第10話 取引条件
「油断したね? 残念…まだ生きてるよ?さぁ反撃開始だ!!!」
何とか賭けに勝った。業火に焼かれる思いはしたが……。
俺がしたかったのは、一点突破で鎖をアナスタシアに絡ませる事。ただ、これだけだ。
アナスタシアは確実に業火に焼かれて死んだと思っていたはずだ。
だが、俺には即死回避がある。魔力を途切れさせずにいられるかどうかが鍵だったのだが、無事に成功したようだ。
俺の鎖は【束縛の鎖】にしてある(動けなくなるぐらいに絡ませているだけだが、鎖自体の強靭さはかなり上げている)
その為、アナスタシアは身動きが取れないようになっている。例え、魔法を放って消し飛ばしたとしても直ぐに補充するようにしている。
それに骸骨如きが腕力で振り解く事など不可能だ! ……と思いたい。筋肉ないから大丈夫だよね?
さて、ここからがぶっつけ本番だ!
俺は鎖に魔力を込める。ただの魔力ではない!
属性を付与している。これまでの戦闘で、これが出来ていたら幾分マシになっていただろう。
ミノタウロス戦が終わった後に思いついたんだけどね。
付与出来るかどうかは俺次第にはなるが、魔力操作だけは自信がある。やれるだけやってやるさ!
「いくぞ!!!」
不死王とはいえ、スケルトン……火葬がベストだろう────そう思いたい。
火属性以外に有効そうな属性が思い付かないのもあるが。今までに試したのは攻撃に使えそうな火、水、風、土の基本属性のみ。回復系の聖属性は、傷など自動で修復する俺は試した事もない。
ありったけの火属性の魔力を込め始めると、鎖は赤くなって行く。
熱を持った鎖────
俺もかなり熱い。
超再生で痛みだけがずっと襲って来るが、今までの痛みに比べたらたいした事はないな。
俺は火属性の魔力が鎖に通ったのを確認してから、初級魔法の火球を巻きついている鎖一つ一つにイメージする。
数は10個────おそらく感覚的にこれが出せる限界だろう。
『我を捕まえるとは中々やるのぉ。熱を帯びただけではどうにもならんぞ?』
「そりゃ、そうだろ…そんなもんでどうにかなるなんて思ってないさ。仮にも不死王だろ?」
俺はニヒルに笑う。
「さっきのお返しだっ!受け取れ!」
鎖の部分、一つずつから爆発するようにし、言葉にしてイメージを固定する
「【
ドドドドドドドドドドッン
爆発10連発だ!
これなら────!?
くそっ……ダメか……。
『ちょっとだけ、ビックリしたの。威力が絶望的に足りない。我を束縛するまでは良かったがの』
無傷か────まだ
せっかく、新技成功したってのに、所詮は初級魔法並の威力しかないのか。
「そりゃ、お褒めに預かりありがとさん。ついでに万能薬くれたら喜ぶんだがね?」
『クックック、本当に面白い少年だの。万能薬なんて希少でも無い物のために命をかけるなんて……』
「価値観の問題だろう。今の俺には命をかけるぐらいには必要な物だ。どうせ、このまま戦っても結果は見えているだろうが……。俺は無駄な足掻きは大好きだから、一泡でも二泡でも吹かせてやるよ」
『なら、踊りなさい。我の気分が変われば、万能薬をあげてもいいかの?』
「言質はとったぞ?」
『かまわないかの。楽しませてもらうぞ?』
それでも、俺は死力を尽くすしかない。
しかし、俺が他の属性魔法が使える事もバレてしまったので、騙し討ちみたいな策も今後は油断をしていないアナスタシアには通用しないだろう……。
俺の持てる組み合わせで攻めるしかない!
俺の属性魔法なんて、さっきの結果が物語っている。
俺の強みは超再生と即死回避!
それ以外無い────というかそれしか無いっ!
つまり────死を恐れぬ特攻あるのみ!!!
