第101話 朱雀討伐と役目

「全員────死ぬなっ! 触れると死ぬぞっ! 避けろっ!」


 俺は皆を声をかけ、一瞥する。

 死を受け入れる者、足掻く者、呆然としている者、一矢報いようとする者────皆表情は様々だ。



 特大の火球に三日月鎌鎖を持ち────



 凄まじい熱気の中、俺は火球に向かって行く──



 赤闘気で膜が張られている為か、そこまで熱くはない。


 俺は両手で鎌を握り──離れた場所から斬撃を飛ばしまくる。



 斬撃は火球を切り刻むが────直ぐに元の火球に戻る。


 斬撃はそのまま通過している。



「ちっ、効果無しか────」



 至近距離になった火球に向かい鎌を横薙ぎに振り────接触する。


 先程の斬撃と違い、鋭利に赤闘気を纏っていない為、火球と鎌の力は拮抗し──衝撃波が周りを襲う。



「ぐぅぅぅっ」


 俺はなんとか吹き飛ばされず、その場に踏みとどまる。


 ここで、これを止めれなければ────全滅だっ!



 俺は視線を下げて周りの状況を確認する。



 朱雀から無尽蔵に飛び出す白い火球────おそらく当たれば普通は即死だろう。



 既に消耗して戦えないワルキューレを中心に九尾が弾き防御する。


 アナスタシアは斥力を使いながら動き回り、父さんは黒気を纏い避け、セスは影を移動し──バランは大槌で弾き返す。


 ジョンは闘気を全力で纏っているものの──稚拙。


 イレーネも水を展開しながら回避するも焼け石に水状態。


 ステラ、クリスもかろうじて避けてはいるが、なす術がないようだ。


 ザックは吸収を使いながらイザベラを守っている。



 時間の問題か────



 ちっ、赤闘気の膜を熱量が上回ってきたか……。



 俺の体から肉の焼けた臭いがしてくる。



 命を削る赤闘気でさえ押し留めるのが限界……九尾なしでは無理だな。



 残り4分────



「纏衣【鎖】」


 俺は纏衣を使う──


 黒鎖が俺の腕に絡みつき────周囲を鎖が浮遊する。



「全員、一ヶ所に集まれえぇぇぇぇっ!」


 俺の声に反応し、逸早く動いたのはアナスタシアだ。引力を使い────全員を一ヶ所に集めてくれる。




 残り3分────



 一ヶ所に集まった事を確認し──


「全員、防御を全力でしろおぉぉぉっ!」


 俺は纏衣で展開している鎖を皆の近くに全て移動させ────囲む。


 囲み切る前に──アナスタシアと目が合う。


『必ず守る』


 俺は届かないとわかりつつも、そう口を動かす。



『信じてる』


 そう答えてくれた気がした。



 そして皆が鎖に覆われ見えなくなる。



 白い火球は半円状の鎖に目掛けて当たり続ける。



 厳重に囲んだ鎖は────たとえあの白い火球であろうと、俺の大切な人達を守ってくれるはずだ。



「九尾っ、この目の前の火球をなんとかしてくれっ!」


 コクコク


 九尾もやる気満々? だっ!



 九尾は特大の火球目掛けて巻き付いて行き────



 ────特大の鉄球が出来上がった。



 クイクイッ



 九尾が鎖で上向きの矢印を作りジェスチャーする。



 上に打てって事か!?



 俺は鎌を下から救い上げるように構えるが────


 その時────白い火球が俺に向かい襲いかかって来た。



 俺は赤闘気の放出を強め──ダメージを受けながらも──



 刃の反対側の棒部分を鉄球に向けて渾身の一撃を放つ!



 ガギンッ



 鈍い音と共に鉄球は凄まじい勢いで────上空目掛けて打ち上がる。



 鉄球が小さな塊に見える頃────爆発する。


 かなり遠い所で爆発したが、余波が地上まで襲ってきた。



 残り2分────



 これで──残りは朱雀のみ────



 俺は白い火球を避けながら、一瞬にして間合いを詰める。



『ギュルルルルッ』


 鳴き声と共に魔力が朱雀の中で膨れ上がる────まさか自爆か!?



