第14話 牧野先生との話し合い

 早朝に愛理さんは、迎えに来た家族と自宅にもどり。由希子さんは、いつも通り学校へ行かせた。

「君らは子どもで、部外者だからね。いつも通り学校へ行きなさい。

 愛理さんも、ご両親の言う事に従うんだよ」

「伸也さんだって、部外者じゃ無いですか」

 そう言う愛理さんに、僕が溜息交じりにぼやいて見せた。


「逃げられるものなら、僕も逃げたい。

 立場上……仕方無く、だよ。話し合いの場を提供してくれと言われたからね」

「なんでここで、話し合うようになったのですか?」

 愛理さんの疑問はもっともだ。僕も、そう思う。だけど……

「早苗さんのご両親が配慮してくれたんじゃないかな。

 僕を逃げ口上に使われたとき、本人がいなかったら、言われ放題だからね」

 二人とも、よく分からないって顔をしていた。分からないならその方が良い。

 子どもには、あまり聞かせたくない話だ。

 早苗さんは当事者だから仕方無いけど。




 午前中……9時くらいかな。

 双方がそろったのは、早苗さんとその後両親、当事者の先生と学園長。

 それぞれに、僕に挨拶をしてきた。

 僕は、サロンの方に案内をし、紅茶とちょっとつまめるようにクッキーを出す。この状況では、誰も食べないだろうけどね。



「僕は特に斉藤さんとだけ、親しくしてたわけじゃ無く。

 他の生徒にも雑用を手伝ってもらって…………」

 牧野純一と言ったか、要は先生と生徒以上の関係から逸脱した覚えはありませんと言っている訳か。

「だいたい、平日は下校時間には学校を出ていたわけでしょう?

 その後の時間のことは、僕とは……関係無い」

「ですが、複数の生徒からうちの子と二人で準備室から出て来たと……」

 僕は、チラッと早苗さんを見る。早苗さんは、うつむいて震えていた。

 やれやれ、僕は何でここにいるのだろう。


「牧野先生……わたし」

 双方の平行線をたどる話し合いに、たまりかねたように早苗さんが口を開く。

「僕の子じゃ無い。お腹の子が僕の子だって証拠でもあるのか」

 牧野先生は、そう言って僕を見る。

「あいつの子じゃないのか? 斉藤、お前ここによく来ているそうじゃ無いか。

 あいつとの子を僕に押しつけようと……そうか。そうだよ。だから、話し合いもここで」

「先生。そんな、……ひどい」

 早苗さんは、自分のためというより僕のためにひどいと言ってくれている。

 女性は強い……というより、僕らが強くさせてしまったんだな。


 牧野先生の方を見た。僕には牧野先生を責める資格は無い。

 僕も、千代さんに同じ事をした。僕の子を妊娠した千代さんを守ることも出来ず、手放してしまった。

 こんな醜態しゅうたいをさらさなかっただけで、この男と僕の何が違うのか……。


「別に……僕の子。ということにしていても、かまわないけど。

 たとえ、お腹の子が産まれても君が父親じゃ幸せになれないだろうし」

 僕は、牧野先生の方を見てそう言った。過去の僕に言いたいセリフだけど。

「ほら、見ろ。認めたじゃ無いか」

「伸也さん?」

 早苗さんは信じられないと言う顔で、僕を見ている。

 僕は少し笑って早苗さんの方を向いた。

「大丈夫だよ、早苗さん。昔と違って今はDNA鑑定というものがある。

 誰の子かは、一目瞭然だ。僕と君は、一度たりともそう言う行為はしてないからね」

 牧野先生はギョッとした顔で、こちらを見ていた。顔が青い。少し身体が震えているか。


「ど……どういうつもりで……」

「別に、僕はどうこうしないよ。早苗さんは、僕の養い子の大切な友達だ。

 できれば、あまり傷付けないで欲しいとは思うけど」

 早苗さんは、僕の方をじっと見る、僕にはこんな事くらいしか言えないけど、優しい気持ちで、早苗さんを見た。

 本当に、これ以上傷付かないで欲しいと思いながら……。

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