第5話 現実は非情だ
ロックバードを美味しく頂いた時に狩りの許可を貰う為に説得した。
最初は渋られたが、ロックバードを手玉に取った戦闘の事を父さんが説明してなんとか許可が降りた。
俺は思った。父さん戦闘中気絶してたのによくそんな嘘が口から出るなと……。
更に言うと────うちは家計的にも苦しい上に、母さんが身篭っていた事がわかり、それが更に俺にとって追い風になって狩りが許可された形だ。もちろん周りに内緒にする事になった。
あれから、2年が経ち、俺は7歳になった。
この2年間は周りの家にバレないように必要最低限の肉確保し、唯一の攻撃手段である鎖魔法を色々と試して、戦闘に活用出来るように改良に改良を加えたりした。
アリスとミアとも仲良くしながら遊んだりもしたし、仲は良好だと思う。好意を向けられると嬉しいよね。
そして、俺の目の前には2歳になる、妹が母さんと一緒に遊んでいる。
名前はアイリスだ。日本でも花の名前で有名で、ギリシャ神話の虹の女神イーリスが由来だったかな? とても、いい名前だと思う。
「にぃちゃ、にいちゃ」って言われると凄く、俺の気持ちが和むんだよなぁ。
そんな思いも束の間、俺の住んでいる村に危機が迫る。
2年前に起こった天候による不作が以前と比べ物にならないレベルで起こり、農作物がほぼ全滅状態だと先程、父さんと母さんが話しているのを聞いた。
アイリスが寝静まってから、父さん、母さんが俺を呼んで来たので行く事にする。
どうやら今後の事を話すようだ。
「父さん、この家は俺が狩りに行くから大丈夫だろうけど……アリスとミアの家はどうなの?」
「アリスちゃんの所はブルームが狩りをメインで行っているし、農作物も全滅ではないから、ここと同じでなんとか乗り越えられるだろう……ミアちゃんの家は……農作物が全滅している……おそらくかなりマズいことになるかもしれない……」
「エリク、なんとかならないかしら?」
「一応、俺の方からレオンが獲ってきた肉を差し入れようと思っている。レオンはそれでもいいな?」
「もちろん!」
「ふふふっ、男前になったわね〜」
「しかし、まだ7歳なのに狩りが上手いな……父さんの面目が立たないな……」
「そうね。レオンはもっと大きな事をしそうね。例えば英雄みたいな?」
「母さん、それは嫌だよ……」
「あら、なんで? 英雄なんて格好良いじゃない?」
「英雄みたいな、無償の手助けなんて絶対にやらない! あんな都合の良い扱いを受けて何が良いのか理解できないよ」
「はっはっはっ、確かにそうだな! お前はお前のやりたいようにやっていればいい。自己満足でもいい。レオンが最後にやって良かったと思えればそれでな」
しばらく、談話をして、俺は寝る事にする。
とりあえず食料問題に関してはこれでなんとかなるだろう……。
◆◇◆◇◆
次の日から俺は年を越すための食料調達のため、狩りに行った。
基本的に狩りは朝早くに行って、2時間程して帰ってきている。
俺には無限収納があるため、バレずに村に戻る事が出来るので、周りは遊んでいると思っているだろう。
両親には恩恵の話はしている。その上で周りには話さないように言われた。
この世界では恩恵を持っている人は能力によっては拐われたりする────日本と違って治安も悪い。
現在、狩りに出た俺は片っ端から、獲物を発見しては無限収納に放り込んで行く。
動物から魔物まで、野鳥、兎、猪、オーク、ロックバード等が次々と無限収納に溜まっていく。
この辺で強い魔物もいないし、狩る時は比較的、遠距離から安全に行なっている。
近付かれても────鎖魔法は攻撃から防御まで行えるから対応に困らない。応用が効く魔法で助かる。
そして、魔力循環をよくやっていた為か、身体強化が出来るようになっていて。とても7歳だとは思えない力で殴ったり出来る。
ゴブリンなんてワンパンなんだぜ?
