第98話 晴天

 俺達は朱雀のいる場所に向かい疾走している。


「父さんっ! 急ぐぞっ!」


 俺は闘気を纏い全力で走る────



「おぅ……って──お前速すぎるだろっ! ──俺を置いていけ。必ず追い付く────」


 父さんは俺との戦闘でかなり疲労しているのだろう。朱雀との戦闘も考慮し、父さんは黒気は使わず、闘気だけを纏っている。あまり使いこなせてないせいか、俺より遅い。




「────わかった。後で会おう」


 俺はそう言い残し、父さんを置いて先に向かう。



 俺の左手に嵌めている絆の指輪がふと目に入る。


 宝石部分に亀裂が入り────宝石は激しく黒く点滅していた。



 アナスタシアに危険が迫っている──急がなければ────



 トップスピードを維持しながら俺は炎の海に向かう。




 ◆◇◆◇◆



『ギュルアァァァァ』



 しばらくすると、大きな燃え盛る鳥が鳴きながら空高く飛び上がる姿が見えた。



 あれが────朱雀か……魔力量が凄まじいな。


 あれを俺がしなければならないのか……。



 俺のを思い出す────



 ……ちっ────怖気ついている場合じゃない──アナスタシアがあそこにいる!



 足を止めるなっ!


 必ずアナスタシアを────解放するっ! 


 後の事など知った事か!


 これは────だっ!



 俺は全力で再度走り出す。



 皆が戦っている場所──朱雀の元へ。



 その時────朱雀は高く舞い上がるのを辞めて、空中で止まり────下を見据える。




 後──約500m────


 朱雀は急降下し始め──地上から遠距離攻撃を受け始め、多少速度が弱まる。




 後──約400m────


 多少勢いが弱くなり、近付いた所を──近距離攻撃で足止めし、朱雀の勢いが止まる。




 後──約300m────


 止まったタイミングを見逃さず──バランの会心の一撃が朱雀を吹き飛ばし──アナスタシアの収束されたレーザーがなぎ払う。




 後──約200m────


 朱雀の魔力は一瞬消えるが────再度高まり、その場を衝撃波が襲う。


 アナスタシアは皆を守る為にその場から挑発しながら離脱する


 俺の速度は衝撃波と熱風により、鈍くなる────



 間に合わないっ────



 俺は空を見上げる──



 空には衝撃波が無い────



 俺は一連の穿通鎖を放ち────



 ──三日月鎌鎖を右手に持ち、左手から黒鎖を放出する────




 後────100m──もう少しだっ────


 朱雀の高密度の魔力が口に収束され──ブレスの用意が整う。



 アナスタシアは目を瞑り──その場から動かない────



 朱雀のブレスが放たれ──アナスタシアに迫る────



「アナぁぁぁぁっ!!!」


 俺はアナスタシアに向かい──声を張り上げる。


 その声に気付き──俺の方を見る。その顔は涙を浮かべ──最後に俺の顔が見れて良かったと思わせるような安堵の表情だった。



 そんな顔するんじゃねぇよっ!



 ────アナスタシアのいた場所が炎のレーザーにより線上にあるあらゆる物は全てが消し飛ぶ────



 ──間一髪、アナスタシアは攻撃が当たらず空中にいる。


 先に伸ばしていた鎖はブレスが襲う前にアナスタシアに到着し、腹部に巻き付け────俺のいる空に向けて全力で引き寄せた。



 ギリギリだった事に、俺の頬に一雫の汗が流れ落ちる。


 そのまま────アナスタシアを俺のいる場所まで引き寄せると──



「レオ……」



「アナ……」



 空は地上の炎の影響はない──



 青色に染まっている中、雲が所々ある空中で────



 ────2人の視線は交わる。




 アナスタシアは顔を見て名前を呼び、心底安堵した表情をし────頬を染めて見つめてくる。


 俺も名前を呼び、見つめ返す。俺は間一髪助けれた事に安堵し、笑顔になる。



 そのまま、俺の胸元まで引き寄せ────抱きしめる。


「──遅くなった────」


 アナスタシアの表情が安堵から悲しそうになり、第一声は遅くなった事を謝ろうと言葉を紡ぎ出すが──


「遅いっ! もうダメかと思った……二度と会えないかと……」


 言葉を途中で遮られ、涙を浮かべ、より一層悲しげな表情をする。



「すまない……けど────アナが頑張ってくれたお陰で、父さんを正気に戻せたよ。後で紹介するね?」


 俺は精一杯の笑顔で感謝の意を伝える。



「む〜っ、そんか顔ずるいっ! 後で絶対ご褒美貰うからね?」


 頬を膨らませ可愛く怒るアナスタシアに俺は胸が温かくなる。



「あぁ、もちろん。だから────さっさと厄災なんか討伐しよう────」


 俺は視線を下に移すと────下は火の海が広がり、戦闘が継続していた。


 皆は、空中にいる朱雀と健闘はしているが────決定打に欠けるようだ。



「アナ──鎖の上に立てるか?」


「──うん、磁力で固定するから大丈夫だと思う」


「なら、他にもいくつか出しておく。俺はちょっと今から焼き鳥を退治しに行ってくる──」



『きゅるぅぅぅっ』



 朱雀がこちらに気付き──



 空に向けて炎の矢を連射してきた。



 三日月鎌鎖にありったけの闘気を込めて────



 全力で横薙ぎにし──炎の矢を吹き飛ばす。



 俺の攻撃の勢いは止まらず、そのまま朱雀に向かう。



 攻撃は最大の防御だ────くらえっ!



『ギュルアァァァ』


 朱雀に俺の斬撃は当たり────悲鳴と共に落下していく。



 さぁ──討伐の時間だ────

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