第94話 想いの一撃

「────さぁ、行くぞっ!」


 俺は殺傷力の高い三日月鎌鎖は出さずに右手に蛇腹鎖、左手に八岐の舞を────そして九尾を呼び、白いオーラ……闘気を纏う。



「昔の俺と思うな────」


 父さんは既に展開していた無数の鎖を俺に向けて来る──


 ──俺はそれを八岐の舞で捌いていく。



 父さんの鎖は俺程、制御が出来てはいない。鎖の制御では俺の方が上手──


 ──そう思っているし、実際に父さんの鎖を俺が絡めとっている。



 だが……一筋縄では行かない──そんな確信が俺にはあった。


 そして、その懸念の瞬間が訪れる。



 俺の鎖が侵食されたかのように動かなくなり────が俺を襲う。



「ちっ」


 全く制御が効かない。これがあの禍々しいオーラの効果なのか!?


 即座に八岐の舞を消し────穿通鎖を父さんの胸に放つ。


 最高速度の穿通鎖は音速を超える。



 これならと──思った瞬間俺は目を見開く。


 父さんから黒いオーラが出たと思った瞬間、軽く躱されてしまった。



 そして──そのまま父さんは目の前から



 ガギンッ



 俺の背後からそんな音が聞こえてきた。


 即座に振り向くと──父さんは剣で俺を突き刺そうとした所を、九尾がガードしてくれていた。



 以前に聞いていた話と全然違う事に俺は焦りを感じた。


 かつてミア達を逃がした時はジョンと変わらないぐらいの強さだったと聞いている。


 それが今では、強くなった俺が、一瞬とはいえ視認出来ない速度で動き──攻撃された。


 いったい何が起こっているんだ? それにあの黒いオーラはいったい……。


 セスが発動したのは固有魔法だと言っていたが────父さんが発動したのは何だ?



「さすがだ──だが、それぐらいは予想済みだ────呪鎖──」


 その言葉と共に放たれる鎖はさっきより禍々しいオーラを放ちながら俺の周囲に迫る──


 ──それらを五月雨を使い弾き返そうとしたが……お互いの鎖が接触する度に俺に変化が訪れる。


 体の動きが鈍くなった気がした。


 確か──父さんは呪鎖と言った。



 まさか──状態異常の鎖か!?


 さっき、俺が視認出来なかったのも著しく低下した身体能力のせい?


 鎖魔法は固有魔法──それは想いの魔法……呪いと呼んでもおかしくない力が宿るぐらい──父さんの心は病んでしまっているのかもしれない。



 なんとかしなければ──



 ちっ──まずいっ!?



 色々な思考が巡っている間に九尾も動かなくなり──俺の四肢に呪鎖が絡みつく。



 このままでは無力化されてしまう────殺傷力が高いとか言ってる場合じゃないっ!


 三日月鎌鎖を出し────闘気を全開にする。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ」


 俺の雄叫びと共に三日月鎌鎖を回転させ、四肢の呪鎖を破壊し、逃れる。



「やるな……」


「はぁはぁ……」


 今ので疲労感が俺に襲い、息切れを起こす。



 体力が大分持っていかれたな……。


 しかも鎖に触れるだけでアウトなのが厄介だ。


 それにあの黒いオーラが何なのか全くわからない──



 ──っ!?


 休む間も無く、次々と四方八方から迫り来る呪鎖。


 俺はなんとか鎌を使いながら捌くが、触れる度に体力が削られ──体が鉛のように重くなり、意識が朦朧としてくる。



 このままじゃ、意識が持っていかれるな。



 俺は鎌の刃を自分の胸に突き刺す──



「──レオンっ、何を!?」


 初めて父さんが感情を表に出す。


「──このままじゃ、やられそうだったからね。仕切り直しさ──さぁ続きをやろう」


 死んだ事により、状態異常も解除され、力が漲る。



 俺の自殺行動に驚いたという事は────まだ手遅れじゃないっ! きっと父さんの心はまだ死んでないっ!



