第11話 真夜中の訪問者 1

「どうしたの? こんな夜更けに……」

 二人を見て思わず訊いてしまったけれど、外は小雪が舞うほどの寒さだ。

 黙ってしまっている二人に部屋に入るよう促す。

「寒かったろう? 取りあえず中へ。今、暖炉に火を入れるから」

 自分たちの部屋には、普通に暖房を入れている、だけど、一階はリビングの暖炉で暖を取るようにしていた。

 暖炉の前のテーブルに二人を案内する。


 暖炉に火を入れ、二人と由希子さんにも暖かいホットミルクを入れてあげる。

「もう、真夜中だから紅茶よりこちらの方が良いと思って」

「ありがとうございます」

 愛理さんが皆を代表するようにお礼を言う。

「それで、何があってここに来たの?」

 僕の問いに早苗さんはビクッとした。それを庇うように愛理さんが言う。


「お願いします。かくまってください。

 ……何度考えても頼れる大人が、あなたしかいなかったんです。

 お願いします。早苗を追い出さないでください」

 愛理さんは、必死な顔で僕に懇願してきた。珍しい……というか、初めてだ。

 愛理さんが、僕にこんな顔を見せるのは。


「事情を説明して貰えるかな。由希子さんも何か知っているよね」

「先に事情を知ってたら、入れて貰えないと思ったから。早苗さんの親に連絡しないで欲しいの」

 由希子さんも、僕に懇願してきた。


「どんな事情でも、未成年を保護者の同意無く泊めると犯罪になるのだけど……」

 溜息交じりに僕は言う。警察が入って来たら厄介だ。

 どういう仕組みか、魔法なのか、僕は現在を生きていることになっているけどね。本当は、どうなっているのか分からない。

 愛理さんは、僕を睨んでいた。


「分かりました、もう良いです。夜分にすみませんでした。

 早苗、行こう」

 愛理さんは、早苗さんを椅子から立たせて玄関に行こうとしてた。

「どこに行こうって言うんだい。具合の悪そうな早苗さんを連れて」

「どこに行こうとあなたに関係無いです」


 関係無いねぇ。確かに関係無いけど……もしかしたら、早苗さんは

「こんな寒空に歩き回らせて、流産させる気なのかい。君は」

 確証も無く単にカマをかけただけなのだったけど、当たりみたいだ。

 由希子さんはギョッとした顔で、愛理さんからはまた睨まれたけど、僕は早苗さんに言う。

「身体に障るよ。産むにしても、堕ろすにしても流産よりはマシなはずだ。座りなさい」

「はい」

 早苗さんは、小さな声で僕に返事をくれた。

「ちょっと待ってて」

 僕は、そう言うと二階から使ってない毛布を持って来て早苗さんの身体を包む。

「寒いからね。少しは暖かいかな?」

「はい、ありがとうございます。伸也さん」

 早苗さんは、力無く笑ってお礼を言ってくれた。

「さて、事情を説明して貰えるよね。どうしてこんな事になっているのか」

 由希子さんと愛理さんは、口をつぐんでしまった。

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