17. ホクサイ大陸へ

二人と別れてから北上し、王都マルニクへと寄っていく。特に誰かに会うわけではないんだが、王都の冒険者からナンホウ大陸で知り合った冒険者の話を少し聞くことが出来た。


船で知り合ったカステルのメンバーは内乱の間、ホクサイ大陸に拠点を移していたらしく、そのあとこのランタクに戻ってきていたようだ。最後は優階位になってすでに冒険者は引退しているようだった。

内乱の際に巻き込まれて亡くなった冒険者もいるようなので、他の人たちが無事だったのかまでは分からなかったけど、生き延びてくれてるといいなあ。



町で少し店を見て回ってから北上し、現在ホクサイ大陸との玄関口になっているサラクの港町へと向かう。サラクは旧ランタク時代、海外との交易で栄えた港町だったが、モクニク国に統合されてからはかなり衰退していたところだった。ホクサイ大陸との交易を考えるとやはり遠いからね。

ランタク国として再び独立したことで、ホクサイ大陸との交易のために再整備されて港町としての活気が戻ってきているようだ。



交易のために道路はかなり整備されていたので走るのはかなり楽だったが、やはり走っている車の数も多かった。まあ渋滞すると言うほどではなかったんだけどね。以前の道路の状況を考えるとかなり差を感じてしまう。


サラクの町は港町としては高台にあるところで、港を少し見下ろすようなところに多くの建物があった。荷下ろしの後からの搬送は少し大変そうだけど、今だったら車もあるから大丈夫なんだろうな。


ヤーマン国への船の予約に行くと、二日後に出航の船を予約できた。ほとんど満席になっていたんだが、かなり上のクラスの部屋だけど、少し残っていたのは助かった。どうやらちょっと前にキャンセルが出たらしい。

以前と同じく冒険者としての登録もあったんだが、さすがに今回は遠慮させてもらった。折角だからのんびりと楽しみたいからね。まあもしもの時は加勢するつもりだけど。


部屋はかなり広く、展望デッキもあってなかなかいい感じだ。まあそれだけの値段を出したんだからこのくらいはあってもらいたいけどね。



さすがに航路が長いため、到着までは20日ほどかかるようだが、そのあいだかなりのんびりと過ごすことができた。以前よりも船の中の娯楽が増えているのも助かった。




魔獣の襲撃や嵐に遭遇と言うこともなく、無事にオカニウムに到着する。まあ途中少し時化には遭ったけどそのくらいは許容範囲だろう。


オカニウムの町はかなり大きくなっているみたいで、船から見た感じでは海岸線の町のエリアが倍近くに伸びていた。主要都市はどこも発展しているね。それだけ魔獣の脅威が少なくなってきている証拠だろうな。


港に到着して下船すると、ジェンはすぐに走り出してしまった。向かった先はメイルミの宿だろう。メイサンとルミナは元気だろうか?


目的の建物にやって来て中に入ったんだが、なんか雰囲気が変わっている。受付にいる人も知らない人だった。人を雇ったんだろうか?それとも・・・。ジェンの表情が一気に暗くなってしまった。


「とりあえず話を聞いてみよう。」


「え、ええ・・・。」


建物の造りは前と全く変わっておらず、店の名前も同じだが、店の雰囲気はちょっと変わってしまっている。受付へと向かうと、若い男の子が対応してきた。


「いらっしゃいませ。」


「こんにちは。すみません、ちょっとお聞きしたいのですが、以前ここはメイサンとルミナというお二人が経営していたと思うのですが、経営者が変わったのでしょうか?」


「ああ、メイサンさんとルミナさんですね。時々聞きに来る方がいらっしゃいますよ。

ええ、前にやっていらっしゃった人たちですね。お二人が引退すると言うことで宿の権利ごとうちの父が引き継いだんですよ。」


「引退と言うことはなくなられたわけではないんですね。」


「ええ、さすがに身体がきつくなってきたとおっしゃていたそうです。ただ引き継ぎの条件として最低でも10年は宿として経営してもらうことが条件だったようですよ。ここを家と思っている人たちがいるからと聞いています。」