 俺は再度、闘気を纏い────闘気を込めた鎌を横に振り抜き、呪鎖を吹き飛ばす。



「これ以上は呪鎖も無意味か──【黒気】──」


 先程より黒いオーラの密度が上がり──俺がなんとか視認出来る速度で接近する。



 速すぎるっ! 【断罪】シオンの超強化ぐらいの速さじゃないのか!?


 俺は父さんの近くに黒鎖を発生させるが──先程と同じように呪鎖により防がれるが次の手を使う。



「行くぞっ──爆鎖──」



「──ぐっ……まだだ──」


 爆鎖の言葉と共にさせる。


 その結果、爆裂音が響き渡り──父さんの勢いが削がれるが────まだ止まらない。


 父さんの表情は段々と生気が戻っているように見える。


 だが──まだ足りないっ……父さんを──


 ──復讐の呪縛から助けるにはまだ足りないっ!



 五月雨からの──【風鎖】っ!


 高速で放たれる黒鎖の嵐から不可視の風刃が父さん目掛けて次々と襲いかかる。



「────なんのこれしきっ!」


 無数の切り傷を刻まれながらも、父さんの言葉尻が強くなる。



「息子にぶちのめされる覚悟は出来たかっ!?」


 俺は感情を揺さぶるために挑発する。



 鎖の禍々しさがマシになってきている気がする。


 もう少しだっ!




「──舐めるなっ!」



 父さんは無い左腕を後ろにして鎖を伸ばし始め──


 ──鎖の先端部分は鎖を集合させて固め、大きな鎖塊を作り出す。



「こっちこそ──舐めるなっ!」


 俺もそれに対し────同じ様に両腕引き下げ、黒鎖で大きい拳を作る



「おらっ! とっとと寝やがれっ!」


「おらっ! とっとと目を覚ませっ!」



 俺達はお互いに叫びながら──



 お互いの鎖塊をぶつけ合う──



 ズガアァァァァァッンッ



 父と子の己の想いを乗せた一撃が重なり──激しい激突音が響き渡り、砂埃も舞う。


 お互いの鎖塊は壊れる事なく中間地点で拮抗している。



「まだだぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 俺は即座に激突する前に用意した反対側の鎖塊の拳を砂埃の向こうに父さんに追撃し、走る──



「──甘いっ! おらぁぁぁっ!!!」


 父さんは生身の拳に黒気を纏い──殴りかかり──



 ──またもや鎖塊と拮抗する。



「まだだって言ってんだろっ!!!」


 俺は鎖の合間を縫って、父さんの目の前に到着した。


 闘気だけじゃ止められないっ──なら! 


 アナスタシアから両方同時に使える事は聞いている──俺は死なない! ならやるしかないっ!



 ──闘気を込め──そして魔力も込める────



 以前やった時みたいに自爆しないよう、意識して制御を全力で行う。制御力は常に修行で行っていた────自信はある。


 俺は一瞬を纏い、そのまま頭突きをくらわせる────



「舐めるなっ!」


 父さんも頭突きで反撃してきた。



 2人の頭が接触した瞬間──2人を中心に衝撃波が発生する。


 周りの草木は風に煽られ、先程より激しく砂埃が舞う。



 額をお互いに擦り合わせ──視線が交差する────



「見事だ……土壇場で黒気を使うとはな……俺の──負けだ……」


 父さんはそう言い──俺の肩にもたれかかる。


 俺は父さんを抱きしめ──



「さすが父さんだよ……自惚れも吹き飛んだよ。俺はまだまだ強くなれる。気付かせてくれてありがとう」


 意識のないであろう、父さんに感謝の言葉をかけてから地面に寝かせる。



 本当にギリギリだった。師匠との訓練がなかったら間違いなく────ここで俺は負けていた。



「父さんの背中は広かったよ……」


 そんな独り言が木霊する。



 その時────離れた所から魔力の高まりを感じた。おそらく朱雀だろう……。



 アナスタシア達は大丈夫だろうか?



 追い掛ける前にやる事がもう一つある。もう少し待っててくれ。


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