264. エピローグ-1 死後の世界?
目を覚ますと真っ白い世界にいた。死後の世界だろうか?やっぱりあのまま死んでしまったのだろうか?
ふと見ると、ジェンが抱きついたままだった。一緒に死んだからあのときのまま死後の世界にやって来たのかな?でも前にこっちの世界にやって来たときと同じような感じだな?
そう考えているとジェンも目を覚ました。
「おはよう?」
「イチーーーーっ!
生きていたの!?
アムダはどうなったの?」
ジェンは泣きながら胸にすがりついてきた。
「ごめん、正直なところどうなったのか分からないんだ。それ以前になんか変な世界にいるんだよね。死後の世界なのかな?」
少し落ち着いたのか、ジェンは辺りを見回している。
「なんか前に転移したときと同じような感じね。このあとスイサイさん達がいたところに行くのかしらね?」
そう思っていると目の前に人の姿が現れた。女性みたいだが、どこかで見たような感じもする。ライハンドリアの正装のような衣装を着ていた。ただなぜか霞がかかったような感じではっきりと見ることが出来ない。
「姿を見せるのは初めてですね。このライハンドリアの神の1柱のアミナです。」
「「アミナ神ですか?」」
どこかで見たような気がするのは教会などの像で見ていたからだろう。
「はい。
驚いているかもしれませんが、今回のことについて説明させていただきます。
まず最初に言っておきますが、あなた方は死んだわけではありません。こちらの世界に来るときにきたところと同じような空間にいます。」
「そ、そうなのですね。ということはちょうどもとの世界に戻るタイミングだったと言うことですか?」
「そういうわけではないのですが、まずはお礼が先ですね。
この世界を救ってくれてありがとうございます。あの古代兵器は無事に破壊されました。」
「よかった。倒すことが出来たのですね。」
「あの古代兵器はもう二度と動くことはなかったはずなのです。あくまで古代を滅ぼした恐ろしいものがあったということを知らせるために存在していました。世界のいくつかの遺跡に残っていますが、すべて稼働しないようになっていたはずなのです。
もしあなた方がいなければこの世界は滅びていたかもしれません。今の人類にはたとえ1体の古代兵器でも倒すことが出来なかったでしょう。もしあの兵器の機能がすべて回復してしまったら眷属を作り出してさらに被害は広がっていたことでしょう。
実は2年ほど前にあなた方がもとの世界に戻る話が来ていたのです。ただ古代兵器が復活してしまう危険性があるとわかり、元の世界に戻ることを遅らせてもらいました。
もしもの場合、あなた方だけは元の世界に戻せるということでぎりぎりまでがんばってもらおうと考えたのです。
残念ながら私たちが直接地上世界に手を出すわけにはいかなかったのです。そのために利用させてもらい、申し訳ありません。」
「ま、まあ死ななかったからいいけどね。兵器も倒せたみたいだったから良かったし。」
「もし言われるように、古代兵器によってこの世界が滅びてしまっていたら悲しすぎるわ。」
ジェンも倒せたことにほっとしているようだ。
「転移できなかったのはそのせいだったのですか?」
「いえ・・・、あまり詳しくは話せませんが、古代兵器に施された魔法の使用を抑制する付与魔法のためです。」
「そうなんですね。」
たしかに当時のことを考えると転移魔法とか使えないようにしておかないと戦闘中に簡単に逃げられてしまうな。魔法がほとんど効かなかったのもそのあたりの影響があるのかもしれないな。
「それでは改めて転移の話をさせていただきます。
このあと元の世界に帰る手続きを進めさせていただきます。このため今まで出会った人達にもう会えなくなってしまいますが、夢という形で簡単な伝言だけは伝えることが出来ます。何か伝えたいことがあれば言ってください。
そしてこれははじめに説明されていたことだとは思いますが、もとの世界に戻ったらこの世界での記憶はなくなってしまいます。」
「どのくらいの記憶がなくなるのでしょうか?」
「それは正直わからないのです。通常はこのような説明もなく、元の世界に戻されるものなのです。
ただ元の世界に関わる知識は残り、この世界に関する知識は無くなることになっていますが、どこまでなるかはわかりません。」
「ジェンとの思い出もすべて消えてしまうのですか?」
「なんとなくは記憶に残ると思います。」
「少しでも記憶を残すことはできないでしょうか?このまま忘れてしまうなんて悲しすぎます。」
「そのことは確認をとりましたが、やはり無理という返答でした。詳細はあのときの担当者が説明するようですのでこのあとに確認してください。ここでこの世界とはお別れとなりますので先ほどの件を先に考えていただきたいと思います。」
アミナ様に伝える内容と伝える相手をお願いする。
「ライハンドリアの神はあなたたちの行動に感謝します。向こうの世界でもがんばってください。」
「いえ、こちらこそいろいろとありがとうございました。」
「ええ、ほんとうにありがとうございました。」
視界が変わり、前に来た役所の受付のようなところに転移した。
「お久しぶりです。」
そこにはスイサイさんが立っていた。
「今回はいろいろとご迷惑をおかけしました。お二人に簡単な状況を説明したいと思いますのでこちらにどうぞ。」
ジェンと一緒にテーブル席に案内され、今回のことについて状況を説明してもらった。書類の確認ミスによる遅延が主な理由らしいが、あまりにもお粗末だなあ。
「まあ年をとるわけでもなかったし、その点についてはいいんだけど・・・。」
「ええ、イチと出会うことが出来てある意味よかったと思っているくらいだからね。」
「ただ記憶がなくなると言うことはどうにかならないですか?」
