210. 異世界1408日目 救出

 車も少ないこともあり、結構なペースで走ったせいか5日でハーマン領に到着することができた。町にはすでに革命軍の旗が揚がっていたのですでに貴族は捕まるかどうかしたのかもしれない。遅かったかな?町に入ってみるが、特に戦闘があった様子はない。


 宿屋に行くと前に泊まったことを覚えていたみたいで、領主に世話になったのだけどどうなったのかを聞いてみた。どうやら今回の戦いを聞いたところで町の関係者に色々と指示を出して町から出て行ったらしい。行き先については正直わからないようだ。


「確かに領主様は貴族だったと思いますが、この町では色々と世話になったんじゃないんですか?黙って出て行くのを見ていたのですか?」


「そんなことはない・・・。あの方達には本当にお世話になった。いつも必死になって我々を守ってくれたんだ。この町の住人であの方達に恨みを持つものなんていないくらいだ。だから・・・。」


 話をしていると、なにやら外が騒がしくなってきた。


「領主様が・・・」とか「裏切り者が出た」とか聞こえてくる。


「すみません。どういうことなんですか?もしかしてどこかにかくまわれていたのですか?お願いします、今ならまだなんとか間に合うかもしれません。教えてもらえないでしょうか?」


 もともと自分たちが領主に歓待されていたことを知っていたせいか、宿屋の主人に問い詰めると町の外れにある小屋にかくまっていることを教えてくれた。町の中だと何かあったときに住民に迷惑がかかるからと言って町の外に出たらしい。どうもその情報を革命軍に売った住人がいたようだ。「あれだけ世話になっておきながら・・・」と嘆いている。




 場所を聞いてから移動すると、他にも町の住人がやってきていた。みんな歯ぎしりしながら様子をうかがっている。それはそうだ。ここで領主をかばうようなことをすることはできないからだ。


 すでに領主とは話がすんだのか、領主の家族は小屋の中にいるみたいで兵士達は小屋の周りに待機している。小屋の周りにいるのは10人でそのうち二人が町の住人みたいだ。革命軍の人達は強い人でも上階位レベルかな?十分倒せるレベルだけど、さすがに殺すわけにもいかないよなあ。

 漫画みたいに延髄に手刀を入れて一瞬で気絶させるなんてできないしね。あれって脳しんとうを起こしていることになるので簡単にはできないし、もし本当に気絶していたら障害や下手したら死ぬこともあるんだよなあ。魔素を打ち込んでもできるかもしれないけど、危険度は同じだ。

 ダメージを与えて動けないようにするというのも正直なところ無理だ。人間ってそんなに簡単に動けないようにはならないからな。峰打ちだとか言って刀で殴られただけで動けなくなるというのも漫画や小説だけの話だ。


 ここはこれしかないとジェンと二人で魔法を使うことにした。闇魔法の睡眠である。ジェンと二人で魔力をためてから睡眠魔法を飛ばしていく。もちろんその場でいきなり眠り落ちるわけではないんだが、何度も魔法をかけていくと眠気にあがなえないのか、眠りについた。索敵のレベルも低いようだったので助かったよ。

 ちなみにこの睡眠魔法は眠気を強くすると言うものなので、今回のようにあまり緊張していない相手には効くが、戦いの最中など緊張している場合には効果が無い。たとえ眠りについたとしても衝撃があれば起きるし、眠っているからと攻撃し放題というわけでもない。ゲームのように眠らせている間に攻撃というのには使えないものだ。

 もしそんなものがあったら本当にできたら危なすぎるよ。睡眠剤を使うまでもなく意識を刈り取ることができると言うことだからね。泥棒でも何でもやりたい放題になってしまう。


 周りにいた人には簡単に状況を説明し、何人かと一緒に建物の中へと入る。声を上げそうになる一家にジェスチャーで静かにするように言ってから、建物を出る。眠りについている人達には一緒にいた町の住人にお願いしておいた。少ししたらおそらく目を覚ますと思うので知らないふりをするように言っておく。

 住人達は膝を着いてデミルさん達に謝っていたが、「しょうが無いことだったから、あの者達を責めないでやってくれ。」と諭していた。時間もないので林の外に出てからすぐに移動することにした。




 デミルさんも車を持っているようだったが、話もあるので自分たちの車に乗って移動することにした。彼は車の性能がかなり上がっていることに驚いていたが、たしかにこの国では旧型の車しか見なかったもんなあ。


「いろいろとバタバタで申し訳ありません。時間も無かったし、あの状況だったのですぐに出発するしかありませんでした。」


 ゆっくりと説明もないまま車に誘導したことを謝る。


「それはかまわないよ。前のこともあるし、状況も状況だったからね。まあどっちにしろ殺されてしまう覚悟はしていたので可能性がある方に人生をかけるのもいいと思ったんだよ。」


「変に疑われてもしょうが無いので最初に言っておきます。革命軍の方達と話をしてこの国から出る手配をしてもらっています。100%信頼できるわけではありませんが、自分たちはこの話に乗って国外に出るつもりです。それであなた方のことを思い出して話をしたところ、同じように手配をしてくれると言うこととなりました。」


「革命軍と話をつけたのか?よくそんな伝があったものだな。」


 さすがに驚いているようだが、自分たちもそんな展開になるとは思っていなかったので当然だろう。


「ええ。まだ完全に信頼を置いてもらえているかはわかりませんが、向こうにもメリットのある取引をしているので裏切ることは無いと思っています。

 そうだ。冒険者のカルバトスさんって覚えていますか?」


「ああ、数年前にうちの領地に魔獣退治に来てもらった冒険者のリーダーだな。かなりの実力者でそれほど報酬は出せなかったんだが、期待以上の仕事をしてくれた冒険者達だった。上階位だが実力は優階位に迫るくらいはあったと思う。冒険者時代の話をしていろいろと楽しかったな。」


「そうみたいですね。彼は革命軍でそれなりの地位らしく、彼も助言をしてくれたんですよ。それもあって今回の救出に来ることができたんです。」


「そうか、それはよかった・・・。」


 そのほかにもいろいろと今の状況について話をする。デミルさんのことを知っている人もいたことに少し安心したようだ。

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