「行くぞ!!!」
俺は身体強化を行い、初級魔法を撃ちながら、鎖を射出し、ヒットアンドウェイを繰り返す。
もちろんダメージなど皆無。そのため、アナスタシアは魔法攻撃を避ける事すらしなくなった。鎖にだけは気をつけているので避けているが。
俺もひたすら避けている。大規模攻撃は先程のような事を警戒してかやってこなくなった。
そのため、細かい魔法が連続で放たれている。火、風、土、水、氷、雷などの様々な属性のアロー系攻撃を撃ってくる。
俺は出来るだけ反属性を瞬時に鎖に纏い、相殺に当たる。
『しぶいといのぉ〜さっさと当たるが良い』
「お前もさっさと諦めろ!」
遊ばれてる感が半端ないな。その気になれば一撃で決着つけれるだろうが。
1時間は戦ったんじゃないだろうか?
超回復は魔力、体力の両方を回復してくれるようで長時間戦えていた────
だが、さすがに魔法の連発で今は疲弊しきっている。
体が鉛のように重い……体力も限界だ。
『そろそろ、限界だろう。死ぬがいい────空間断裂────』
その瞬間に俺は上半身と下半身が切断された。
しかし、俺はそんな事では死なないのはわかっていた。
何度でも復活して諦めさせてやる!
「まだまだぁぁぁぁっ!!!」
その後、何度も何度も即死回避と超再生のコンボが発動する。
段々と復活速度が早まっている。その度に体力と魔力は回復し、戦闘に戻る……さっきから、この繰り返しだ。
『しつこいの!』
俺もそう思う。しかし、死なないんだから仕方ないだろ!
「なぁ」
『なんだ少年?そろそろ死ね!』
「ぐぅっ」
また真っ二つにされたか……。
「無駄だ、一つ聞きたいんだがいいか?」
『……よかろう。少し休憩じゃ……お前なぜ死なん……超再生にしては致命傷どれだけ与えてると思っておる……我が疲れたわ』
おっ、良かった良かった。話し合いが出来る。
「ここの洞窟って、ここが最後なのか?」
『いや、まだ先はあるぞ? 我はここに封印された者だから自由に行き来が出来るがの。ここのフロアは我のお気に入りだ。敵は殲滅しておるし、出てきても殺しておるわ』
何を基準にお気に入りになってんだよ!? ここって何もないぞ?
「ここは魔女の洞窟って聞いてるんだけど?」
『封印されて500年経っとるから。そんなもんわからん。まぁ、間違いなく魔女とは我の事だろうな……』
封印期間長いな……。
封印って事は────こいつは此処から出れないのか?
可哀想に……俺ならこんなとこに500年もいたら発狂しそうだ。
「そうか……なんか悪い事聞いたな。骸骨で500年もいたら辛いな……でも食料とかいらないし、意外と大丈夫そうなのか? グハッ…………痛いなぁ……休戦中だろうが! 攻撃すんなよ!」
そりゃ失礼な事言ったかもしれないけど、切断の即死攻撃とかしてくんなよ……これぐらいじゃ死なないのはわかってるけど、一応痛いんだよ?
『乙女に対して礼儀がなっとらんのだ……』
「いや、お前──骸骨じゃん?!」
骨の癖して何乙女ぶってんだよ!
爺ちゃんが女性には紳士に接しろって言ってたけど、骸骨は論外だろっ!
