第102話 信託の言葉──
俺の瞼が落ちる瞬間────父さんと一緒にいた外套の男が俺の視界に入る。
男は剣を片手に俺とアナスタシアのいる方向に走り出して来ていた。
あの剣はヤバいな────おそらく父さんの呪鎖と同じで呪われている気がする。
「きゃっ」
奴が俺に迫る前に──起き上がり、アナスタシアの腕を掴み後方に引っ張る。
剣が俺の胸元に刺さる瞬間、父さんが俺とアナスタシアを庇い、前に立ち──後ろ姿が目に入る──
「────ゔっ……」
──父さんの苦悶の声と共に腹部から腰辺りにかけて剣が貫通していた。
「なんのつもりだ、てめぇ────」
父さんは血を流しながら問う。
「ちっ、この裏切り者が──邪魔をするなっ! こいつは俺達の脅威になる────今始末する」
剣を父さんから引き抜き、俺に剣を向け──始末すると言う。
「させると思うか?」
父さんは呪鎖を放つが──俺と朱雀との戦闘で魔力も闘気も尽きかけているし、出血もある為ふらふらだ。
男は鎖を回避し、ふらつく父さんに接近し────剣を突き刺そうとした時に──
俺は父さんに鎖を伸ばし、絡めとってこちらに引き寄せ────アナスタシアと共に後ろに下げる。
「────ちっ、めんどくせぇ親子だな」
吐き捨てるように言う男は────土魔法のアースニードルを俺に放つ。
当たると思った瞬間に2人の影が入り────アースニードルを破壊し、俺を守ってくれた。
目の前にジョンとセスの2人が構えて立つ。
「「若っ」」
今、俺は弱体化している────父さんの事も気掛かりだ。こいつらに頼むしかない……。
「お前らはもう部下じゃないが、もし俺を──「「いつまでも貴方と共にっ!」」──!? ──ありがとう──少し時間を稼げっ」
「「御意」」
「アナスタシア、俺はもういい。父さんの治療を頼む」
腹部から血が溢れ出ている父さんをアナスタシアに任す。
俺は三日月鎌鎖を支えに立ち上がる。
魔力も闘気も問題ない────だが赤闘気の副作用で上手く錬れない。特に闘気は使おうするだけで激痛が襲ってくる。出力はいつもより落ちるが──魔力であればなんとかいけるか……。
顔を上げると────ジョンとセスが外套を羽織った男と戦闘を繰り広げている。
ジョンはなんとか闘気を、セスは纏衣【影】を纏っている。
「おらぁぁっ! 若の貴重な時間とるんじゃねぇよっ!」
ジョンは体術で相手の攻撃を捌きつつ、拳に込めた属性魔法で相手を翻弄しているが────当たる気配が全くない。
というか、俺の時間はそんなに貴重じゃない。
「とっとと捕まれ、このどアホがっ! わいらは早く若と話して、もう一度────部下にしてもらうんやっ! おどれは手土産やっ!」
セスは影を自在に操り、捕まえる為にジョンの攻撃の合間に合わせているが、こちらも当たる気配はない。
そして、お前らまた部下になる気なのか?! お前ら国の所属違うだろ!? しかも目の前の敵が手土産か!?
しかし、2人とも満身創痍だ……攻撃にキレが全くない。あの男の持っている剣も気になるし、強さもまだよくわからない。
やられるのも時間の問題かもしれない。
くそっ……情けない……。
────女神ノルンも言っていたじゃないかっ!
『人的に引き起こされますので、敵は厄災だけだと思わない事です』
『一つ目の厄災の時────出会いと別れがあります。それは貴方の縁ある者』
朱雀を討伐し────完全に油断して忘れていた。
前者は間違いなく、目の前で戦っている敵のこいつだ。
後者の出会いは間違いなく────父さん、ジョン、セスの事だろう。
なら、別れは?
重症度から父さんが脳裏を過る。
────父さんは確かに貫通するぐらいの傷を受けたが、今の所、アナスタシアの表情はそこまで深刻なものではなかった……。
ジョンとセスのどちらかが命を落とす?
いや、まだわからない──女神ノルンが言っていたのは予知ではあるが、確定した未来ではないはず。
そうでなければ信託と言い──俺に伝えたりしないだろう。
誰か……死ぬ?
せっかく会えたのに?
まだ全然話せてないのに?
────絶対にそんな事はあってはならないっ!
身体強化魔法を使う────
闘気程ではないが、まだ使える──かなり痛いが────そんな事知ったこっちゃないっ!
また────失うわけにはいかないっ!
未来は俺が──いや、俺達が必ず掴み取るっ!
纏衣【鎖】を発動し────男のいる場所に鎖を発生させ、絡めとろうとするが、その場から離脱して距離をとる。
なんとかギリギリ発動出来たが、体の内から激痛が走る……。数え切れないぐらい死んで痛みに慣れたつもりだったが──ここまで常に痛みを感じるのは久しぶりだ。
だが、泣き言など言ってられないっ!
「俺に合わせろっ!」
「「応っ!」」
俺の掛け声に2人は振り返り、勢い良く返事をする。
戦闘中なのに、こっち振り向くなっ!
ったく、こいつらは……だが──懐かしい……。いつもそうやって俺を気にかけてくれていた。
今世でも会い、そして──今度こそ守ると言ってくれる……こんなに嬉しい事はないだろう。
俺の胸が確かに熱くなるのを感じた。
だが、俺だって同じ気持ちだ。2人とも死なせはしないっ!
三日月鎌鎖を強く握り────男と向かい合う。
「さぁ、行くぞっ────」
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