石
「凄いでしょ」
さて、どこから失敗したのか。電話にでたとこからか、こいつから離れようと決めた一昨日からか。そもそもこいつと出会ったこと自体が失敗だったのかもしれない。いやいや、こいつとの出会いを後悔するならこんな言い方は陳腐すぎる。ドラマの見過ぎだ。そういえば昨晩の回は最悪だったな。一人の棒読みであれほど雰囲気がぶち壊れるとは。いくらゲストとはいえ……
「けいちゃん、どうしたの」
ドラマの批評で目の前のことから離れようとしていたのに、こいつの脳天気な声で引き戻される。くそ、逃げられなかったか。
「コーヒーとホットミルク、どっちがいい? 僕的には賞味期限の近い牛乳を選んで欲しい」
「ハーブティー。匂いが強いやつ」
「あったかな……」
よし、これで考える時間は稼げた。これをどうするべきか。山は駄目だな。一番それっぽい理由をつけて説得できるが、足がつきやすい。海も同じか。どう考えても八方ふさがり。それならいっそ……と台所に目を向ける。うん、駄目だ。これに対するあいつの考えはカッチカチに固まっている。それこそ石みたいに。
「はい、ハーブティー」
「これ、どっから拾ってきた」
とりあえず場所の確認だ。最悪元の場所に戻すという手もある。
「○○山にハイキング行ったでしょ。奥の渓流に落ちてた」
ああ、ハイキングか。俺が登山紐を準備してる間に、お前がふらふらとどこかにいったせいで全部おじゃんになったあのハイキング。あれが全ての原因か。
「あのとき持ち帰ったわけじゃないよ。持って帰っちゃ駄目っていうと思ったし、諦めようとしたんだ。でもやっぱり欲しくってさ、次の日にこっそり拾いにいっちゃった」
「で、拾いっぱなしのままここに置いてるのか」
まずは人目につかないようにしなければ。カーテンを閉めているとはいえ、庭に面したリビングに置くのはまずい。
「他の石と一緒に飾りたいんだけど、いいケースがなくて」
「臭いが少しきついな」
ハーブティーなんかじゃごまかしきれない。
「そうそう。他の石もちょっと臭うやつとかあるけど、これにはかなわないな。種類が分かれば対処できるかと思って、けいちゃんに来てもらったんだけど……」
なんて名前の石?
聞かれても答えられるか。ただの腐乱死体じゃないか。
了
(蓑浦鉄鼠)
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