「残念ですが記憶を残すと言うことはそう簡単に認められない理由があるのですよ。
詳細は話せませんが、他の世界の知識を変に持ち込まれると世界のバランスが壊れてしまう可能性があるのです。」
「それではその情報を他に漏らさない、もしもの場合は記憶を封印すると言うことでもだめなのでしょうか?」
「申し訳ありません。」
「今回そちらのミスでこんな事になったわけでしょう?それについての補償はなにもないということなんですか?」
「普通であれば賠償責任と言うことでこちらの要求を少しは認めてくれるものじゃないかしら?今回のミスのことを考えるとあなたの上司の管理責任が問われることになりますよね?それなのに一担当者が説明に来るというのも納得できないことですよね?」
「そ、そう言われましても・・・。」
このあといろいろと話をしたが首を縦に振ってくれることはなかった。ジェンからの責任追及の内容がかなり厳しくてスイサイさんもかなり困っている。
「それではいったん記憶がなくなってもかまいません。ですが、もし、自分たちが再び出会うことができたときに記憶が戻ると言うことはどうでしょうか?住んでいる場所を考えてもほぼ可能性ゼロですが、そのくらいはチャンスをくれてもいいのではないですか?」
「・・・わかりました。一応上に問い合わせてみます。」
なんとか可能性だけは残すことが出来るかな?しばらくしてかなり疲れた顔をしてスイサイさんが戻ってきた。
「それでは二人が出会うことが出来たらという条件で受けることは認められました。ただお互いが同じ空間にいると言うだけではだめですよ。このあたりについては条件を決めさせてもらいます。
今回はライハンドリアの神達からの要望もあり、さらに今までの行動から地球でもし記憶が戻っても悪用しないだろうということを考えての特別処置です。ただしその知識を悪用したり広めようとした場合にはすべて消えてしまうと考えてください。」
「「わかりました。」」
もしもの事を考えてお互いの住んでいたところについて知識として記憶をしていたのが生きてくるかもしれない。そのことを考えていろいろと情報を交換していたのだから。
もし会えなかったら・・・いや、それは考えないことにしよう。せっかくだから最後は笑顔で別れたい。
「そろそろ元の世界に戻る時間となります。最後にお別れを言う時間くらいはありますよ。」
ジェンと抱き合って口づけを交わす。徐々に目の前の視界がなくなっていく。
「「またね!!」」
ジェンも同じ事を考えていたのだろう。さようならじゃないからね。
~クリストフ王爵Side~
二人の夢を見た。古代兵器との戦いで亡くなったと聞いた二人の夢だ。夢の中で彼らは私に話しかけてきた。
「これが最後の挨拶になるかもしれない。
自分たちは死んだわけではないので悲しまなくていいですよ。ただおそらくもう会うことは出来ないと思います。
ただ、離れてしまっても自分がクリスさんの親友であることは変わらないからね。もしまた会えることがあれば・・・また一緒に楽しもう。」
目を覚ますと、夢にしてはかなりはっきりと記憶に残っていた。ほんとうに夢だったのか?
スレイン達に話したところ、同じような夢を見たらしい。もう会えないと思うけど、いろいろとお世話になったことを感謝されたようだ。
この内容については気になっていたのだが、追悼の儀の時に二人の知り合いに集まってもらった際に他にも同じような夢を見たという人が多数いたことが分かった。
きっとこれは夢じゃない。本当に二人からのメッセージで、きっとどこかで生きているのだろう。いつかまた会えるのかもしれない。
~スイサイSide~
宇宙は広い。この広い宇宙には多くの生物が、多くの知的生命体がいる。そう考えているだろう。しかしそうではない。この宇宙は地球という天体の為に作られた世界であり、知的生命体はこの星にしか生まれていないのだ。
数多くの存在する世界はすべてこの星の別の姿なのだ。どのような進化を遂げさせるのか、どのような力を与えるのか、それはその世界を任せられた神と言われる立場のものに委ねられている。
地球という世界では科学の発展を主とし、知的生命体も猿から進化させた種族のみだった。ライハンドリアは魔法と科学そして多くの種族で発展させたが、失敗してしまったのだ。ただまだやり直しのきくレベルだったので、新しい神の意向に沿って、知識を作り替えることで生きながらえたのだ。
そのために龍という神獣を置いたのが功を奏したのだろう。そうでなければこの世界は終わっていただろう。ただし責任をとってそれまでの神は引退してもらい、終わりに近い世界の下働きから初めてもらうことになった。
今回の転移については完全にこちらのミスだ。下手をすればまたあの世界は同じ運命をたどることになっていたかもしれないが、二人が自制してくれたおかげで助かったと言っている。あくまで自然発生的な科学知識のみであり、文明の進歩に大きな問題は無い内容だったようだ。
もし元の世界に戻って魔法の知識が使われてしまったら、今度はあっちの世界が同じことになってしまうかもしれない。
ただライハンドリアの神々からの要望もあり、わずかな可能性ながら記憶を取り戻すチャンスを与えることになった。本当に思い出せると思っているのだろうか?いくら交通が発達した世界とは言え、わずかな記憶を頼りに再び出会うなんて事はほぼないだろう。
ライハンドリアでの二人の行動について地球の神にも説明したところ、制約はかけられたが許可をもらうことが出来た。
ただこんな事を言ってはだめだが、記憶が戻ってほしいと思っている自分がいる。簡単に記憶を読ませてもらったが、あまりにも純真な二人だったからだ。
~あとがき~
本日中にもう1話アップします。
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