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 いよいよヤバくなってきたと、側近が危機感を強めたころにはもう遅かった。

「朕は旅に出る。あとはよろしく頼むでござる」と、社長は神妙な顔つきで、社長室に呼びいれた山田副社長に告げた。

「え? 突然何ですか! 社長、困りますよ。読書ならいくらしてもかまいませんが、せめて社長室にいてください!」

「全権をそなたに譲る」

「え、いいんですか? いや、いけません!」

「もともとお主がすべてやっていたではないか。朕はペッタペッタハンコを押していたのみ……。何なら社長やっていいよお!」

「いえ、それはできません。木下工業は木下家あってこそです」

「でもさあ、私には子どもなんかいないしい。どうせ木下家終わっちゃうじゃん。アハハ」


 見た目は、情けない体つきでスーツをまとい、口臭のきつそうなどこにでもいる五十代である。そんな男が武家喋りをし、いきなり女子高生喋りになったあたり、相当ヤバいと山田副社長は感じた。

「ですから、早めに奥様をもらってください。そもそもなんで旅に出るんですか?」

「世直しじゃ」

「はあ?」

「朕がこの国を正さずして、誰が正すのじゃ?」

「何も社長がそこまでしなくてもいいですよ。失礼ですがちょっとお待ちいただけますか」と言って、山田副社長は二人の部長にこの事態を相談しに行った。

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