僕の追憶 ~過去のあやまちと彼女たちとの生活~
松本 せりか
第1章 過去のあやまちと彼女たちとの生活
第1話 丘の上の洋館
頭の中で、断片的な父の言葉が再生されている。
『身の処し方は、分かってると思うが……』
僕は……何を間違ってしまったのだろう。
『ここまで愚かとは思わなかった、お前の所為で、松平の娘は正妻になれなくなってしまったんだぞ』
僕が、不幸にしてしまった愛しい人。
『相手方は、お前のことは許せないそうだ。
彼女を遊郭におとしたくなければ……』
僕は、手の中にある薬をジッと見ながら、僕は最後の願いを言った。
『春まで待って頂けませんか、お父さん。どうせなら花咲乱れる庭を見てから……』
願い通り庭の花は咲き乱れる。僕は、その中にたたずむ千代さんの幻を見た。
深い眠りに……暗闇に記憶が溶けていく。
千代さんは、幸せになれるだろうか……。
『お願いです。お願いします。どうか……。私たちの子どもを助けて下さい』
だれ……だ、僕の眠りを妨げるのは……。
『約束通り、あの子を。由希子を救って』
約束……約束の?
暗闇から引き摺られるように僕の意識が覚醒する。今はいつなのだろう……。
遠くで電話が鳴っている。
電話……一階か。僕は、気だるい身体を引き摺りながら階下に降りた。
「はい。桜井です……はい。
ああ。手続きの書類が出来たのですね。ええ。
松平さんもその条件で……ええ、分かりました。一週間後ですね。
では、そちら……松平さんのお屋敷に伺います」
そう言って僕は電話を切った。
ふと見るとテラスの向こうで、花が咲き乱れている。
締め切ったままでは、少し暑苦しいと思いガラス戸を開けた。
不思議だ。本当に……。壊れているはずの呼び鈴が鳴り。
無いはずの電話を使っている。僕名義の通帳も何の支障も無く使えた。
昔、ここは華族の別邸だった。『丘の上の洋館』なんて呼び名があったと思う。
でも、あの頃はこんなにデタラメに色々な花が、咲き乱れたりしていなかったはずなのだが。
ここは、本当に……時が止まっているような気がするよ。
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