第9話 骸骨強すぎるだろ!

 ミノタウロスを倒し、少し休憩した後は奥に進むために足を動かしていく。次の場所に着く前に扉があった。


 なんか嫌な予感がする。なんか鳥肌が立つな……。



 ギィィィ



 扉を開けると、今度は目の前にマントを羽織り、杖を携え、カタカタカタカタと笑っている骸骨がいた。


 これはかなり不味い……。


 既に殺気というのだろうか?


 それとも威圧というのだろうか?


 凄まじい圧力が俺を襲っている。この時点で、ただのスケルトンという事はないだろう。


「あ……ぁ……ぇ………」


 お前は何者だ!? そう問おうとしたが────


 ────俺の足は恐怖により、ガクガク震えている。冷や汗も止まらない。声もまともに出すのが困難だ。



 これは、勝てる勝てないとか、逃げる逃げれないとかの問題ではないな。


 甘かった……。


 完全に捕食者と非捕食者の関係だ。絶望的な差を感じる。こんな相手が存在するとは……。



 だが────俺には関係ない!




 ────俺はどんな困難にだって立ち向かうっ!



 そう────ミアのために!!!!



 ……最悪、即死回避と超再生があっても死ぬかもしれない。


 ミアを助けてやれないかもしれないが。


 せめて、あの世で勇猛果敢に戦ったって言えるぐらいには一矢報いる!!!


 あそこまでミアに啖呵を切ったんだ──── 死ぬ時は一人で行かせたりはしない────ここで俺も死んで付き合ってやるさ!


 俺は身体強化は全力で纏い、八岐の舞を両手から発動する。


 俺にもう震えはない!


 ミノタウロス戦で、鎖も大分使いこなせるようになったし。


 新技のコツも掴んだ。


 俺が構えて────戦闘に入ろうとした時。



 カタカタカタカタカタカタ



 骸骨の顎関節から骨の音がその場を支配すると同時に俺にかけられていた圧力が霧散する。


『我の威圧に立ち向かいし、勇敢な少年よ。君はここへ何をしに来たのかの?』


 やはり、威圧されていたのか。それを解いて話して来たという事は、対話する意思があるのだろう。


 女性の声だし、話が分かる人? だといいのだが……。


「ここに万能薬があると聞いて──取りに来た。俺の幼馴染が今にも死ぬかもしれないんだ。出来れば譲ってほしい……」


 話が通じるといいんだが……。


『クックック、我にお願いとはな……少年よ。答えは否だ。何が悲しくて嫌いな人間どもを助けてやらなければならん。さぁ一思いに殺してやろうぞ。我が名は不死王──アナスタシア。幼馴染のために命を賭ける少年の名前は?』


「やはりダメか。俺の名はレオン。見逃す気もなさそうだな。俺はタダでは死なないぞ?」



『「さぁ、やろうか!!!」』



 その言葉と共に、俺は自分の距離を保ちつつ、鎖を放つ。


 八岐の舞の独特の蛇行する動きで翻弄しつつ、たまに直線の動きを使い仕留めにかかる────が、余裕で避けられてしまう。


『くっくっく、鎖魔法とは、また珍しい固有魔法を使いよるな。どれどれ、ここまで折角来たのだ。簡単に死ぬなよ少年?』


 アナスタシアの前に超高熱の火の玉が数十は出来上がる。当然ながら無詠唱か……。


 あれは、避けきれないかもな。


 しかも、かなりの高温、触れるだけで致命傷の可能性がある。


 一気にこちらへ火の玉を投げつけてくるアナスタシア。


 俺は鎖を一旦消して、再度出す。


 そして俺を中心に球状の鎖で作った防御壁を作成し、受け止める。


 ドンッドンッドンッドドドドドドドドンッ


 容赦の無い魔法による連続攻撃が俺の鎖の防御壁と衝突する。


「うぅっ!」


 中にいる俺は火傷をし始める。


 正直かなり熱い────鎖を解くと間違いなく死ぬ。


 俺は根性で堪える。


 次第に攻撃は緩くなり止んだので、解除する。


 解除した俺は、はっきり言えば満身創痍だ。よく立てていると思う。


 目の前にいるアナスタシアは骨をカタカタ鳴らしている。


 大分余裕みたいだな。だが、こうなる事ぐらいわかってたさ。


 俺の傷は逆再生するかのように治り始める。


「はぁはぁ、死ぬかと思ったぞ……」


『ふむ、それは超再生……持ちか……ここまで来れるだけはあるの。だが、地力が伴っていない。我の相手をするには、まだまだ青いな少年よ。さぁ死ぬがよい────獄炎────』


