第三話〔サムライ来訪〕3

──数分前──


 [アッシュガルC2、C3のスクランブルをスタンバイ、到着まで3分]

ULSがアナウンスする。


 「はぁ、こんなときに間に合いましたか……って、ちょっ、エモン隊長! その格好は!?」

 「フハハハハ! 風よ、私がいるとよくわかったな!」

 開かれた扉の向こうには、格納庫内の人員を見渡す金髪青年が腕を組んで立っていた。軍用コートを肩に羽織り、そして何故かフンドシ一丁であった。

 「ふ……フンドシだと!?」

 駐屯地隊員の一人が声を漏らした。他の隊員も叫ばずとも全員が同じ気持ちであった。

 「また……何してるんすか隊長……」

 一方エモンと同じ外国人の兵士たちは皆呆れていたり大笑いをしていた。

 「な、何してる……た、隊長……フンドシ……」

 「海から直行してきた!」

 風副長はその顔を赤く染め、エモンのマッシヴな上半身をじっくりと見つめた。

 エモンの隣で、アシェリーが顔に手を当て呆れていた。

 「いくぞエモン、パイロットスーツもあるからさっさと着替えろ! 何だってお前ら、俺達が何していたか? それはあとで報告書に書く!」

 アシェリーはスーツケースからパイロットスーツを取りだし、エモンに投げ渡す。

 パイロットスーツを片手で受け取ったエモンは、もう片方の手で羽織ったコートを脱ぎ捨てた。

 「海を見てると澄んだ精神を保てる」  

  エモンは濁りなく真っ直ぐな瞳を海の方向に向けた。目線の先には、オーガロイドの大群が写る。

 「その海での漁業を生業とする、この美しき町を襲うとは……許さぬぞオーガロイド!!」

 エモンはフンドシ姿の上からパイロットスーツを装着した。このパイロットスーツはコクピット内でパイロットにかかるGの負荷を軽減するためのスーツなのだ。

 「アッシュ、私の機体はどこだね?」 

 「今急行してる! あと少し、3分ぐらい待て!」

 「うむ、承知」

 エモンはアッシュに踵を返し、格納庫の外に出た。

 「何してる、エモン!?」 

 「アースセイヴァーのパイロット!!」

 エモンは格納庫の前で仁王立ちし、声を高らかにして叫ぶ。

 「私が向かう! それまでにソイツらを食い止めてくれ!!」

 格納庫より2キロメートルの距離、アースセイヴァーの弱々しいジェネレータ音にオーガロイドの彷徨。

 エモンの叫びは、それらの音よりは小さく、しかしそれらに負けぬ逞しい声であった。

 その叫びは、屈強なオーガロイドすら一瞬動きを止め、エモンの立つ方向に顔を振り向かせた。

 「基地に……皆のところに……向かわせるかぁぁぁぁぁぁ!」

 『グル……グルルゥゥゥゥゥゥゥク!』

 アースセイヴァーは最後のエネルギーをふりしぼり、体勢を低めて足蹴りで回転し、オーガロイド達の体勢を崩した。

 「エネルギー19%……十分だ!」

 オーガロイドを崩した隙を突き、アースセイヴァーはそのうち一体の首を掴んだ。

 アースセイヴァーは大きく拳を上げガントレットを展開する。拳にエネルギーが集まり、オーガロイドの首を潰す。

「ウォぉぉぉおぉぉぉぉぉぉ!」

『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

アースセイヴァーはオーガロイドを振り回し、周囲のオーガロイド達を凪ぎ払った。

『グルルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!』

「俺が守るんだぁぁぁぁぁ!!」

首を潰されたオーガロイドは放り投げられ、アースセイヴァーの後方で爆発四散した。

『ウガァァァァァァァァァァァ!!』

 オーガロイドの注目は、格納庫を破壊して蹂躙するよりも、目の前の弱々しく、しかし荒々しさを限界まで引き出しているアースセイヴァーに向けられた。

 『ウガァァァァァァァァァァ!!』

 そのとき、オーガロイドの皮膚に旋風がぶつかり、上空よりコチラへ向かう機体を感づいた。

 オーガロイドの一体が空を見上げた瞬間、その顔に銃弾が当てられた。

 

 『ウガァァァァァァァァ!!』

 他のオーガロイドも背中に被弾し、身体を仰け反ってアースセイヴァーから離れた。

 「何だ……何が来た!?」

 アースセイヴァーの体勢と同じく、日々乃はコクピット内でうずくまっていた。破壊される恐怖が、頭上より離れる。


 「来たか、サムライ!!」

 輸送ヘリからワイヤーを切り離され、上空より拡性兵が一体降り立った。

 拡性兵の名称は“アッシュガル”。灰色の装甲を纏った姿は、近世日本で戦場を駆けた足軽を模していた。

 更にこのアッシュガルは、より堅牢な装甲、より高出力のブースター、そして一振りの日本刀を装備していた。

 「コード1、エドモンド・J・ユースタス!」 

 高らかにIDコードを唱えたエモンへ、着陸したアッシュガルはM4カービン銃を構えていない方の掌を向けた。エモンはそれに飛び移り、腕を上げたアッシュガルを渡って背部から中に乗り込んだ。

 [調整完了は70%ほどだ、無茶するんじゃねーぞ]

 エモンの被るヘルメットに、アシェリーからの通信が入る。

「とりあえず、あそこで白い拡性兵に群がるオーガロイドを、残らず全て倒せばよいのだろ!」

 エモンはアッシュガルのコクピットにかけられたロープを登って乗り込んだ。

 [いいかエモン、ホントに70%、技能データだってろくに入力していない、ぶっつけ本番な状態だぞ、お前のサムライはよ]

 「70%とな……」

 エモンはコクピットに座った。座った瞬間、パイロットスーツに空けられた首筋に装置を当てられた。首筋部分から脊椎神経に繋がり、このアッシュガルにダウンロードされた機体補助システムAI──ULSと繋がる。

「ULSよ、聞こえておるか」

 [音声確認、エモンと判断]

 ULSの電子音性が通告した瞬間、目の前が明るくなり景色が見渡せるようになった。

アッシュガル─エモン機はカメラアイを下に向ける。多くの自衛隊員や己の隊が緊張して格納庫の前を凝視していた。 

 アッシュガル─エモン機が前を向くと、格納庫に向かって二体のオーガロイドが格納庫に向かって走っていた。

 「ULS、目標を定めよ」

 [イエスブシドー、標的を一体ロックオン]

 「フッ、アッシュよ、この機体の全力は70%だと言ったな……」

 懸架ラックより日本刀を抜いた。刃には『斬 鬼 化』という漢字が刻まれ、振動装置のエネルギー伝達により点滅している。

 「ならば、我が武士道を上書きして、強さを170%に引き上げよう!」

 エモン機に備え付けられたブースターが勢いよく噴射する。

 「聞けい鬼化ども!! 我が名はエドモンド・J・ユースタス!! アメリカ大陸より来訪した戦士である!!」

 エモンは気合いを溜め、己の信条を叫ぶ。その声は仁王立ちし、高周波太刀“キルオーガ”を構えるアッシュガルの拡声器を通し、暴れるオーガロイドの皮膚を震えさせる程、力の込められた叫びで一喝した。

 「ウガァァァァァァァァ!!」

 「アイ・アム・サムラぁぁぁイ!!」

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