第27話 これはご飯じゃない!

 昨日の夜はほとんど寝れなかった……。


 なんせフローラの歌が止まらない。


 なんとか俺はここから脱出するため、寝不足ではあるが、ドーラに挨拶だけして俺は出発する事にした。


 森の中を現在歩いているのだが……。


 ハクマは目が虚ろだ。なぜかと言うと……。


「早く行こうよ〜〜っ!!!」


 フローラが歌いながら着いて来ているからだ。


 本人の意思もあるのだろうが……どちらかと言うと、他の妖精達から追い出された形になる。


 出る際に。


「フローラ! あんた前から色んな所に行きたいとか言ってたろ!? レオン殿に着いて行けばいいぞ?」


「本当!? やったー!!!」


 とかいう一幕があったのだ。つまり、厄介者払いである。フローラの歌には同族でも耐えられないみたいだ。


 喜んでいるフローラの後ろで悪そうな顔をしてサムズアップしていたドーラさんがいたから間違いないだろう。


 俺も同行には遠慮願いたいが、切り出そうとすると悲しい顔をするのだ。俺には言えそうにない。


 ただ、言うのを諦めるとニヒルに笑うあたり、計算なのだろう。


 歌を歌いながら進むフローラは幸せそうな顔をしている。本当に歌さえなければ天使のように可愛らしいんだけどな……。


 俺はもう耳がおかしくなっているのか、精神がおかしくなっているのかわからないが、意外と大丈夫だったりする。何度も死ぬよりマシだからかな?


 ハクマは耳が良いだけに地獄を味わっているようだ。そのうち発狂でもするんじゃないか心配だ。


 そんな中、進んでいると。


「お兄ちゃんっ! ご飯っ!」


 まだ歩き出して1時間ぐらいだぞ? 朝飯食ってないのか?


「ご飯はもう少し後だぞ?」


「違うのっ! ご飯が近付いて来てるのっ!」


 ご飯が近付く? 意味がわからないぞ?


『主、やばいっ! 全力で逃げた方がいい』


 ん? ハクマまでどうした? ご飯が来る? 逃げる?!


 俺は気配を探る────



 これ、やばいかも────逃げるにはもう遅い。



「ごっは〜〜っん!!!」


 いやいや、めっちゃヤバいの近付いて来てるから!


 俺は空を見上げる。


 そこに居たのはドラゴンでした。


 昨日話をした所で現れるとか勘弁願いたいんだが……フラグ回収率高くないですかね??


 それとドラゴン凄く大きいな。20mはあるんじゃないだろうか?


 距離は……100mぐらいか。トカゲに羽つけてデカくした感じだな。


「フローラ、ご飯来たから存分に食ってきていいぞ?」


 御所望のお食事来たぞ? ドラゴンと戦える妖精族の力を見せてくれ!


「私1人じゃ無理〜〜、しかも遠いし〜〜。お兄ちゃんなんとかして!」


 はぁ!? 戦闘民族の誇りを見せてくれよ! こんな序盤でドラゴンと戦うとか想定外なんだが!?


「ハクマっ! なん『無理っ』と……か出来ないのね?」


 はえーよ! 返事!


 上空で魔力反応!?


 ブレスかっ!?


「ハクマっ!」


 俺はハクマに呼びかけ視線を合わし、合図する。


 もちろん戦闘ではなく逃げる為に!


『わかった!』


 ハクマはフローラを口で掴んで離脱する。


 わかってくれて何より。



 ヒュンッ


 俺は空に向けて、最速で穿通鎖を放つ。


 これが1番使い勝手がいい技だし、上空にいるドラゴンに届くだろう。


 ギンッ


 鎖はいとも簡単に鱗に弾かれる。


 ノーダメージ……。


 ドラゴンが俺を睨みつける。


 どうやら、俺にターゲットを絞ってくれたようだ。



 ギュァァァァァァァぁぁぁぁっ


 その雄叫びが合図のようで、赤い閃光が俺に迫る。


 俺はブレスが来る方向に鎖を渦巻き状に展開し、その間に結界を張り、それを8枚ほど重ねる。


 通常の鎖結界より面積が広いから強度は落ちるが、これなら多少は持つだろう。


 そんな淡い期待は次の瞬間消える。


 パリンッ、パリンッ、パリンッ、パリンッ、パリンッ、パリンッ、パリンッ、パリンッ


 ガラスのように簡単に砕け散る結界。


 俺は体を逸らして、避けようとするが間に合わない。


「ぐぅっ」


 俺の右半身は一瞬で消し炭になるが、即死回避と超回復が発動し、直ぐに元通りになる。


「いつつ……これ無理だろ」


 俺は上空を見上げるがドラゴンの姿はない。どうやら何処か行ったようだ。


 とりあえず助かった。


 あんな化け物にどうやって勝つんだよ。


 異世界世知辛いな!


『主〜大丈夫か〜〜?』


 一息ついた頃にハクマが声をかけてくれる。


「なんとかな。とりあえず危機は去ったな」


「ドラゴン肉〜食べれないの?」


 何呑気な事言ってんだよ。このブレスの跡見てみろよ……。


 俺が攻撃を受けた辺りの地面が直径5mの穴が空いてるだろ?


 これかなり深いぞ?


「出来れば二度と会いたくないな」


『同感。あれレッドドラゴンだね。属性竜とか災害クラスだよ?』


 いや、ハクマもだろ?!


「お前も災害クラスじゃねぇの?」


『僕は子供だからね。主や妖精達とそんなに変わらないよ』


 じゃあ、いつかお前もあんな感じになるのね……。怖いわー異世界。まだ帰る事になって1時間ぐらいなのに先行きが不安だ。


「ねぇねぇ、お兄ちゃん! 逃げるよ!」


「またドラゴンとかじゃないだろうな?」


「まさしく!!!」


 マジかよ!? 俺は空を見上げるがドラゴンはいない。


 どこにいるんだよ!?


『主っ! 前だっ!!!』


 俺は視線を前に移す。


 今度は……羽のないデカいトカゲ……地竜とかいう奴か!?


 見た目、歩く岩みたいだな……防御硬そうだな。


 俺の鎖魔法が効果あるとは思えないな……。


「よしっ、逃げるぞっ!」


『「応っ」』


 ハクマとフローラの息のあった返事を皮切りに────


 全力で俺達は駆け抜ける。


 後ろから地響き立てながら追いかけて来るが、構う事なく逃げる。


 ひたすら走る。



 すると、目の前に遺跡っぽい建物が見えてきた。



「ーーーーーーーっ!!!」


 フローラが何か叫んでいるが、後ろからの雄叫びが迫っているので躊躇わず中に入る。


 地竜が大きな爪を振り下ろしてくるが────


 ガギンッ


 ────地竜は見えない壁に阻まれる。


 どうやら結界が貼ってあるようだ。地竜のパワーを物ともしない結界とか半端ないな。


 この際、なんで結界があるかなんてどうでもいい。とりあえず助かった。



「お兄ちゃんっ! ここ試練の洞窟だよっ!」



 はぁ?? 此処って洞窟じゃなくて遺跡じゃね?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る