第22話 これは憂さ晴らし──
〜レオン視点〜
俺はしばらく呆然としていた。
アリスが男に向かって攻撃を仕掛けるが、簡単にいなされていた。
俺はどうしたらいい?
俺は何をしたらいい?
わからない────
心の中が掻き回されていると、戦闘は終盤を迎えようとしていた。
居合い切りからの轟音と共に衝撃波が男に襲うが────躱されてしまい、アリスに攻撃が迫っていた。
アリスは俺の方を向き、微笑む────
その瞬間────急激に意識が引き戻される────
このクソみたいな世界でも────俺や俺の身内に関する悪意にまで許すつもりはない。
前世でも、俺は不条理な事は許さなかった。
それは────
俺は俺の関係する者を守れるように────
────己の信念を貫くっ!
母さん────俺はアイリスをこいつらから守るよ……。
そして────母さんの無念を晴らす。
それしか今の俺には出来ないから。
それに、アリス────お前も────
今助ける────
「アリスっ!!!」
俺は最高速度の穿通鎖を
「ぐっ」
男の拳が当たる寸前に急所を外した鎖を────
────アリスの背中目掛けて放つ。
そして、そのまま絡みつけながら引き寄せ────癒しの鎖を発動する。
「大丈夫か!?」
俺は空中に投げ出されたアリスをお姫様抱っこの状態でキャッチし、声をかける。
「レオン……ごめんね……」
「大丈夫だ。もう────これ以上は失いたくない……」
「────!? ……うんっ!」
俺は母さんに最後『幸せになって』と言われた。
じゃあ、幸せってなんだ?
……そんなもの決まっている!
俺に好意を持ってくれる人達と一緒に過ごす事だっ!
母さん────
俺────
絶対に
たとえ、誰が相手でも────全力で抗ってみせる。
「レオン────」
アリスは俺に抱き付く────
アリスは照れたようで顔は真っ赤になっていた。
俺はアリスをギュッと抱きしめ返し、耳元で声をかける。
(アイリスと母さんを頼むよ)
俺は母さんとアイリス、そしてハクマに目線を送る。
「ハクマっ!」
『わかってる』
さすが、相棒。俺の視線で察してくれたようだ。
先程のアリスとの戦闘を見て、ハクマも勝てるとは思っていないのだろう。
俺は逃げる事に全力を掛ける。
だけど────俺は逃げるつもりはない────
こいつらは絶対ぶっ飛ばすっ!
最優先はアイリス、アリスの避難だ────父さんは自力でなんとかしてくれる事を願う。
これはゲームではない。ボスだからと言って、逃げれないわけではない。
合間を見計らって男が声をかけてくる。
「よぉ、母親が死んだってのにお盛んだな。お別れは済んだか?」
「あぁ、済んだよ」
「じゃあ、ミアって子、連れて来てくれるか? 俺もう帰りたいんだわ。なんかやる気失せたしな」
「連れない事言うなよ。俺はまだ諦めちゃいない。楽しみはこれからだろ?」
俺は蛇腹鎖を20m程伸ばし、
刺のある鞭状の鎖が蛇行しながら男に襲いかかる。
【
ヅガァァァァァァァァッ
その様は暴れ回る氷龍の如く、地面を削り、触れる物を凍らせながら進む。
「ハクマっ!」
ハクマに合図を送る────
『あいよっ!』
ハクマは母さん、アイリス、アリスを氷で包み込み、そのままアナのいる方向へ去る。
「────っ、逃がすか!!!」
それに気付いた男は、ハクマを追いかけようとするが────
────それは俺が許さない。
氷柱鎖を蛇行させ、男を前に進めないように攻撃する。
「俺を倒してから行くんだな」
まるで死亡フラグだ────
「ちっ、めんどくせーなっ!」
男は直ぐに攻撃対象を俺に変え、蛇行する鎖を避けながら俺に接近する。
ズボッ
そして男は抜き手を放ち、俺の胸を貫通した。
「ごふっ……残念────まだ死んでないよ」
────まぁ、死亡フラグ立てた所で、これぐらいじゃ死なないんだけどな。
男は驚愕の表情を浮かべて、アリス達を尻目に俺を見据える。
ざまぁ────
俺はこの瞬間を待っていた。この0距離の間合いを────
「なにっ!? なんで胸貫いて生きてやがる!? 自爆でもするつもりか?!」
「正解っ! まぁ、あいつらが行くまで付き合えよ」
鎖の属性付与をやめ、通常の鎖に戻した俺は男と俺を中心に破られないよう念入りに鎖結界を作る。
「なんで、こんな鎖如きが破れねぇっ!」
結界に向かい殴る男。
そりゃ────何層にもしてるからな。
「レオンっ!?」
アリスの心配する声が聞こえる。姿が見えると涙を流していた。
「俺はこいつを倒してから向かう事にする。ハクマわかってるな? 頼んだぞ?」
『わかってるってっ! 姉ちゃん、主はあれぐらいで死なないから早く行くよっ!』
ハクマその通りだ。俺はこれぐらいでは死なない────よくわかってる。
「だって……」
「アリス────俺は簡単に死なない恩恵持ちだ。だから、そんな顔をするな。ちゃんと、また会える」
そう、必ずまた会おう────
俺はサムズアップして笑顔で応える。
「────!? わかった。絶対だからね! 絶対にちゃんと来てよっ!」
「当たり前だ──── ハクマ行けっ!!!」
『姉ちゃん、行くよっ!』
アリスはぎこちない笑顔を俺に送り、ハクマは皆んなを氷で包んだ状態で離脱する。
それを確認した俺は【
結界内を高熱が走り、俺もろとも焼き尽くす────
オルトロスの時とは違い、完全な状態での発動だ。
男の恩恵が吸収だろうと、この高密度の魔力で放たれた地獄の業火にいつまでも耐えれる事はないだろう。
「ぐがぁぁぁぁっ、吸収しきれねぇ!?」
ほらな?