 だが──俺の方が一足早いっ────



「チェックメイトだ──



 恩恵【吸魂】を使いながら三日月鎌鎖の外刃を向け────勢いそのままに一刀両断にする。



「キュルル──」


 朱雀の最後は可愛いらしい鳴き声で迎えた。


 火の粉が俺の周りに散る────



 これからは



 俺は赤闘気、纏衣を解除する。


 残り1分か……。


 なんとか間に合った……。




 一安心した所で──吸魂が発動する──


 朱雀の残した火の粉が俺に向かって来る。



 朱雀がに入ってくる────



「────!? ぐぅ──がぁぁぁぁっ」


 その瞬間──俺は今まで感じた事のない激痛が体を襲う。



 俺はその場でのたうち回る。



「レオっ!?」


 纏衣によって出来た鎖のドームが崩れ────そこから出て来たアナスタシアが俺に駆け寄り、膝枕をし、癒し手を発動する。



「「若っ!」」


 俺の状態に気付いたジョン、セスが続けて走り出す。


 いや、お前らは来なくていい。


 俺は激痛の中、視線で訴えかける。


 2人の足は止まった。


 通じたようだ。



 ──現在アナスタシアに膝枕をして貰っているからなっ!


 何人たりとも邪魔はさせぬっ!




 アナスタシアの顔を見上げると──


「レオ……信じてたよ?」


「あぁ、信じてくれて、ありがとうな」


 そう話しかけて来てくれる。


 信じてくれて事が嬉しく思えた。



 アナスタシアの癒し手により、少しずつ痛みが弱まっていく────



 俺は心地良くなって──目を瞑る。



 これで──厄災のは完了だ……。


 奥の手を使って、やっと朱雀を倒す事が出来たが、最初からこれでは先が思いやられる。


 だが──アナスタシアの解放の目処は立った。


 目的はあくまでアナスタシアの救出だ。


 俺の役目が例え────だったとしても目的は変わらない。


 師匠からも、自分の為に行動しろと言われている。神の爺さんの思惑通りに動くのは真っ平ごめんだ。


 厄災は生贄による封印でしか対処が出来ない。


 誰かの犠牲の上に成り立つ平和────それも束の間の平和だ。


 誰かがやらなければならない事……しかも死なない俺は1番の適任だろうな。


 自己犠牲感が半端ないが、それまでの厄災ぐらいは予行練習のついでだと思っている。


 皆と笑顔で過ごす為には必要な事────そう割り切るようにした。



 だが未だに役目に選ばれた理由がわからない────師匠から聞いた理由だけで納得出来るわけがない。何か他にもあるはず。


 いつか──確認を出来るならしたい。



 頭の中で思考が迷走する。




 しばらく時間が経ち──



 ────やっと、痛みが引いてきた。


 だけど、体が上手く動かないな。


 これは赤闘気の副作用か──あれを使うと魂に負荷がかかる。


 魂に関しては────超回復では回復しない事は修行で確認済みだ。


 しばらくまともに動く事が出来ないだろう。死ぬのが前提の技だし──仕方ないか……。


 師匠が5分しか使うなと言うのも頷ける。


 5分を過ぎた事はないが、過ぎれば──おそらく魂の修復は困難──もしくは不可能なのかもしれない。








 俺は遠くで見守っている皆を見る。



 俺達2人を温かい目で見守ってくれている。



 戦闘時間にしたらそんなに長くないが────とても中身が濃くて疲れた。



 俺はアナスタシアの膝枕されたまま声をかける。



「指輪壊れたし、新しいの買いに行こうな」


「うんっ!」


 俺達は2人目を合わせ笑顔になる。



 アナスタシアの視線が俺の頭に移る。


「レオ……髪の毛が一部白くなってるよ?」


「そうなの? どんな感じ?」


「メッシュが入ってるみたいになってる。格好良いよ?」


「ふふっ、そうか──ならいいや」


 髪の毛が一部白くなったのか……なんでだろ?


 そういや、冒険者達いなかったな……間に合わなかったのかな?



 それも今はどうでもいいか……。



 まぁそんな事より────疲れた。



 アナスタシアに包み込まれ──とても気持ちが良い……このまま眠ってしまいたい────



 俺は目を瞑る────

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る