まだ生きていると言うことを聞いてジェンはかなりほっとしている。


「あの、申し訳ありませんがお二人が今住まれているところを教えていただくことは出来ませんか?両親がとても世話になったと聞いているのでお礼を言いたいんです。」


「・・・わかりました。もしそのようなことを言ってきた方にはお教えしてかまわないと言われていますので大丈夫ですよ。」



教えてもらった住所に向かうが、ジェンが焦ってしまって大変だった。まあ会いたい気持ちは分かるけどね。今は町の中央から少し離れたアパートに住んでいるようだ。


「こんにちは!!メイサン、ルミナ、いますか?」


ドアをノックして声をかけると、しばらくしてドアが少し開いた。


「どちら様でしょうか?」


そこには年をとっているが当時の面影のある女性が立っていた。


「ルミナ!!」


ジェンがルミナに抱きついてしまった。


「ルミナ、元気でいてくれて良かった。ジェニファーよ。久しぶり!!」


抱きつかれたルミナは困惑しているが、いったん離れた後のジェンの顔を見て驚いていた。


「本当に、ほんとうにジェニファーなの?それとジュンイチさん?」


「うん、うん、ほんとに、元気そうで良かったわ。」



自分たちの姿に困惑していたんだが、少し話をしてジェンのことは分かったみたいで、顔の表情も和らいできた。


「とりあえず中に入って。」


「あのメイサンは?」


「ちょっと身体を壊してしまってね。今はあまり起き上がることが出来ないのよ。」


「すみませんが、状態を見させてもらってもいいですか?」


メイサンがいる部屋に行くとベッドに横たわって休んでいるメイサンがいた。


「メイサン、お久しぶり!!元気・・・ではないみたいだけど、大丈夫そうで良かったわ。」


メイサンはルミナをみてどういうことだという表情をしている。ここで他の人たちにも話した内容を伝えるとかなり驚いていたが、信じてくれたようだ。


「先に治療を済ませましょう。」


メイサンの身体を確認すると、骨が弱っていたみたいで、背骨が圧迫骨折しているようだった。そのせいで身体を動かすと激痛が走るみたいだ。他の場所も確認しながら治癒魔法で治療をしていく。向こうの世界では医学知識もかなり身につけたので以前よりも治療は楽になった。

一通りの治療を終えると、問題なく起き上がることが出来るようになったみたい。


「おお、身体が軽くなった。しかも痛みもないぞ。すまないな。こんな事をしてもらって。」


「ううん。今までのお世話になったことを考えるとこのくらい何でも無いわ。」


メイサンも元気になったことだし、折角なので近くのお店を予約して食事をすることにした。お店は以前も行っていたところがいくつかまだ残っていたのでそこを予約した。


宿は5年ほど前に譲ったらしく、前に来た人がまた泊まりに来るかもしれないと言うことで宿として引き継いでもらうことを条件に人を探したらしい。


この日はかなり夜遅くまで語り合って、ジェンはかなりうれしそうにしていた。ジェンにとってはこっちの両親のような人たちだったからなあ。



~ルミナSide~

夢を見た。夢の中でジェンが話してきた。遠い世界に行くと言うことだったが、戻ってこれたらまた必ず会いに行くからと言っていた。

メイサンに話をすると同じような夢を見たらしい。


その後、アムダの討伐の話を聞いてジュンイチさんとジェンが亡くなったことを聞いた。討伐の時を考えるとあ夢を見たときと同じ時だったことが分かった。亡くなったわけではないのかしら?


国で追悼の儀を行うと言うことになったようで、私達は招待されたので行くことにした。今回の夢の話を共有したかったこともある。アキラとマラルにも聞いたところ同じような夢を見ていたようだったから。

そこで結婚式の時にもあった二人の知り合いと話をしたのだけど、やはり似たような夢を見たようだった。これは本当なんだろうか?



ここに戻ってきたときにこの場所がなくなっていたら悲しいだろうとメイサンと話をしてできる限り宿の営業を続けていくことにした。

しかしさすがに身体の言うことも利かなくなってきて、メイサンも身体を壊してしまったために営業することは難しくなってしまった。そこで宿を引き継いでもらえる人を探して権利を引き渡した。

少なくとも私達が生きている間だけでも宿の営業を続けてほしいこと、宿の名前は変えないこと、もし私達を訪ねてくる人がいたら教えてほしいことが条件で探したところ、知り合いの一人が引き継いでくれた。



何人か昔の常連客が挨拶に来ることはあったが、最も来てほしい二人はやってこなかった。二人が亡くなってもう20年もたつのね。戻ると言っていたけど、私達が生きている間に戻ってこれるのかしら?


今日も誰かが訪ねてきた。少し聞き覚えのある声で私達のことを呼んでいる。まさか?まさか?ドアを開けると急に抱きついてきた。

驚いていて顔を見ると、懐かしい顔がそこにあった。ジェンなの?でも全く年を取っていないわ。でも・・・。


話を聞くと、どう考えても本人としかも思えない。家に入ってもらってメイサンと一緒に詳しく話を聞いて驚いた。時を超えてきたのね・・・。


このあと二人にメイサンの治療を行ってもらい、かなり回復することが出来たようだ。元気になったメイサンと一緒に食事に行って、夜遅くまで二人と語り合った。

よかった・・・本当に良かった・・・。また無事に会えてよかった。私達の娘・・・。

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