第77話 閑話 〜封印という恩恵〜
俺の視界が元の試練の洞窟に戻る。
目の前には俺を覗き込むようにしているアナスタシアと、近くで寝ているリオンが目に入った。
リオン……そんな時間経ってないはずだが、寝てるのか?!
それより、やっと戻ってきたか……。
視線を右手に移すと、刀が握られていた。
俺はアナスタシアに声をかける。
「────ただいま」
「──!? おかえりなさい」
俺に抱き付くアナスタシア。たったの100秒で再開出来たと思っているアナスタシアと違い、俺は千年振りだ。
久しぶりに温もりを感じたくて、ギュッと抱きしめる。
「なぁ、キスしていいか?」
アナスタシアの目を見つめて言う。
「どうしたの?」
首を傾け聞き返してくる。
「ただ、したいだけだよ」
「いい──「ストーップ!!!」──よ?」
リオンがアナスタシアの言葉に被せ、間に入る。
「なんだよ?」
邪魔された俺は少し機嫌が悪くなるが、一応聞き返す。
「私の前でいちゃつく事は許さん」
人形さんみたいなリオンが初めて感情を表に出す。
「酷い理由だな。お前がそこにいると、アナの顔が見えないからどいてくれないか?」
俺はリオンをそっと押しどけ、そう伝える。
「レオ、相手は初代魔王だよ?」
でも、アナとの時間を邪魔されたしな。それに────
「なんとでもなるさ。死に物狂いで強くなったんだ。お前を守れるぐらいに────な?」
俺は真剣な眼差しを向けて言うと、アナスタシアは左手を髪に、右手は胸に当て、頬は赤く染まった。
その姿は黒いドレスを見に纏った堕天使のようで、美しく、そして────とても魅力的だった。
「ばかっ……」
「綺麗だよ……愛してる……」
もう、俺はどんな言葉を発しようと──
──────恥ずかしくない!
この千年弄られて────慣れたっ!!!
目の前の初代魔王様はプルプル震えて殺気を出し始める
「目の前でいちゃつく事は────許さんっ!!!」
「ほっ」
襲いかかるリオンの周りに鎖を発生させ、捕縛しにかかる。
「なんのこれしきっ────!?」
鎖を振り解こうとした瞬間────俺は
「まだやるのか?」
「……やるな……ちゃんと強くなっている……」
勝負は一瞬だった。リオンも確かに強いが、師匠ほどじゃない。
リオンも本気じゃなかっただろうしな。
それより、インフレ具合が半端ないな……修行前とか勝てる気が全くしなかったのにな。
「リオンって感情的になれるんだな」
俺はふと気になったので聞いてみた。
「彼氏が出来ずに死んだから────目の前でいちゃつかれると腹立つっ!!!」
なに!? 気の毒な事をした……。
「それは────すまん」
そうか、そんな事情があるとは思わなかった。
俺は素直に謝罪する。
「余計虚しくなるから────謝るなぁぁぁぁぁぁっ!!!」
その後、リオンは泣きながら攻撃してきたので、責任を感じた俺は全ての攻撃を無力化してストレス発散の捌け口になった。
なんかリオンのキャラが違うくない?
◆◇◆
「落ち着いたか? もう帰るぞ?」
やっと攻撃が止んだので、帰る旨を伝える。
「はぁはぁはぁ……涼しい顔して捌きよって! 私は初代魔王だぞ!? いつか、その顔に一発ぶち込んでやるっ! 帰るのはまだ許さん────もし、解放された時はシアンにこれを2人に渡せと言付けを受けている。受け取れっ」
息切れした初代魔王は手に宝玉を出し、それを投げるように俺とアナスタシアに渡す。
2人? 俺もなのか?
「これは?」
「これは────簡単言えば記録だな。シアンの想いが────これに入っている」
俺もという事は────やっぱりシアンって俺と関係あるんだろうな……。
一つの可能性が思い付く。
「────どう使う?」
「足元に投げつけたら良い」
使い捨てか。しかし……気が進まない……想像通りなら良い気分がしないな。
「えいっ」
可愛い声を出したアナスタシアが宝玉を足元に投げ付けて叩き割る。
行動早っ!?
俺も覚悟を決めて、続けて叩き割る────
────割れた宝玉から光が入り込んで来る────
────!?
そこには──── 前世の俺を人間不信にした元凶────姫杏がいた。
やっぱりか……シャーリーさんから聞いた話、そして記憶で思い出した名前が同じだったから、なんとなく予想はついた。おそらく召喚されたんだろう────
『────正一……、これを見ているって事は、無事に琴音を解放出来たという事。まずはおめでとう。私も受けた試練だからわかるけど、己の過去から逃げずに向き合って答えを出さないとクリアにならない……私も過去と向き合って答えを出したわ────』
なんでアナスタシアの前世を知っているのか疑問に思ったが────神の爺さんが信託をしたと言った事を思い出し、その時に言われたか、本人に聞いたのだろうと納得した。試練もクリアしたとリオンが言っていた気がする。
『────貴方を傷付けた事を謝罪するわ……ごめんなさい。……信じて貰えないと思うけど、貴方の事を愛してる……』
俺は別れ方が別れ方だっただけに話半分に聞いている。所詮は戯言────そう思いながら。
『貴方とずっと、付き合っていたかった…………けどね、丈二という人から────貴方の事情、今後、私や家族の命を狙われる可能性があると言われて、私は家族をとったわ。貴方はきっと普通の別れ方では諦めてくれない。だから友達に頼んで酷い振り方をした……諦めてくれると信じて……』
────俺は姫杏を見据える。
姫杏は本当に俺の事が好きだった?