『ぬっ、少年よ……我は美人だぞ?』
「骨が言っても説得力ねーよ……」
『可愛くない少年だの。仕方ない……我の本当の姿を見せてやろうぞ』
黒い衣がアナスタシアを纏い始める。
衣がとれると、そこには────
────骸骨はいなかった。
代わりにいたのは、それこそ絶世の美女が目の前にいた。
女神がいるならこんな感じなのでは? と思わせるぐらいの絶世の美女だ。まぁ神様がいるぐらいだし、女神もいるんだろうけどさ。
アナスタシアの姿は黒髪のロングで、胸を強調した黒いワンピースを着こなし堂々としていた。
目は二重で、瞳も大きい……鼻も高いし、口元なんて思わずキスしたくなるぐらいのみずみずしい唇だ……。
こいつ────
「幻覚を見せるの卑怯だぞ! なんでそんな美人の幻覚なんて見せるんだよ! さっさと幻覚解きやがれ!」
「酷い少年だの……我の人間の姿を見せただけだというのに……惚れたか?」
「はぁ!? んなわけねーだろっ! お前戦闘時にその姿になるなよ! 爺ちゃんから女の子には紳士になれって言われてるんだからな!」
「くっくっく、もう戦う気など失せたわ……ほれっ……」
何かを俺に投げつける。
……ってこれまさか!?
簡易鑑定を使うと万能薬と表示される。
「お察しの通り万能薬だの。我には必要の無い物だしの」
「いいのか?」
「かまわぬ。女の為に命を賭ける覚悟は見せてもらったしの。どうせ、此処で戦っても殺す事は無理そうだしの。少年────お前ちょっと異常だの? 一応、交換条件を出すが、守るなら持って帰ってもいい。少年次第だの」
「なんだ? お前封印されてて此処から出れないんだろ? 聞ける事は聞いておいてやるよ」
「ふむ、二言は?」
「ないな。ただ、無茶な事は聞かないぞ。それと俺はレオンという名前がある」
「クックック、ではレオンよ……我の婿になれ」
はっ!?意味がわからん……なんでやねん!?
「我はな……此処にずっとおる……不死王になる前もな……聖女として人々のために尽力したものだ……しかし、結婚だけは叶わんかった。その前に、ここに封印されたからの。レオンよ────我の婿になれ……というか婿にする! でなければ万能薬はこの場で破壊する事にしよう」
「なっ!?」
というか、これ脅しじゃないだろうか?
このまま此処でアナスタシアと約束しなければ────ミアは助からないだろう。
選択肢がない。いや、万能薬を持って出た後、戻らなければ大丈夫なんじゃないだろうか?
「ちなみに、契約魔法をかける故に、破れば呪いがかかる。レオンは死なんようだからの、継続ダメージを与えるのと、周りが不幸になるようにしておくかの」
そんな事が出来るのか!? あれだけ凄い魔法を使ってくる奴だ……嘘はないかもしれない。
逃げ道塞がれたな。
どちらにせよ────勝てない以上は薬を持ち出す事は不可能。
なら取引きに従ってミアを救う方がずっと良い……ミアには時間がない。
「わかった。……アナスタシアと結婚するし、ちゃんと此処には戻ってくる事を約束する。俺は嘘は吐かない」
「クックック、ならば契約は成立だの……我は汝と契約する!」
俺の胸と、アナスタシアの胸に光が吸い込まれる。どうやらこれで契約完了らしい。事前に話した内容が、そのまま契約魔法に適用されるんだな。
これ悪用したら最悪の魔法じゃね?
「それじゃあ、ミアの命を救ってくるよ。ついでに時間停止のアイテムボックスの袋とかないか? 他に短剣で特殊な魔道具があったらほしい」
ここぞとばかりに注文をしまくる。
「くっくっく、我は一夫多妻でも一切問題ない。嫁が増えたら、挨拶させに来るといい。この世界じゃ普通だしの。さぁ、行ってくるが良い旦那様? クックック…これが時間停止の付与された袋型のアイテムボックスだの。剣も入れてあるし、最悪困ったら中にある薬も使えばいい。こんな物、此処で暮らしておったら、いくらでも手に入るしの」
嫁が増える予想とかしてるし!? そして既に本妻気分じゃんっ!
俺は袋を受け取り────
「あぁ────それじゃ後でな!」
────その場を後にする。
そして、俺はまた全力の身体強化で走り出して村に向かった。
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