191. 異世界1226日目 国境の町タラクへ

 カルニクの町で十分に休養と買い出しを終えてから、サビオニアとの国境の町タラクへと向けて出発する。

 サビオニアの言葉はここモクニクとは少し異なるので勉強していたんだが、ある程度は話せるようになったのでなんとかなるだろう。そうそうに話せるようになっていたジェンの言語の習得能力がうらやましい。これでも加護で身につけやすくなったいるからここまで習得できたんだろうけど、何もなかったらまだ片言しかできなかっただろうな。

 車で音楽の代わりに勉強用の教材を流したり、ジェンと会話して勉強はしているけど、いろいろな言葉を覚えていくと時々こんがらがってしまうんだよなあ。しかもちゃんと使っていないと忘れていくから一日おきに使う言葉を変えて語学力を維持している。地球にいたときから考えると、こんなに頑張るとは思いもしなかったよなあ。


 サビオニアはモクニクと比較すると国の経済力が低いため、いろいろな物資が手に入らない可能性もあると言うことを聞いていたのでいろいろと買い込んでいくことにした。食料や装備の補修用品などいろいろと購入しておいた。収納魔法様々だ。おそらくここで買っていかないと国境の町では手に入らない可能性もあるからね。



 カルニクの町を出発して1日ほどでもともとの国境だったと思われる砦跡のところにやってきた。日本だったら旧跡として観光地になりそうなところだが、もちろん観光案内板などはない。

 もともとは立派な砦だったらしいが、国境が変わったために必要性がなくなったこと、新しい町の建材として必要なものが取り去られたことから今はただのがれきの山だ。


 さらに街道を走って10日ほどかかってタラクの町に到着。タラクの町までは他の国との主要道路なんだけどそれほど大きくないし走っている車もかなり少ない。これらはおそらくサビオニアとの取引があまりさかんでないためだろう。

 今は6月でヤーマンでは夏も終わりに近づいているんだが、こっちは今が冬の終わりという感じらしい。南下してきているせいか気温も大分下がってきているが、南半球になるのか季節が反対になるのでこのあとは徐々に温かくなっていくみたいだ。



 タラクの町は国境の町と言うことで城壁が横に広がっていて人が通れないようになっていた。山の方まで城壁がつながっているので結構な距離となっている。途中に見張り台のようなものもあるので監視が厳しいのだろう。


「やっぱり朝早くても行列はできているわね。」


 まだ時間は朝の1時なんだが、すでに行列ができていた。門が開くのを外で待っていた人達もいたんだろうな。


「でも前にアルモニアとかハクセンに行ったときと比べたらかなり人が少なくない?国境の町だったらもっと多いような気もするけど。」


「やっぱりサビオニアとの交流があまり盛んじゃないって言うことみたいだし、途中の車の数を考えてもこんなものかしらね?」


「確かにね。これだと事前に色々と買い込んでおいて正解だったね。」


 貴族用の入口の行列はそれほど無かったのですぐに町に入ることができた。



 町に入ると戦争を考えた造りなのか町の中がごちゃごちゃしている。道路の幅が狭いのもあるが、道がかなり曲がりくねっているのだ。このあたりはしょうが無いんだろうね。


 いつものようにおすすめの宿に行って予約を済ませてからカサス商会に顔を出す。頼まれていた魔符核を納めるためである。とりあえずサビオニアに行っている間は納めることができないので時間がある間はひたすら作っていたのである。今までの納品を考えると1年分くらいは納めたような気がするのでしばらく納品の必要は無いだろう。

 カサス商会の支店長のハルキさんと少し話をすることができた。サビオニアの状況はカサス商会でも把握はしているようだが、やはりこの国に支店を出すのはためらっているらしい。


「そもそも貴族で商売を独占しているので参入ができない状況なのですよ!!」


 ハルキさんはかなり強い口調で叫んでいた。


「競争のない商売なので価格競争もなく、サービスも悪く、品質が悪くて高いものが普通に売られているのです。カサス商会の目玉の重量軽減バッグも自分たちは使っているにもかかわらず、国内の商会を保護するために輸入を禁じているのです。

 あの国に一般的に流通している魔道具は1、2世代くらい前のものなのですよ。競争もないので魔道具の開発も進まないし、正式に輸入もされないせいで時間が止まっているのです。」


 いろいろとサビオニアに関しての愚痴を聞かされてジェンと二人で苦笑いするしかなかった。よほど頭にきているんだろう。まあそんなところに他の国の商会が参入されると困るだろうし、もし商売できたとしてもすごい額の関税とかがかけられそうだな。

 こういう話を聞くと、サビオニアでの生活はかなり厳しい感じだよなあ。まあ拠点があるし、食料もあるから町に寄らないのがいいかもしれないな。




 このあと役場に行っていろいろと資料を見てみる。細かくは書かれていないが、サビオニアにいる魔獣はやはり南に行くと寒冷地にいる魔獣になってくるようだ。まあこのあたりはアルモニアとかで経験しているから大丈夫だろう。種類は若干異なるようだが、特性はあまり変わらないみたいだからね。


 一通りの用事は済ませたのであとはこっちの料理を堪能してから早々に休みに入る。サビオニアではどんなことになるかわからないからね。




 こっちの国にやってきてからも孤児院をしている教会などにいって治療や寄付を行っていたんだが、治療を行うことがいいこととは限らないと言うことがあって少し足が遠のいている。

 いろいろと情報を集めたり、隠密を使って実際に確認してみると、子供の人身売買のようなことをしていることが結構あったのだ。もちろん全部把握できたわけではないので、気がつかなかったところもあるとは思うけど。

 ただ、売られているというとかなりあくどいことのように思えるが、普通に養子として育てられたり、見習いとして働いていることも多く、あくまで就職先という感じではある。その手当として孤児院がお金をもらっていると言うことだが、大金をもらっているわけでもないようだ。

 このため買い取られることを望んでいる子供も多いみたいで「子供の売買=悪」と決めつけることもできないのだ。代わりに自分たちが保護できるわけでもないからね。


 ただ前に顔に結構大きな傷を持っている女の子がいたので治療をしようとしたんだけど、拒絶されたのだ。なにかつらい思い出でもあるのかと思っていたんだが、あとでこっそり話を聞くと、その娘に執着している評判の悪い貴族がいてその女の子を手に入れようとしていたらしい。それで自ら顔に傷をつけたということだった。

 この国では貴族に逆らうことはできないし、逆らったら援助がなくなってしまうこともあるため孤児院としてもかなりつらい立場のようだ。

 そこの経営者はまだ良心的なところだったので詳細を教えてくれて治療は行わないことに落ち着いたが、もし子供を売ることしか考えていない人だったら黙って治療をさせていたかもしれない。もちろんもしその心配が無くなって機会があったら治療をしてほしいとは言われたけどね。


 ただサビオニアについては孤児の扱いはむごい扱いを受けているところが多く、引き取られた子供達も結構厳しい環境という話を聞いた。ただ貴族が絡んでいることが多いため訴えても意味が無いだろうという状況らしい。


 正直なところ自分たちのやっていることがどこまでいいことなのかがわからなくなってしまっているのである。もともと自分たちの訓練をかねて始めたことであるが、その治療がその子に不幸を与えてしまうこともあるということも考えなくてはならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る