209. 異世界1402日目 交渉結果

 翌日はいろいろと町を見て回った。以前に比べて町に活気がある印象だ。町の管理者が変わったとしても普通の人達には大きな影響はないのだろう。その日の夜遅くになって明日の朝一で商会に来てほしいとの連絡が入った。


 翌日の1時になったところで商会に行くと、すぐに前と同じ場所に案内された。そこにはハクさんの他に強面の男性が座っているんだが、こっちをにらんできてちょっと怖い。冒険者かもしれないが、実力的に優階位は十分にありそうな感じだ。自分たちを抑えるために用意したと言うことはないと信じたい。まあその場合は全力で逃げるけどね。


「おはよう。こっちにいるのは同士のカルバトスという。根はいいやつなので見た目は怖いが気にしないでくれ。今回一緒に話を聞きたいというので同席してもらうことになった。」


 まあそう言われたら同席を断るわけにもいかないよな。


「「はじめまして。」」


「さっそく本題に入ろう。関係者と連絡を取り、入国許可証のことについて話をしたんだが、結論から言うと許可証を発行することになった。」


 おお~~、よかった。


「ありがとうございます。」


「事前に話をしていたとおり、まずはタイカン国への出国を行い、そこで現在持っている情報を提出してもらう。そのあとそっちで遺跡の確認をしてから俺たちに追加情報を提供するという流れでいいんだよな。」


「はい、それで問題ありません。」


「わかった。許可証はお前達2名分でいいんだよな?」


「あ、あの、できれば一緒に出国させたい人達がいるのでその人達の分も用意してもらうことはできますか?」


「まあ数名くらいならなんとかするがどういう人間だ?」


「この国の貴族なんですが、かなりの善政を敷いて領民に慕われていた人で、数年後には他国に移ろうと考えていた家族なんです。もし今回の政変でひどい目に遭ってしまったらさすがにかわいそうだと思っていまして・・・。」


 二人でいろいろと説明していると横に座っていたカルバトスさんが口を開いた。


「素性は隠しているが、もしかしてハーマン領の貴族のことじゃないのか?」


「え・・・えぇ。そうなんですが・・・。」


「あそこの領主は俺も会ったことがある。一度魔獣の討伐依頼を受けてそこに行ったんだが、平民冒険者の俺たちだったのにわざわざ来てくれたと歓待してくれた貴族だ。冒険者時代の話で盛り上がってな、いろいろとよくしてくれたんだよ。領民にもかなり慕われているところだったな。」


「カルバトスがそこまで言うのなら変な人間ではないのだろう。まあ準備はしてやってもいいが、まだ無事かどうかが問題だな。」


「ええ、それで今からハーマンまで行ってみようと思っています。それで往復で10日くらいと思うのですが、その間待ってもらうことはできますか?」


「わかった。どっちにしろ許可証の準備にも少し時間がかかるからな。もしこっちに戻ってきたときに俺がいなくても話が通るようにしておくから心配するな。」


 ずっと気になっていた彼らのことも許可が下りるようでほっとした。


「でも自分たちで言っては何ですが、よく許可が下りましたね。」


「まあな。しかしこの革命でこの国が生まれ変わっても国力が無ければ結局やっていけない。今回の話が本当ならかなりの交渉材料となるからな。

 正直なところ入国許可証くらいでは釣り合わないくらいなのにそんなものと引き換えでいいのか、だまされているんじゃないのかと逆にそこを疑われたさ。」


「まあそうでしょうね。でも自分たちにとっては必要の無いものですし、この国の人達のことを考えるとそれが一番いいのかなと思ったんですよ。

 別に革命のことについては反論もありませんし、この国のことなのでそれを否定もしません。もちろん血を流さずに革命ができれば一番いいのでしょうけど、そこまで理想主義者でもありません。この国はかなり病んでいるのはこの目でも見ましたので国が変わるというのはいいことかもしれないと思っています。

 タイカン国が後押ししてこの国の革命が進んだとしても、この国の人間が望むのであればそれはそれで仕方が無いことでしょう。他の国のように貴族社会が残る方法はいくらでもあったのに、この国が政策を失敗したのも間違いないことでしょうからね。」


「ああ、その通りだ。この国は生まれ変わらないといけない。そのために血が流れるのは仕方が無いと考えている。もちろん無駄な血を流す必要ないとは思っているがな。」


「でも、これだけは言わせてください。きれい事だけでは世の中は変わらないことは理解しています。でも市井の人達が少しでも今よりも良い生活ができるように尽力してください。上が変わっても結局生活が変わらなければ革命の意味がありません。」


「ああ、そのために俺たちは革命を起こしたんだ。今より悪くなっては本末転倒だ。その言葉忘れないように頑張るさ。」



 約束は取り付けたのでまずはハーマン領に行くのが先決だな。すでに戦闘は王都周辺まで進んでいるようなので、ハーマン領まではおそらく大丈夫と言うことだったのですぐに出発することにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る