第35話 センシの用事



王都1日目




センシとユシアは宿をとって

そこで休む。


夜も更ける頃になって、センシは外套を羽織り

出掛ける準備をしている。




「ちょっと出掛けてくる」




いきなりの発言に困惑するユシアとフェリ

「こんな夜にどこに行くんだ?」



「馬鹿ねーユシア、男が夜中に出掛けるって言ったら、それは『アレ』よ」



アレ!?



「どういう事だよ、センシ!」




「・・・いいから、お子様は寝てろ」




無理やり振り切って扉を出て行く。







$$$









王都に魔王側に裏切った人間が居る・・・





以前であれば

魔王側の謀略だと笑い飛ばしていた話


ススラカの街の防衛で命を落としかけて初めて理解した。



確かに協力者が居るとしか思えない事象が数多く起こった。



それも、一人や二人なんて生易しい数ではない。

相当上部の貴族王族にまで意見できる人間でないと今回の手引きは不可能だ。




センシは、曇った夜空を眺めながらため息をこぼす。




そして、今回、王都に来た目的

確実に裏切者だと確信できるひとりに会うために

ここへ来た。



『お前の影魔術、日中は、かなり効果が下がる』



あの牛の魔獣がつぶやいた言葉

そんな門外不出の事実を知る人物は数名しか知らない。



ランプの光を頼りに街を歩き

ある民家の戸を叩く。



「こんばんは、夜分遅くにすいません」



妙齢の女の人が扉から出てくる。

その顔を見るとほっと一息ついて、それから泣きそうな顔になる。


「センシ君、久しぶりね」



「何かありましたか?」



「それが・・・ウチのお爺ちゃんが・・・突然居なくなってしまったの」




この家に住んでいた老爺の名前は『モロク』

センシの影魔術の師匠だった男だ。



詳しい事情を聞く。

彼は数日前に突然「しばらく家を空ける」と言って

行先も告げず出て行ってしまったらしい。

ススラカの街が魔王軍を退けた一報が入った直後だったそうだ。


センシは彼女に「必ず連れ戻します」とだけ言って別れる。




夜通し、王都中を影魔術で探るが

痕跡を見つける事はできなかった。



脳裏に思い出されるのは、

師匠が最後に発した言葉だった。




「なぁ、センシ、私はずいぶん老いてしまった・・・もし・・・な・・・もしも、悪魔に魂を売って、全盛期の強さを取り戻せるとしたら・・・お前はどうする?」




空が明るさを帯びてきた。

夜が明ける。



センシは宿に戻って、ベットに潜り込む。




(とりあえず、絶対に裏切者じゃないと断言できるのは、そこに居る斧野郎と妖精ぐらいだな)




そんな考えを巡らせながら眠りに堕ちていった。





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