第26話 まさかの知り合い!?
妖精さんの殲滅姿を見た俺だが、あの後に襲われたりは──
──しなかった。
少し間が空いたのには理由がある。初対面の時は特に問題はなかった。
だが、経緯を話す際にフローラが肉を貰ったと言った瞬間、妖精たちの目の色が変わった……。
殺気まで混じった視線に冷汗が出るし、男はおらず、皆女ばかりで余計に怖く感じた。
俺は思った。きっと肉が欲しいんだろうと。
無限収納からミノタウロスの肉を出してあげたら……そこからは宴だ。
今は歓迎ムードの中、集落の真ん中辺りでキャンプファイヤーをしている。
この妖精たち? の悪そうな笑顔を見ていると心底不安になる。フローラは最悪の事態になったら助けてくれるだろうか?
「レオン殿! 此度、貴重なミノタウロスの肉ありがとうございますっ! この辺では収穫出来ないので一同感謝の気持ちでいっぱいでありますっ!」
「かまいませんよ。ミノタウロスの肉ならまだまだありますから、遠慮なく言って下さい」
物凄い勢いで敬礼をかましてくる妖精さんは、ここの中でも指折りの強者で名前を……確かドーラとフローラが言っていた。髪の毛の色が真っ赤だ。
赤い髪の毛は血を連想させ、手に持ったフォークと歪んだ笑顔がデーモンを想像させる。
正直、早くここから離脱したい。一人一人の戦闘力が高いだけに不安だ。
「レオン殿は、これからどうするつもりですかな?」
「帰れるなら早く帰りたいですね」
そう、俺は皆がどうなったのか心配なのだ。決してここから逃げたいのではない。
「んーそれは無理かもしれないな……」
つまり、逃すつもりはないと。
「なんで?」
「まず、此処は人が来れる領域ではない。人族が住む場所からかなり離れているぞ? 数年前に人族が1人来たが、我らを見て即逃げた。それ以降は誰も来ていない。魔物もかなり強めだしな」
別に人を取って食うわけではないようだ。
此処って、そんなに離れているのか……そうなるとどうやって帰れば良いんだろう?
「ちなみに人族の領域までどれぐらい?」
「おそらく、徒歩なら1年ぐらいはかかるだろうな。何か戻る理由でも?」
一年か……帰れるんだろうか?
「かなり遠いですね……理由は家族と会うためですね」
「そうか。なら止めはしない。ただ、死ぬなよ。此処はドラゴンとか普通に出てくるからな」
マジか……ヤバいとは思っていたが、そこまでヤバいとは。
ドラゴンと言えば、災害レベルで国が動く脅威度だぞ?
ドーラさんも心配してくれてるみたいだし、妖精って初印象とは違って気の良い奴らなのかな?
「ちなみにドーラさんがドラゴンと遭遇したらどうするか聞いても?」
「もちろん戦って食うが?」
即答で、ドラゴン相手でも食う気満々だった。
こいつらの食欲は相手を選ばないみたいだ……。
それより、ここから出るのはちょっと、怖いな。何か良い手はないだろうか?
そうだ! ハクマだっ! あいつとなら多少危険でも大丈夫だろう。
それに今気付いたが、アリスがどうなったかもそれでわかるじゃないか!?
さっさと確認しといたら良かった。
「ドーラさん、少し使い魔を召喚したいのですが良いですか?」
「かまわんよ。レオン殿は多少は出来るようだし──召喚魔も興味がある」
せっかく許可も降りたし、右手に魔力を込めてハクマを召喚した。
目の前にハクマが現れる。
『ん?? 主!? 無事なのか!?』
俺の顔を確認したハクマは心配そうな表情で聞いてくる。癒されるな。
「なんとか無事だぞ? ただ、何処にいるのかわからん。ここにいる妖精さん達と会った所だ」
『……妖精?』
ハクマは周りを見渡して固まる。
『主……こいつらと会話が
ん? 不穏な言葉が聞こえてきたぞ?
この妖精さん達は会話が成立しないのか??
「おうおう、この毛玉如きがあたいらに文句言うつもりかい?!」
ん?? なんかドーラさん、さっきと口調違いますが!?
それに一気に場が凍りついたように寒いぞ!?
『このカス共が! 主から離れろっ! 今度こそ氷像に変えてやるっ!』
なに? なんなの?? いきなり殺気飛んでるんだけど……。
こいつら仲悪いの?? しかも知り合いなのか!?
「お前ら知り合いなの?」
『「違うっ!!!」』
いや、息ぴったりじゃないか。
しばらく、事情を聞くと。
昔に食料を取り合ったとか……。
正直どうでも良い理由だった。
妖精は狙った獲物は逃さない……美味い肉を求めるためか、一人一人の力量も高く、集団戦も得意。
そんな話をハクマから聞いていると、妖精族は基本的に戦闘民族のようだ。
というか……やっぱり肉食系なのね。
カラフルな髪の毛見てるとファンタジーだなと思えるし、可愛らしい外見なのだが……異世界は不思議で溢れているな。
「とりあえず、喧嘩はやめなさい。ハクマ、あっちはどうなったんだ?」
『なんとか洞窟に戻って預けてきたよ。あそこなら大丈夫だと思う。それより、主早く帰らないと妹さんが寂しがってるよ?』
アナがいる洞窟なら問題はないだろう。一先ず命の危険はなさそうだし安心出来た。
直ぐに帰れたら苦労しないぞ。此処がどこかわからん。そもそも元居た場所も村にいた頃から狩り以外で出た事がないし、国の名前も知らないんだが。
「ちなみにハクマは現在地と元居た場所わかるか? ドーラ達からはかなり遠いとしか聞いてないんだ」
『こんな脳筋と一緒にしないでほしい』
ハクマさんやディスるのやめて!?
「なんだとっ!!! 丸焼きにすんぞっ!」
ほら食いついてきたじゃないか!
『やってみやがれっ! 串刺しにしてやるっ!』
また始まった……会話が進まない。なんやかんやで、戦闘まで発展してないし仲は悪くないのだろう。他の妖精族は談笑しているし、昔からこんな感じなのかもしれない。
ドーラはハクマとやりあえるぐらいなら俺と同等という事になる。つまり討伐ランクで言えばS相当。しかし、妖精族はドーラ1人ではない。今此処にいるだけで、ざっと50人はいる。
こんなのに襲われたら悪夢だな。そりゃぁドラゴンも相手出来るわな。
「フローラ歌いますっ!」
とか思ってたら、フローラの不意打ちをくらった。
フローラの歌を聞いていたら、本当に妖精族は歌が上手いのか疑問に思える。
この場にいる全員が耳を塞ぐぐらいだから、フローラが特別なのだろう。
俺は此処に来るまでに大分慣れたせいか、まだ無事だが、キャンプファイヤーを中心にのたうち回る妖精を見ながら俺はある意味フローラが1番最強だと思った。
明日には此処を出よう。ハクマがいれば、なんとかなるだろう。
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