第174話 モロクはラクドに残る
全身の関節が痛い・・・
モロク=ロウガイの過去の記憶だ。
影魔術を習得してから、もっと強くもっと強く、魔術を磨き、体術を磨き、剣術を磨き、戦略を磨いてきた。
『強くある事』、それが魔獣討伐師として、人類を守るために自身に課せられた『使命』だと強く思っていた。
50歳を過ぎてから、ある異変に気づき始める。
魔術のキレが徐々に徐々に鈍っていく、何度も気のせいだと思いたかったが、それは純然たる事実で・・・体術も、剣術も鈍っていくのを止められない。
何もかもが錆びついて、気づけば、満足に走る事さえ出来なくなっていた。
強くなる事が唯一の自身の存在意義だった。
何故?
なぜ、自身の唯一の生き甲斐を財産を、理不尽に奪わなければならないのか!
自分の中に怒りと絶望が黒く自身の奥底に溜まっていった・・・
魔王軍の使者に出会ったのは、そんな時だった。
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魔王城の隅で、深く黒いローブを被り、モロクはたたずんでいた。
「よぉ、人間の裏切り者ぉ」
数匹の魔獣が、モロクに話しかける。
「お前は人間の都の進軍に参加しないのか?」
「・・・」
モロクは沈黙を続ける。
魔王からここに残る許可は貰っている。
「どうにも人間は、信用ならない、しかも裏切り者だ」
「ガハハ、そうだな、次いつ裏切るか、しれたものではない」
「どうして魔王様はこんな人間をここに置くのか!」
「ははは、誠にそうだ」
モロクは、彼らの戯言に、ため息混じりに答える。
「それはきっと、私の腕が立つからではないでしょうか?・・・貴方達よりも」
モロクの挑発する様な言葉に魔獣達は激怒する。
「貴様ぁああああ!!人間の癖に!!もう許しておけん!!」
・・・
数秒後、彼らは細切れの肉になってあたりに転がる。
モロクはその肉ごと、『影』に引き摺り込む。死体を残さなければ、問題になる事も無い。
正直、カッとなった。
人間、痛い所を指摘されると正気を保てなくなるものだ。
(いや・・・これが『若さ』なのだろうか、くく)
王都に残してきた家族には悪いと思っている。だが、悪魔に魂を売ってでも、『若さ』を取り戻したかったんだ。
こう考えるのはどうだろう。
自分は物語の主人公の様に『転生』した。知識だけ引き継いで、違う人生を歩んでいる。
ならば、元の人生での事など気にする必要は無い。
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