第104話 世の中は広いなぁ……
「朱雀は討伐しましたよ?」
俺は遅刻してきたギルマスにそう伝える。
「うむ、予想より早い復活で出遅れてしもうたわっ! お陰で──全員二日酔いだっ! それでもあいつらは向こうでアンデット共を蹴散らしているっ! 厄災はおらずとも──国の危機にかけつけるっ! 我らの冒険者の誇りを見せつけてやるわっ!」
めっちゃ、後半良いこと言ってるんだけど、前半部分で全てが台無しになっている……。
まぁ、向こうでは戦闘が継続しているから人手があった方が助かるが。
「ちなみにあいつは厄災を復活させた組織の一員です。そして、呪われた攻撃をして来るから────攻撃を受けないように」
ギルマスに俺は簡潔に情報を伝える。
もう限界だ。魔力が段々練れなくなってきている。
ギルマスなら対応出来るだろう。なんせ抑えて戦ったとはいえ────ジョンとセスの3人で相手をしてもピンピンしていたからな……。
ギルドでやり合った感じだと、かなり強いはずだ。
「うむ、情報感謝っ! お主は休むが良い。後は我らに任せぃ! ──婆さん、時間稼ぎしてくれ……ぬぅ…おぉぉぉぉぉっ!」
ギルマスは力を溜めるような感じで、その場から動かなくなる。
って、婆さんが時間稼ぎするのか!? 大丈夫なのか!?
ふと、婆さんがいた場所に視線を戻すと────
「やれやれ、人使いが荒いねぇ〜」
そこには婆さんはおらず、若い女性が呟いていた。
俺は正直、混乱している。
「婆さんどこ行った!?」
俺は消えた婆さんを探す。
「失礼な坊やだねぇ、私がその婆さんだよ」
いや、あんた婆さんじゃねぇじゃん!?
「婆さんは年老いた人の事を言う……」
俺は冷静に突っ込む。
「しつこいっ! 私がその婆さんだと言っとるだろっ! それに淑女に対して婆さん婆さん煩いっ! 私の名前はサディ! 聖王国──元十傑のサディじゃっ! 次婆さんって言ったらすり潰すぞっ!」
自称婆さん──いやサディが手を動かすと、俺は体が宙に浮き、投げ飛ばされる。
いったい何が────
それに──元十傑?! そういやジョンは新顔とかシバが前に言っていたな……この人が抜けたのか!?
「お前らが誰でも構わなねぇぇぇぇっ! 俺に呪われろぉぉぉぉっ!」
男の禍々しい現実化したオーラがサディに襲いかかる──
当たる! そう思った瞬間──オーラは歪み────当たらず、逸れる。
今のは何だ!? 何かがあのオーラに干渉した?
「まだまだ若いもんには負けんねぇ〜。ほれほれっ」
サディは攻撃に移る。
手を動かすだけで────男は宙に浮いたり、地面に叩きつけられたり、転がされたりされていた。
「さすが婆さん……相変わらず、魔力の使い方が上手いな……」
ギルマスが呟く。
魔力ってそんな使い方出来るのか……って──
────あんたは何してんの!?
そのギルマスはさっきより──両足を広げて屈み、両脇を締めて──まるで立ったまま便を出すような格好をしていた。
「さっさと充電しなっ!」
サディがギルマスに叫ぶ。
充電? 力を溜める事が出来る恩恵でも持っているのか?
「もう……少しで……出せそうだ……」
真剣な戦闘中なのに──顔を真っ赤にしてる顔と言葉を聞いていると本当に便が出そうなんじゃないかと思ってしまう……。
そんな事を思っていると──
「な……める……なぁぁぁぁっ」
男は更にオーラを出し──サディの魔力攻撃を無効化した。
「やれやれ──時間は稼いだよ。行きなっ」
「応っ! 充電完了じゃぁぁぁぁっ!!! ──俺の必殺────正拳突きじゃぁぁぁぁっ」
俺は聞いて思った……それは必殺技ではないと。
だが──ギルマスが動いた瞬間、俺は驚愕する────
俺が赤闘気を使っている状態の速さで動いた──
そこから繰り出された正拳突きは──
男の鳩尾に当たり──鈍い音がする──
ガギンッ
「吹っ飛べやぁぁぁっ」
攻撃をまともに受けた男はそのまま後方に凄まじい勢いで吹き飛ばされる。
……世の中は広いなぁ……冒険者でもこんな強い人がいるんだな……。
男が吹き飛ばされた跡は地面がえぐれて、かなり遠い所まで続いている。その光景を唖然と見詰める。
「平和は守られたっ!」
ギルマスは満足そうにする。
「疲れたわい……」
サディは婆さんの姿に戻っていた……。
「……助かりました……ありがとうございました……」
俺はなんとか、この声をかけるが──その言葉が精一杯だった。
俺の心の中は戦闘が終わった安心感と────
なんなんだよ、あの変態な速度は!? まるで便を出してスッキリしたような顔するなよ!
それに何で婆さんが若返るんだよ!? 若返る恩恵でも持っているのか!?
────と、つっこみの嵐になっていたからだ。
とりあえず、ギルマスとサディさんは異常だという事はよくわかった。
そんな俺にギルマスは声をかける。
「うむ、遅れてすまなかったな……」
「そうですね……でも、俺達はギルマスのお陰で助かりましたよ」
俺は皆を一瞥する。
アルステラ王国のアンデットは男が吹き飛ばされた後に動かない死体に変わった為、皆はその場に座り込んでいた。
確かに早く来てくれてたら朱雀戦も、もう少し楽だったかもしれない……だけど、ここにいる人達が無事なのは──このギルドマスターのお陰だ。
被害は甚大だし、人もたくさん死んでいるが────誰も知ってる人間は死んでない。それだけで十分だな……。
女神の信託は回避できたか────そう安心した時────
「レオっ!!!」
アナスタシアが父さんに寄り添いながら大きな声をかけてくる──表情は芳しくない。
「どうしたんだ?」
「父君の傷が治らないっ!」
しまった──父さんは最初に攻撃を庇って受けていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます