第40話 情報屋のシフは、既にあきらめている




同刻、センシは





王都の裏街のさらに深く暗い場所に足を運んでいた。

ある情報屋とコンタクトを取るためだ。


彼の名はシフ


ギルドにも聖教会にも貴族組織にも属していないのに

そのすべてに誰よりも精通している不思議な男

謎は多いが、センシは頼りにしていた。



暗い路地の扉を開ける。



店の中は別世界の様に明るく、多くの者が思い思いにお酒を楽しんでいる。

周りを見渡し、ある席に座る。

そこに座っていた男はセンシの顔をみて驚く。




「よぉ、センシ・・・まさか生きているとは思わなかったぜ」




「そりゃどうも」

そっけなく返事をして酒を注文する。



「お前がススラカの街に戻って単独でも街を守ると言い出した時、俺は『お前が確実に死ぬ』と予測していた・・・どうやって生き残った?、教えろよ」



「さーな」

出てきた酒をぐびりと飲み、さらにお代わりを頼む。


「はぁ・・・相変わらずだな」




「ここへ来た目的は一つだ、『買いたい情報』がある」


「へいへい、どんな情報をご所望で?」






「王都で・・・『魔王軍に組しているスパイの情報』を 知っているだけ教えろ」






その言葉を聞いた瞬間

今まで飄々と振舞っていたシフの顔つきが変わる。

空気がピンと張りつめる。




「そいつは・・・どれだけ高い金を積まれても・・・言えねぇな」




その言葉はゆっくりと

絞り出すように吐かれる。



「なぜだ?」




「なぁ・・・センシ・・・お前の事を信頼しているからこそ言わせてくれ・・・もう『人間に味方するの』は止めにした方が良い」





は?




センシの怒気の籠った威圧を受けても

気にする様子もなくシフは続ける。




魔王軍は、

もう余裕で人間すべてを殺し尽くせるほどの勢力を、準備しているんだぜ?

俺はこの眼で見た、

わざわざ、北の死の谷まで行って、この眼で見てきたんだ。


シフはガクガクと震えながら

遠くを見つめながら話す。


だからさ、今こうして王都が火の海になっていないのは

魔王の気まぐれでしかないんだよ。




「だからって、お前も戦わなきゃ、魔獣に殺されるだけだぜ」




「・・・いや、違う・・・魔王はさ・・・人間の王と違って、『強い奴、能力のある奴』には寛大なんだ・・・能力を誇示して有能な所を見せれば、ちゃんと配下にしてくれる」



「お前何を言って・・・」と言いかけたのをセンシは飲み込む。

シフは、シフの目は本気だ。

「なぁ・・・お前も・・・」





「俺は!・・・魔王と最後まで戦う・・・そして、死ぬつもりも毛頭ない」





一瞬その常軌を逸した目に飲まれそうになるのを

堪えて、はっきりと言い切る。

シフはその様子を見て目を丸くする。

「センシ・・・お前・・・何か前と・・・様子が変わったように見える」


センシの頭に一瞬、

チー牛に殺されかけて

そこに立ちはだかったユシアの背中の映像がよぎる。


「いつもと、一緒だ」


急いでそのイメージを振り払い。

不機嫌そうにそっぽを向く。




「最後の手向けに大サービスだ・・・近々、『勇者の仲間の選抜会』が開かれるのを知ってるか?」




「ああ、王様が各国から精鋭を集めて開くっていう、それがどうした?」



「ヒントはここまでだ、じゃあな、生きていたらまた会おう」



お代を多めに置いてシフは去っていく。

憐みのつもりだろうか

センシはため息をついて、お酒を飲み干した。





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