第3話 僕の歌を聴け @1
「へい一叶、最近祈祷さんとはどう?」
「どうもこうもあるかフラれて以来何も無いわボケ」
開口一番、早速とばかりに喧嘩を売ってくる道幸に中指を立てる。コイツの発言の大半は、「心配」の皮を被った「煽り」だ。全力で殴りかかったとて文句は言われまい。
「まだ荒れてんのか?」
「道幸のせいでしょ」
「はぁ?フラれたのも俺のせいだって?」
「そこまでは言ってないけど……」
「まぁ半分は正解だけどな。祈祷さんとは一叶の面白エピソードでよく盛り上がるし、つまり一叶の悪印象の九割は俺が植え付けたと言っても過言ではない」
「マジでぶっ殺したろか?」
「好印象の九割も俺が植え付けてるからプラマイゼロだ」
祈祷さんからの好感度を道幸が上下させているというだけでも十分に腹立たしいが、しかし本当に好印象も抱かせてくれているなら許さざるを得ない。祈祷さんが僕に無関心であるよりかは、幾らかマシだと思えた。
「……というか道幸、祈祷さんとよく話すの?」
「いや?祈祷さんとーってよりかは誰とでも。俺は女子との友情が成立するタイプなんだよ。好きな子は他に居るから心配すんな」
「へぇ」
道幸は別にモテる訳ではないが――というか僕がモテる男と仲良くする訳もないが、人との距離を詰めるのが存外上手い。よく頭がおかしいと言われる僕と仲良く出来るのも、きっと道幸だからこそなのだろう。
「それにほら、祈祷さんとの関係修復のフォローもしてやるからさ。まだあれから祈祷さんと喋れてないんだろ?」
「え、ええ……いいの?」
正直なところ、かなり嬉しい申し出だった。図太さを売りに生きている僕だが、流石にフラれた相手にズケズケ行けるほどではなく、どうしていいか困っていた。
藁にも縋りたいところに、藁が現れた気分である。
「頼むぜ相棒、期待してるからな」
「任せとけ。こう見えても俺、幼稚園時代はめっちゃモテてたんだ。女心は分かってる」
「おお!それは頼り、に……?」
「ん、ちょうど祈祷さんが登校してきたぞ」
「え?あ、ホントだ」
何か重要なワードを聞き逃した気もするが、祈祷さんが現れた今はそれどころではない。『僕と祈祷さんの関係修復大作戦』の始まりだぜ。
「祈祷さん、おはよー」
と、道幸が即座に話しかける。僕にとって何よりもハードルの高かった第一声を代わってくれたことに、僕は感激を覚えた。祈祷さんは、席に座った僕らの元へと近づいてくる。
「おはようございます、笹木さん……と星乃さんも」
「うん、おはよう祈祷さん」
いつも通りの微笑んでくれる祈祷さんを見て、祈祷さん側は告白の一件をそこまで重く捉えていないのだと分かった。安心したような、逆に脈ナシである事実を突きつけられたような、とても複雑な気持ちである。
「んんー?祈祷さん、今日はなんだか楽しそうだね。何か良い事でもあった?」
「え、あ……。分かります?」
道幸の言葉を聞いて僕も祈祷さんを見上げる。すると確かにいつもよりも朗らかに思えた。普段からクールな祈祷さんには割と珍しい。
僕はふむとその理由を考え、祈祷さんに問うてみる。
「――もしかして朝ごはんが美味しかったとか?」
「美味しかったですけど、全く関係ないですね」
そっかぁ。
「実はQtubeで、凄く素敵な配信者の方を見つけてしまいまして。一昨日からずーっと追ってるんですけど、それがもう楽しくて楽しくて」
「へぇー。なんて人?」
「新人も新人の方なので、言っても分からないと思いますよ。でもとにかく可愛いんですよねー……」
祈祷さんは、惚けたように甘い息を吐く。「可愛い」というので恐らく相手は女の子だろうが、それでもほんの少し悔しく思えた。