ここからは俺のターンだ。俺の憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ?
俺はこれぐらいでは死なない────何度でも復活して体力、魔力が全快になる。そして、それを使ってまた死ぬ。その繰り返しだ。
根比べしようじゃないか────
これがお前に対する────憂さ晴らしだっ!
……
………………
……………………………………
時間にして10分ぐらいだろうか────
目の前は炎で視界が悪いが、男の声はまだ聞こえる。
中々しぶとい。
その内、目の前にいるこいつも死ぬはず────
俺の憂さ晴らしも、もうすぐ終わりだろう────
既に俺は数えるのが面倒臭くなるぐらい死んでいる。
始めは数秒ぐらいで回復して直ぐに死んでいた気がするが、段々とその回復時間も無くなってきている。
それが良い事が悪い事かと言えば────悪い方だと思う。死ぬ瞬間を感じる感覚が短くなっていて、激痛が常に襲うような感覚だ。
母さんを助けられなかった罰かな?
『持ってるものは当たり前だから感謝もしなくて、持ってないものばかり嘆いてたらそれは不幸だよ?』
ふと思い出したのは、前世で唯一愛した女性の言葉だ。
確かにそうだなと思う。
前世の時は両親はいなかったし、それを欲していた時期もあった。
持っている事が当たり前だと思っていると、失った時に、その本当の必要性がわかる。
俺はこの世界に来て、両親がいる事が当たり前になり、離れていても元気に暮らし続けるだろうと思っていた。
でも、失って気付いた。
なんで、もっと両親のいる事にありがたみを感じなかったのだろう?
なんで、もっと話しておかなかったのだろう?
なんで、もっと悔いのないように出来なかったのだろう?
それは────俺が当たり前に慣れてしまっていたからだ。
会えば、微笑んでくれる母さんは────もういない。
俺はこの先、幸せになれるのだろうか?
幸せにならない方がいいのではなかろうか?
幸せになろうとすると周りが不幸にならないだろうか?
『幸せになって』
色々と考えていると────母さんの最後の言葉が脳裏に浮かぶ。
とても優しい人だ。最後まで俺の幸せを願ってくれた。
「母さん、こんな俺でも……幸せを願っていいかな?」
俺は独り言のように呟く。
(当たり前でしょ? 私の自慢の息子は幸せにならないとダメよ?)
ふと、母さんの声が聞こえた気がした。幻聴かもしれないし、俺がそう思いたいだけなのかもしれない。
だけど、そう聞こえた俺は救われたような気がした。
俺の瞼には涙が溜まる────
ありがとう、母さん。
俺は幸せを願い続けるし、幸せになるために頑張るよ。
そして────
俺の体は光に包まれ始め────
俺の体は空間の歪みに飲み込まれる────
転移か何か使われたのだろう。
村の連中にも憂さ晴らしをしたかったけど────残念だ。
村の連中はこれから生きて行くのが厳しいだろう────
なんせ、こんな辺境な危険な場所を守れる人はもういない。それに飢餓を救えるミアもいないし────自然に滅ぶはずだ。
仮に────
また見つけたら────
その時は俺が憂さ晴らしをする────
復讐じゃない────憂さ晴らしだ────
復讐はしない────
前世で約束したからな。
視界が変わり────緊張の糸が切れた俺の意識はそこで途絶えた────────
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