いや、口ではなんとでも言える。
話を聞いている内に俺は感情が揺さぶられ始める。
『でも、その後直ぐに────この世界に召喚されたの。厄災を退ける為にね。そして、ある日──神様から信託を受けて、その通りにするようにも言われたわ。そして封印の使用方法を聞いた時、私は絶望したわ。厄災に対する使い捨ての駒扱いだと……』
封印の使用方法? シオンは普通に使っていたが?
何か違う使い方があるのか?
俺の中で動揺が広がっていく……。
『封印は本来は厄災に対する最終手段の一つ。
────なんだと!? 封印ってヤバい恩恵じゃねぇか!?
なんで────なんで姫杏がそんな事をする必要がある!?
俺は信託内容が人柱だと知り────怒りが込み上がる。
『ふふふっ、優しい正一の事だからきっと、「なんでそんな事を!?」みたいな顔してるんでしょうね。琴音から前世の話は聞いてるわ。そして、どうして封印を使う事を了承したのか? それは試練をクリアした理由と被るけど────私は正一と会いたかったから……だから私は生まれ変わったら、正一と今度は生きれるように神様と約束してもらったの。だから死ぬのは怖くないわ』
────姫杏まで転生してるのか?
この世界、俺と縁がある人多くないか?
まさか────神の爺さん……琴音だけじゃなくて姫杏まで、俺を使って利用したのか?
『もし、貴方の近くに私がいたらいいけど、いなかったら見つけてほしいかな? せめて罪滅ぼしに私を盛大に振ってくれてもかまわないから。でも、せめて────……一目でいいから……一目でいいから────会いたいよぉ……ひっぐっ……ひっぐっ……うぅわあぁぁぁんっ……』
身を震わせて慟哭する姫杏。俺はこのやるせない気持ちを拳に込め、血が滴り落ちる。
女性が泣くのは昔から苦手だ……。
おそらく言っている事に嘘はないと思う。これで騙されているなら俺はとことんお人好しになるが────騙されていたとしても、俺はそれでかまわない。
爺ちゃんも──
「裏切られても、それは自分の見る目がなかっただけじゃ……それでも──少しでも違和感を感じたら、信じてやれ。そこにはきっと理由があるじゃろう。もし理由がなかったら切り捨てたら良いんじゃよ! それでも気になるなら────とことん信じてやれ」
──そう言っていた。
俺はとことん信じてみるよ。
考え方が千年の修行で変わったのか、それとも姫杏の言葉が俺に響いたのかはわからない。
だけど────これからは信じるという点では、前世の俺に少しでも戻りたいとは思った。
『シアンもうすぐ記録が出来んようになる……』
過去のリオンが姫杏に話し掛ける。
『──うん。じゃぁ、私はこれから厄災を封印してくるね。貴方と来世で会える事を祈ってる。……さよなら────』
この記録はきっと、アナスタシアをここに連結し、厄災を封印する前に保存されたのだろう。
映像が消える瞬間、姫杏は覚悟を決め、精一杯の笑顔で涙を流して『さよなら』と言った。
見つけてほしいんじゃないのか!
なんで、そんな今生の別れみたいな顔してやがるっ!
お前は試練をクリアしたはずだろ!? 過去と向き合い────答えを出したんじゃないのか!?
前世の俺は姫杏により、人間不信にトドメを刺されたが────本音を聞けて、心の中が清々しい気持ちになれた気がする。
だから────いつかまた会おう。
絶対に俺が見つけ出してやるっ!
それと、必要だとはいえ、こんな事をした神の爺さんは許さない。
必ず────利息つけて、ぶん殴ると心に決めた。
映像が消え、視界が元にもどる。
視線をアナスタシアに移すと、涙を流していた。
きっと、知らなかった事情とか聞かされたんだろう。
俺の視線に気付き、お互いに見つめ合う。
俺は近付き、頭を撫でる。
「いつか────また、会えるさ」
「そうだね! いつか会ったらお仕置きしないとね?」
「あぁ」
「────あっ!?」
「どうした??」
「約束覚えてます?」
約束? 思い付くのは────あれか!? 抱くとか云々の奴か!?
なんでシリアスな所からそっちに話が飛ぶ!?
さっきまでのシリアスはどこに行った!?
「楽しみにしてますねっ! 姫杏が応援してくれましたっ!」
「そっ、そうか」
俺は殺気を感じたので、視線をアナスタシアからリオンに移す。
人を射殺す事が出来るのではないかというぐらい睨みをきかせていた。
殺気だけで人を殺せそうだな。
俺達はリオンを尻目にし、足早にその場を後にした。
その際に──
「爆発しろぉぉぉぉぉぉっ」
と聞こえてきたのは幻聴じゃないと思う。
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