キレイ好きは死んでも治らないようです
鳴座
第1話
皆さん、こんにちは。元気でしょうか?
私はとても元気な上に、目の前に広がる景色に呆気にとられております。
「世界の車◯から」も舌を巻くのではないかという様な素晴らしい景色。
どこまでも広がる空は澄みきった青。
青に浮かぶ白は足早に流れていき、私の旅に同行してくれそうにはない。
そんな空の模様とコントラストを描くのは、これまたどこまでも続く草原の緑。
地平線でも混ざり合う事はなく、予定調和の様に青と緑は広がっていく。
どこまでも続く、雄大な自然。
その光景はモンゴルの高原やらを彷彿とさせる素晴らしいもので、きっと高解像度で皆さんにお届けできたら少しくらいの小遣い稼ぎにはなりそうな、いや、きっと感極まった皆さんから、私に代金を払ってくるのではないかなどと…
皆さんって誰かだって?
私にも分かりませんよ。ホント。
えぇ、私には今の状況が何一つ分からない。
分かっているのはただ一つ…
「お気分は如何です?」
私の横に座っているこの少女に助けられたということだけ。
ニコニコと笑顔を浮かべる少女を横目に、私はとりあえず、ここまでの記憶を整理する事にした。
整理するほどの記憶があるのかも、疑わしいのだケド…
皆さん、こんにちは。
私の名前は
19歳。彼氏募集中とか言いつつ本当は募集などしていない、一般的な女子大生だ。
スリーサイズなどこの場で公表するつもりはない。
そんなものを聞いてくるような輩がいたら、中学生の頃の私の地元での通り名「血塗れの洗浄塚」の意味をその身を以て知る事になるので悪しからず。
てか誰よ、このダサい通り名付けたヤツ。
ちなみに好きな科目は世界史。
大学に入学する際「国際歴史文化研究学部」なんて、長ったらしい名前の学部に入るくらい歴史好きだ。
その理由は単純明快、色んな本を読んで、漫画を読んで、ゲームを嗜んでいたら自然と興味を持つようになったからだ。
最近のゲームでは、歴史上の人物やら神話やらから名前をとってくる事が珍しくないし、サブリミナル的に好きになったのではないだろうか。
ただし、中国史は嫌いだ。これまた理由は単純明快。漢字が多すぎる。以上。
でも「キング◯ム」は好き。あれは良い、良いぞ…
さて、前置きはこの辺りにしておこう。
私はその日、午前中にのみ組んでいた講義が終わるとそそくさと帰り支度をして帰ることにした。
午後にもまだ講義が残っている友人に憐みの視線を向けつつ、優雅な足取りで以て帰路についた。
徒歩10分程で辿り着いたのは、外観に蔦が絡みついた、いかにもボロアパートですと言わんばかりのボロアパートだ。
家賃3万5000円で、風呂トイレ別の1LDK。
一人暮らし。
そろそろ親からの視線が鬱陶しいなあ、なんて思ったので大学近くのこのアパートに居を構える事にしたのだ。
家に辿り着き、明後日までに提出のレポートが半分ほど完成しているのに満足しつつ、夕方からのバイトに備えて一眠りする事に決めた。
その前に、家の掃除は欠かさない。
これだけはしておかないと、私に安眠は訪れないのだ。
一通り掃除を終え、その綺麗さに満足した私は、枕に顔を突っ伏し眠りについたのだった。
そこで、摩訶不思議で奇々怪々で、理解不能な夢を見たのだ。
夢というか、悪魔だったのだが。
気づくと私は神殿の中に居た。
一目で神殿と気づいたのは、私が超優秀で超博学だったからではなく、誰もが一度は目にした事がある有名な構造をしていたからだ。
端的に言えば、パルテノン神殿。
その内側見ても、何本もある柱に白亜の内装はあの神殿を嫌がおうにも連想させるだろう。
しかし、そんなものよりもっと目を引く存在が目の前に居た。
