過去1

そこは曇天の荒野だった。

天から降りしきる大粒の雨粒は地上に理不尽を殴り続ける。

見渡す辺りに建造物は見えない。

いや、建物と呼べたものは崩れ落ち、硬い塊となってそこらに力なく転がっている。

まるで廃墟。

そして飾りつけのように破壊された重火器と、砕け散った元人間の亡骸が着色されている。

鳴りやまない水たまりは赤色に染まり、夥しい量の臓物が無邪気に飛散していた。

遠くでは何度も爆撃の音が響く。

ここはただの荒野ではない。

ここは互いの信じる正義をぶつけ合う、暴力と狂気、そして喜劇の戦場だった。


その中を一人の兵士が進んでいた。

どこへ向かっているのだろうか、十字の腕章をつけたその兵士の意識は朦朧としている。

目に精力は感じない。それでも阿保憑かない足取りで歩く行為をやめない。

そして背負った血まみれの兵士に必死に語り続けている。

ぬかるみで思うように歩けないのだろう、幾度も転倒しては2人共々水たまりに顔をうずめた。


背負っていた味方は生きている様子はない

十字腕章の兵士はその表情を見ると苦悶の表情を浮かべ、口惜しさと悲しみを堪えるように奥歯を噛み締める。這いつくばりながらぬかるみを出ると見方を引きずり起こす。


荒い息は白く、凍える脚にほとんど感覚はないのか、何度何度も拳を打ち当てて己を奮い立たせる。そして呼吸を整え歯を食いしばり立ち上がりまるで人形のように無垢な味方を背うと再び歩き始めるのであった。





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