキスをしようとしていた。

 キスをする直前で、僕が入って来たことに気付いたようだった。ゆっくり、こっちを向く。

 その目は、僕を睨んでいた。手でさらっと由希子さんの頬にかかっていた髪をのけて

「由希子、勉強するんでしょう? 起きて」

 愛理さんは、何事もなかったかのように、由希子さんを起こした。


「あっ……。私、寝ちゃってた?」

 由希子さんは、ちょっとボーッとした感じで起きた。頬を自分の両手でパチパチ叩いている。

「起きて勉強するのなら、顔を洗ってきたら?」

 僕は、テーブルに近付いてクッキーをおいて、由希子さんに言う。

「あ、うん。じゃ、ちょっと行ってくる」

 パタパタと由希子さんは、洗面所に行ってしまった。

 

 本当は、このクッキーを出したら自分の部屋に戻るつもりだったのだけど、僕は椅子に座った。

「何か言いたいことがあるんじゃないですか?」

 怒ったように愛理さんが言ってくる。

「友達……だと、思っていたけどね」

「ハッキリ言ったらどうなんです。女同士でおかしい……とか」

 まっすぐ、僕を見据えてくる。愛理さんは本当に強いね。


「異性同性以前に、相手の了承も無いのにああ言うことをするのは、どうかと思うよ?」

 愛理さんが、言葉に詰まったのがわかった。

「僕は、保護者だからね。由希子さんに不埒な真似をすると言うのなら、考えるけど」

 パタパタと、由希子さんが急いでこっちにやって来ている。

「ごめんね。お待たせ、愛理」

 さっ、課題やってしまおう……と、由希子さんは椅子に座り教科書を見だした。

 愛理さんは一瞬僕を見たけど、教科書に目をおとす。


 僕は、一度部屋に戻り、暇つぶしの本を持って降りて椅子に座った。

「あれ? 伸也さん、ここにいるの?」

 由希子さんが訊いてきた。

 愛理さんと二人の時は、お役御免とばかりに二階に上がっていたから。

「うん。里沙さん達が来た時もそうしてたよ。勉強も教えられるところは教えていたから」

「ふ~ん」

 由希子さんはそう言って、そのまま勉強に戻っていった。


 愛理さんは、何か言いたげに僕達のやり取りを見ている。

 僕は由希子さんの前で、この話をする気は無かったから、本を読む振りをずっとしていた。

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