 今度の炎は先程の比ではないぐらいの熱量だ。


 しかも、炎がアナスタシアの前方から波のように展開し始める。避けようにも範囲攻撃みたいで、俺にはなす術が無い。


 例え、先程の鎖の密度を上げて防御しても、余裕で焼け死ぬだろう。それぐらいの力量差がある。


 目の前がスローモーションになる。


 この時────


(攻撃は最大の防御だ!)


 ────そう、脳裏に爺ちゃんのそんな言葉がよぎった。


 爺ちゃん。それ、どこかの漫画みたいな言葉だねって聞いた事も鮮明に覚えている。


 爺ちゃん曰く、攻撃している時はその事しか考えていない時が多くて、心に隙が出来ているから防御の事を考えていない時が多いらしい。


 だからカウンターという技が効果的で、相手が勝ちを確信し、油断している時ほど効果があるって爺ちゃんが言ってた!


 もちろん、爺ちゃんは戦闘だけで言っているわけではない。全てにおいて、慢心、油断とかしていると足元を救われるという意味合いで説明されている。


 今まさにアナスタシアは俺を雑魚判定し、さっさと殺そうとしている。


 まさしく油断している。アナスタシアは無防備だ!


 俺は爺ちゃんを信じるぜ!




 ゴォォォォォォォォォォォッッ


 もう炎は目の前。



 俺は全魔力を右手に集める。そして、一本の鎖を出す準備をする。


 質量を破るにはしかない。


「貫けっ!【穿通鎖せんつうさ】」


 細い一本の鎖。それは俺の持てる魔力操作で凝縮させた鎖で、先端は鋭く尖っており、貫通させるためだけに開発した必殺技だ。


 放つ瞬間に魔力を爆発させるようにし、勢いをブーストさせる。


 そこから放たれた鎖は音速を超え、音を置き去りにし、ソニックブームを起こす。渾身の一撃だ!


 一点突破に特化した貫通するためだけの技なので、急所にでも当たらない限り、殺傷力は低いが、あの骸骨には届くはずっ!


 そして、放たれた鎖はアナスタシアの炎を易々と貫通し、胸骨を砕く。


『なっ!?!?!?』


 驚愕の表情? 骸骨なのでわかりにくいが、予想外だったのだろう。慌てふためいてるようだ。



 ざまぁ。



 そして、俺は獄炎により一瞬にして丸焼けになった────


 最後に見たアナスタシアはそのまま振り返り────歩いて行く────



 俺は逆再生するかのように体が再構成され始める。



 ────まだ終わってねぇよっ!





 〜アナスタシア視点〜


 少年よ、やるではないか……。


 まさか、最後の最後で一矢報われるとは……。


 絶望的な戦力差にも関わらず、恐れずに立ち向かいし勇敢な少年……。


 かつて、ここまで我に対して挑んで来た者などいたのだろうか……。


 敵ながら天晴れな少年だったな……。


 500年前に勇者にここへ封印されてからは、たまに訪れる欲望に塗れた者たちを相手にしてきた記憶しかない。


 そんな中、あんなに真っ直ぐな目を向けて来られるとは────


 あの少年を見て思い出す……遥か昔────



 かつてと言われた我よりも昔────────!?



「油断したね? 残念────まだ生きてるよ? さぁ反撃開始だっ!」


 チッ、確かに鎖が胸を貫いたままだ。


 普通は術者が死ねば魔法は消える。


 こんな事に気付かぬとは……慢心していたか。


 ────楽しませてくれる。こんな気持ちはいつぶりだろうか……。

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