「ところでさー、祈祷さん聞いてよ」
「なんです?」
突然、道幸が祈祷さんに話題を振り始める。珍しくアクティブな道幸に驚かされるが、もしかしたらこれも僕の為なのかもしれない。
会話に空白が生まれないように、積極的に話題を作っていくのはコミュニケーションにおいて重要だと言える。
もしも今、僕が祈祷さんと二人きりになったらと想像すると、すぐに会話が止まってしまう気がするし、スムーズに話し続けられるかと聞かれると怪しい。
僕の代わりに話題を広げてくれているのだとしたら、それはもう昼飯を奢ってやらねばならないレベルでの感謝である。
流石じゃねぇか、見直したぜ道幸――
「一叶がさ、もっかい告白のチャンス欲しいっつってんだけど聞いてやってくんね?」
「――何言ってんのお前?」
見直して損したわチクショウ。
そんな話はしてないし、そんなことを口走る脈略でもなかっただろ。どうしてくれんだこの空気。ただでさえ嫌われる一歩手前だってのに、地雷を踏み抜くなんて正気じゃない。
「……星乃さんが、そんなことを?」
「言ってない!言ってないからホントに!」
「私、しつこい人はちょっと……」
「ち、ちちち違う!!!ちょ、ねぇ待ってよ!!祈祷さん!!ねぇ祈祷さん!!!!!」
祈祷さんは、僕らから離れて自分の席へと向かってしまった。僕の横では道幸が大爆笑してるし、もうどうしようもない。
怒る気力すら湧いてこなかった。
☆彡 ☆彡 ☆彡
そして放課後。
「おーい、一叶ー」
僕が帰りの支度をしていると、バカくそマヌケうんこマンが話しかけてきた。
「どうしたの?バカくそマヌケうんこマン」
「なんだその小学生みたいな暴言は……。もうちょいまともなの無かったのか」
バカくそマヌケうんこマンが何かを言っているが、僕の知ったことではない。僕はもうこのバカくそマヌケうんこマンとは絶交すると誓ったのだ。
何があってもバカくそマヌケうんこマンとは仲良くするつもりはないし、僕はこれから一生バカくそマヌケうんこマンと呼び続けると心に決めた。
「これから少し遊びに行こうぜ。祈祷さんも誘ったから、もう一人女子見つけて出発な」
「道幸、お前って奴は……っ!」
親友って最高だなおい。
やはり持つべきものは親友だなぁと、僕は感動のあまりに目頭が熱くなる。道幸の背中をバシバシと叩きつつ、心の中で友情の盃を勝手に交わした。
「で、問題はその一人の女子を誰にするかってとこなんだが――」
「え、普通に暇そうにしてる
僕は、僕らの近くで帰り支度を進めていた、
隠奏さんは気怠そうにゆっくりと、こちらに顔を向ける。
「…………なに」
「僕らこのあと遊びに行くんだけど、良ければ一緒に行かない?メンバーは僕と道幸と祈祷さんの三人ね」
「…………行く」
「おっけー」
僕は軽々ともう一人の仲間をゲットした。
彼女を呼んだ理由は「一番近くに居たから」と「帰宅部であることを知っていたから」。それ以上の理由は特にない。
ところが後ろを振り向き道幸を見ると、何故かうるうるとした瞳で僕を見つめていた。あまりの薄気味悪さに、僕は一歩退く。
「……な、何?」
「一叶、お前って奴は……っ!!!」
よく分からないが、道幸が物凄く喜んでいた。この一瞬で一体何が起きたのか、僕には全く理解できなかったが、とにかく道幸が感激している。
「い、いや何なのホントに」
「別に何だって良いんだよ、あぁもう親友って最高だなおい」
ついさっき僕が思っていたことを言われた。まぁお互い親友だと思えているなら、別に困ることは無いのだけれど。
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