いや、かの有名な神殿を「そんなもの」と言い切ってしまうのはどうかと思うのだが、それでもやはり、この場で異質なのはその存在だった。
「よう人間!喜べ!お前は俺が管理した人間第一号だ!」
驚いて声の主を探す。
眼下に居たその人物は、小学生程の少年だった。胸を逸らし、踏ん反り返って偉そうにしている。
その身長は、ぼけっと立ち尽くしていた私の腰辺りに頭がくるくらい。
少年は、金色の髪にくりくりした大きな目を持つ中々の顔立ちをしていたが、その尊大な口調は可愛らしい顔には似合っていなかった。
「おい!なんだよジロジロ見て!ちょっと無礼じゃないか!?」
驚いて硬直してしまった私に対して、その少年から怒声が飛ぶ。
しかし、正直な話、今の私にはそんな少年よりも目を引く存在が目の前に居るのだ。
居るというか、有る。
私と少年から少し離れた場所に座すそれは、その巨人は、静かに私達を見下ろしている。
座ってはいるが、その足元から頭までは恐らく10メートル近くあるだろう。
ギリシャ神話に出てくるような神様らしい出で立ちをしたその巨人は、目を瞑りながら自らの顎髭を撫でている。
恐らくその時の私は、ポカンと口を開けて、その状況を飲み込めずにいた事だろう。
というより、その時点では夢だと思っていた。
「おい!なんとか言えって!」
尚も少年が叫んでいる。
それでも何も言わない私に今度こそ腹を立てたのか、少年が私の右足を思いっきり踏んづけてきた。
「痛ったあ!」
思わず声が出てしまった。
そう、夢にしては妙に生々しい痛みだった。
履いてるのはサンダルなのに、何故このような威力が出るのか?解せぬ…
私の反応に満足したのか、少年は私から一歩離れるとまたも踏ん反り返りながら鼻を鳴らした。
今の痛みで冷静になった私は、とりあえず素直に聞いてみることにした。
「君、誰?」
「よくぞ聞いたな!人間!
俺はローカ!偉大なる神インヌを父に持つ大神の息子である!」
そう言いながら、バッと両腕を広げて後ろの巨人を強調してくるように見せてくるローカと名乗った少年。
察するに、後ろの巨人が偉大なる神インヌとやらなのであろう。
「ナルホド、神様とその息子さんね。聞いたことないケド。」
「ふん!人間の知っていることなぞ、たかが知れているものよ!」
少し機嫌を害された風な少年に、何も言わずに泰然とした様子の神様とやら。
可笑しな夢だと思いつつも、私は夢の住人に訊ねてみた。
「で、その神様とその息子様が、私に何の用ですかね?」
「ふん!先程言ったであろう!お前を管理してやったのだ!俺に管理される人間、その栄えある第1号だぞ!」
少年の言葉は要領を得ないものであった。
しかし、その「管理」という言葉がその口から放たれる度に、私は嫌な予感が自身の内に積もるのを感じていた。
これはそう、レポート締め切り1日前に、滅多に人に奢らない友人から昼ご飯を奢られた時のような…
「その、管理って言うのは…?」
「うむ!お前の寿命をちゃんと尽きさせてやった、という意味だ!」
寿命を尽きさせた、という不思議な言い回しに、私は暫し悩んだ。
いや、悩む必要などなかった。
それは私が超優秀で超博学だからではなく、それとなく、他ならぬ私自身が実感していたからだったのだが。
しかし、その事を確認しない訳にはいかないだろう。
意を決して、私は口を開いた。
「もしかして私、死んでる?」
「…さっきからそう言ってるだろ?」
「…」
思わず絶句。七言でも五言でもない正真正銘の絶句。
少年の訝しむような視線が私に突き刺さり、私はいたたまれない空気に暫し、身を浸すのであった。
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