拡醒戦記アースセイヴァ―

影迷彩

一話〔目覚める力〕1

《1995年、突如として地球上各地に隕石が落下し、多数の被害をもたらした。

 それと同時期に各地で未確認巨大生物“オーガロイド”が出現、方々で暴れまわり、様々な国を蹂躙し破壊し尽くした。“オーガロイド”でわかることはほぼ不明であり、効果的かつ明確な弱点も見つからず、人類は疲弊しそうになっていた。

 だが人類は“オーガロイド“に対抗するべく拡張性能人型兵器、通称「拡性兵」という力を生み出し戦っている。両者の力は拮抗し、この戦いは終わる気配がない。

 時は2017年。これは、その戦いに身を投じる戦士“地球の守護者“、アースセイヴァー達の戦記である》


《拡醒戦記アースセイヴァー 第一部──英雄起動──》


 海を走る漁船の上では、雲もなく晴れた空が青かった。カモメの鳴き声とともに、漁船のエンジン音が波にざぶーんと響く。

 この漁船に乗っているのは、船長一人と客一人である。客──白髪混じりの頭に目元の傷、まだ高校生ぐらいの少年──はこの青い空を釣り台でぼんやりと眺めていた。

 「今日は、よく晴れているな」

 「あ、ハイ……」

 船長の声かけに、空を眺めていた少年は相槌をうつ。

 「いや~“沈黙日”がこんなに晴れていてよかったぜ。お前を送る間に、オーガロイドが出ちゃ敵わねぇ」

 沈黙日、それは怪獣の活動が一時的に停止する現象だ。オーガロイドは殻に覆われ、迎撃以外は動かなくなる。

 オーガロイドの中には、飛行するタイプがいることが確認されている。海の上での遭遇は少なからずあるが、この漁船が走る海では遭遇例はまだない。しかし、船長に取って、船の上での危険は少なからず想定している。オーガロイドであれば、尚更であった。

 「そうですね、良かったと思います」

 少年は空を眺めたまま返答する。確かに、こんないい天気と“沈黙日”が被ったのは、運がいいことだと思う。

 オーガロイドについての知識は全くないが、オーガロイドの恐怖は、少年の心に大きな傷跡を残している。快晴が、そんな少年の記憶を明るい日差しで覆い癒してくれた。

 「いや~“新橋のおやっさん”とこのお孫さんが、こんな逞しく成長してるとはね。おじさんの顔、覚えてるかい?」

 船長はそういって、髭もじゃな自分の顔を親指で差した。

 「うん、まあ……昔のことは、よく覚えてないです」

 「昔のことか―俺達で祝った入学式で、新橋のおやっさんに連れられてるのを俺は見たことあるんだがな~」

 「……」

 少年は俯き、何も言わない。入学式のその夜に、鬼化襲撃が起きた。

 「……悪い、嫌なこと聞いちまったな。その夜か」

 「大丈夫です、ホントにガキの頃だから、何も覚えてない……」

 その言葉通り、あの夜より前の記憶を、少年は一切覚えていない。

 「そうか……おう、港が見えたぞ!」

 少年は上に向けていた顔を前に倒す。前方には日本列島の海面に位置した港町が見えた。砂浜の向こうには扇状の土地に商店街とビルの窓が、その奥では森山が葉を太陽に照らしている。

「【煌露日市】……僕の古郷」

 

 煌露日市。日本南部に位置する、漁業と造船の盛んな温暖地域。

 9年前、オーガロイドの襲撃によって壊滅的被害を受けた、日々乃の故郷である。

 建物一帯の被害戸数約80%。死者1000人以上の大災害。

 再び襲撃が訪れるまで、この町は復興を続けている。町の人たちの力で、復興率は75%を達成した。


 少年が港を出て最初に見たのは、整えられた街並みだった。

 綺麗な青空の下、廃墟なんてどこにもない、平和な街だった。

 「復興は……ここの復興は、もう終わったんですか?」

 「いや、細かい残骸はまだ残っているさ。まだ復興は完全に済んでない」

 船長の言うとおり、確かによく見ると、何もない不自然に空白な空き地が多数見受けられる。

 それでも人が住める場所が存在している分、少年が最後に見た街並みよりはマシであった。

 「ま、旧都市や荒廃化が進み始めた地域に比べれば、断然住みやすいからな」

 船長は港から煌露日町の入口まで、日々乃を連れてってくれた。

 「住みやすくなった時に来れて良かったな……どうした、何か思い出が甦ったか?」

 「─はい、少し昔を思い出して……」

 ふと、少年は港の向こうの砂浜を眺めた。そこには数人の子供たちと遊んであげているらしい、同い年の少女の姿があった。

 (とても楽しそうだな……)

 少年は懐かしそうに眺めた。


━おれはヒーローだ! なまえは━


 (何を思い出してるんだ、僕は……)

 「紹介するぜ! ウチで獲った魚を上手く調理してくれる、お前の下宿先の管理人だ」

 船長の掌の先に、壮年の男性がこちらに向かって歩いてきた。アロハシャツというラフな格好であり、何よりも特徴的なのは、右足に取りつけた歩行補助用サポーターだった。 

 「どうも、【和待宿】の管理人、“和待・明”です」

 明は、少年の手を取り握手を行った。

 「よろしくな、“新橋・日々乃”くん♪」

 少年は自分の名前を呼ばれ、うなずいた。


 グウォォォォン!

 明の運転するボックスカーから降りて、彼の運営するレストラン【和待宿】の玄関に入ろうとすると、外から駆動音が鳴り響いた。

 和待宿が建つ丘より下で、一際大きな道路をそれらは移動していた。

 二本足で立ち、両腕にライフルを構え、直立不動する。まぎれもなく、それは”人型ロボット”であった。

 1体のロボットを前にし、3体のロボットは列を作り、足のキャタピラで移動し、丘の頂上へと向かっている。

 「アレは……?」

 「拡性兵か?」

 明は荷物を玄関に降ろしながら、日々乃のいる方向へ顔を振り替える。

 「これから周囲の環境の偵察および監視だ。オーガロイドが近くで眠ってないかの確認だな」

 明は告げる。その表情は、拡性兵の進軍を見守るようであった。

 「どうした、昔を思い出すか?」

 日々乃はハッとし、震える手をぎゅっと握りしめた。

 「あれから9年、オーガロイドは再び襲来してねぇ……安心してくれ、もう二度と町は壊させない。ウチの若いのがそうしてくれる」

 明が日々乃の肩に手を置き、やさしくポンポンとはたいた。能天気な顔立ちは、険しく真剣に拡性兵の列を見送った。

 

 二階へ案内された部屋に入り、日々乃は身支度を整えた。部屋は下宿用として、部屋の両端に二段ベッドが設置されている。着替えや生活必需品を入れたスポーツバッグを個別用ロッカーにしまい、日々乃はベランダから町の風景、海の先を眺めた。

 日々乃がこれまで暮らしていた島の風景にはない、人の営みが表す電線や建物の列が、9年ぶりに町に住み始める日々乃には新鮮に見えた。 

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