『勇者の証』が『股間』に出たけど、ボロンする勇気がないので偽勇者に追放される ~今さら本物の勇者だと気づいても、もう遅いこっちは美人姫騎士とのんびり旅を進めるんで~
第36話 斧鍛冶屋オノノン、すべてが虚無
第36話 斧鍛冶屋オノノン、すべてが虚無
斧鍛冶屋のオノノンは、
今日も虚ろな目で、王都の酒場のテーブルにうなだれる。
あの男が死んで数年・・・
俺の周りの世界のすべてが灰色の虚無になった。
もう何を見ても心が動かないし
感性そのものが死滅してしまったようにさえ感じる。
この世の憂さを忘れるために、今日も昼間から酒を煽る。
今日は珍しく俺にお客が来た。
鍛冶場の仲間にココを聞いて来たと
こんな場所まで俺を訪ねてくるなんてもの好きも居たものだ。
斧を複数本ぶら下げた男と・・・あれは・・・妖精か・・・ここらじゃ珍しい。
「帰れ、俺はもう金輪際、斧は作らねぇと決めたんだ!」
乱暴にあしらう。
んん?バートの奴の紹介?
バートとセントさんには随分な借りがあるし・・・無碍にも出来んな
まぁ、飯ぐらいは食ってけ、ここのは美味いぞ
$$$
ユシアとフェリは朝から
オノノンさんを探していた。
鍛冶場の仲間から彼のいる酒場を聞いて来たものの・・・
ユシアはオノノンさんの奢りの飯を黙って食べる。
酔ったオノノンさんは、聞いてもいないのに過去の諸々を語り出す。
「戦闘斧にはロマンがある!」
彼は熱弁する。
その理不尽な一撃、その圧倒的な破壊力!
心が躍る!
俺はそんな斧が作りたくて、鍛冶屋の道を進み、
ついには王都で一番の斧鍛冶屋と呼ばれるぐらいにまで成り上がったんだ。
そして・・・そんな時・・・『奴』と出会っちまった。
聖騎士団に所属する奴はとても強かった、
大剣でばったばったと魔獣を薙ぎ倒す姿
全身が震えた、ビビッと来ちまった。
奴が俺の斧を使えば・・・一体どんな・・・想像するだけで・・・
あ・・あ・・あああ・・・あ”ーあ”ーーーー!!!
想像だけで、
一か月は鍛冶場に籠って斧を何本も打ち続けられたね
ある日、もう片思いには耐え切れず、
奴に最高の斧を持っていった。
「ど・・・どうか、俺の斧を!武器として使ってくれないか?」
・・・
だが、奴は気まずそうに、こう答えた。
「いや、俺は『大剣スキル持ち』だから、『斧』はちょっと」
・・・
だが、俺はあきらめなかった。
奴の自室に何本も斧を並べたり、
斧スキルの啓発本を並べたり、
斧のすばらしさを枕元でつぶやいたり
思えば・・・あの頃は・・・幸せだった・・・
オノノンは、遠い目をして話す。
対するユシアたちは、困惑しかない。
(ねぇ、ユシア、もしかして、この人・・・『ヤバい人』なんじゃない?)
(もしかしなくても、十分、『ヤバい人』だぞ)
それにしても・・・
この話、何かを思い出すな
そういえば、聖騎士だった親父が
王都から帰って来た時、似たような話をしていた気がする。
王都の自室に『斧』を大量に並べてくる鍛冶屋に。付きまとわれて困っている。
仕方がないから一本もらったら、とても喜んでいた。
そうだ・・・確か・・・
自室は狭くて邪魔だから
こっちの家のお土産として持って帰ってきた。
・・・
ユシアが木こりを始めてずっと使ってきた斧
この間、人面樹との戦闘で壊してしまった斧
ユシアはこっそりと
かつて斧だった『棒』を確認する。
『オノノン』という銘が刻まれていた。
今まで、使っていた斧は、
目の前で酔っているこの人の製作物だと判明してしまった。
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