やはり、無駄な努力なんてないな……。
他の魔法とかも使ってみようと思えば使えるのだが、非常に悲しい結果になった。
一応使えたし、適正はあるみたいだ。
ただ────全て初級魔法しか使えない。
ただ、無詠唱で行使が可能だったのがせめての救いだった。鎖魔法と同じでイメージが大事なのだろう。
言葉にする方が若干威力が高い様な気がするのも間違いではないだろう。
世の中に詠唱が必要だと思われているのは、発動するためにイメージの補完だと俺は推測している。
まぁ、専門の知識もないし、推測の域は出ないんだが。それはいいとして──
固有魔法持ちでは、初級魔法しか使えなかったりするのは、そんなに珍しい事ではないようだ。父さんも同じように生活魔法以外は使えないと言っていた。
というか、この世界の一般常識的な物らしく。固有魔法持ちは生活魔法しか使わないそうだ。訓練しても使えなかったり、強くならないかららしい。
これは俺も実感している。何故か発動間際に失敗しそうになる。多めの魔力を込めてなんとか無理矢理発動している感じだ。
でも、俺が試した限りではだいたい使えた。いつか練習して、更に使えるようになりたい。
ちなみに身体強化は魔力操作で行うのでバフみたいな形ではない。一応そんな魔法もあるらしいけど、詳しく知らない……というか知ってる人が周りにいない!
まぁ、つまり身体強化は己の技術というわけだ!
狩りが終われば──村に帰って、アイリス、アリス、ミアと遊ぶ。
そんな毎日を過ごし、冬が訪れる。
皆んな生活は苦しいだろうけど、助け合ってなんとか凌いでいる。
最近は狩りに行かなくても、無限収納の中にある食料だけでなんとかなりそうなので、コミュニケーションを取るようにしている。
けど────最近はミアが家の手伝いとか、体調が悪いとかで来ない事が増えている……。
「なぁ、アリス。ミアは今日も体調悪いのか?」
「最近は誘いに行っても、おばさんが熱があるから出れないって言うんだよ……心配だから会いたいって言っても、感染るとダメだからって家に入れてもらえないんだ……」
「そうか……もう顔を10日ぐらい見ていないから、さすがに心配だな」
これは、あんまり良くないかもしれないな……。
見舞いに行くか! 果物もこの間、森で手に入れたしな。
「アリス、これから見舞いに行こう……その前に薬師の婆さんの所に寄ってからな」
俺は薬を買ってから向かう事を伝えると、それにアリスは頷いてくれた。
しかし……少し前まで普通に遊んでいたんだがな。
アリスが行っても合わせてくれない────何か引っかかる……。
薬を買って、しばらく歩くとミアの家に着く。
トントン
ミアの家のドアをノックすると──
「はぁい、あら、レオン君とアリスちゃん。ミアは体調が悪くて外に出れないのよ。変な流行り病だったら困るから、家には誰も入って貰ってないのよ……ごめんなさいね…」
──とミアのお母さんに申し訳なさそうに言われるが、今一つ腑に落ちない。何が引っかかるのだろうか?
────あぁ!? そうか!
わかったよ……何が引っかかっていたのか………。
「ちょっと、入りますねー」
サラッと素早く家の中に入る。
「こらっ、ダメって言ってるじゃない!」
おばさんは全力で俺を捕まえようと動き、静止の声をかけるが、俺は捕まる気はないためすり抜ける。
そして、ミアのいる部屋に辿り着く。
ミアはベットで寝ていた………。
ミアの姿が見えた瞬間に怒りが込み上げる。
────ミアの顔は酷くやつれており。
────頬はこけ。
────目は窪み。
────唇はガサガサになり。
────あれだけ綺麗だった髪の毛はボサボサで酷く傷んでいた……。
手も枯れ木のようになり、おそらく体も酷い状態になっているのだろう……。
アリスはミアの近くまで行き、そのまま泣き出した。
俺はミアに声をかける……。
「ミア、会いたかったよ……」
「……ぁ……ぃぁ…ぁ…ぁ……ぉ」
もう声も出ないのだろう。
それでも──精一杯の笑顔を俺に向けてくれた。
俺は目の前の糞みたいな現実に心底腹が立った────
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