鈍器放て

ひろみつ,hiromitsu

第一章 ドン・司馬幾世・で・裸万茶登場!

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 我らが主人公、木下誠(きのしたまこと)は、木下工業有限会社という中小企業の二代目社長であった。父親が亡くなったあと、一人っ子だった彼は地元である裸万茶(らまんちゃ)町に強制的に連れ戻され、社長の椅子に腰を下ろすことになった。東京では、やり手の営業マンとして真面目に働いていた。


 しかし地元での社長業には退屈し、社長室ではもっぱら読書にふけっていた。やがてその読書熱が本格的になり、昼夜を問わず本をにらむようになった。そうなると、もう仕事どころではない。本を買うために、工場の機械をこっそり売り払ったりしたくらいだった。


 木下誠という名前のつまらなさに、『エヌ氏』と呼んでやりたいくらいだが、そこは主人公であるので、とりあえず本名を公開した。私がこの名前を軽んじるもう一つの理由は、本人がすぐに別の名前を名乗りはじめるからである。


 彼はありとあらゆる本を読んだが、ここ最近は歴史小説にのめり込んでいた。社長室からはよく叫び声が聞こえてきたという。

「こ……、これだー!」とか、

「たまらんちゅー!」とか、

「私は今まで何をしてきたんじゃがや!」とか、

「んー、善きかなー!」とか、ついには、

「くあー、アッパレ!」など……。

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