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 四人は落ち着きを取り戻すために、来客との会談用の席に着いた。壮年に近い上役どもがテーブルひとつを囲むと、異様な緊張感が漂った。だが山田副社長は、ようやくマトモになった気がして、その緊張感に心を和ませたくらいだった。あまりのショックに、村上部長は薬物中毒患者のようになってしまっていたが、彼はナイーブな男だからしょうがないと副社長は考え、そっとしておいた。


「えー、朕は」と、唐突に社長が話しはじめた。まるで演説会かのような話しぶりだ。

 そこですかさず、「『チン』って何ですか?」と、野村部長が訊いた。

「私って意味だと思ってくれ。もっとも朕なんて、国家元首ぐらいしか使わんがね」と、イライラした様子で山田副社長が教えた。だが、後半部に本音が出てしまって、気まずい思いをすることになった。


「えー、朕は国家なり。じゃなくて朕はこの世を憂いたのじゃ。これまで生きてきて何を感じたかと言えば、憂いだった。それはひとえに憂いだった。憂いた私は憂うべきではないと思って、憂い……えーと、その……世直しに出かけるっちゃ!」と、社長は最後に明るく言った。野村部長は真面目だが遠慮があまりないので、「社長、ナポレオンからラムちゃんになっちゃいましたね」と、笑いながら副社長に言った。副社長は眉をしかめるばかりだった。


 もうあきらめよう、むしろどこかに行ってくれた方がいいと、山田副社長は思いはじめていた。『ここではないどこか』へ行っちまへ!

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