第一部 異世界での懐かしい人々

131. 異世界602日目 工業都市へ

 褒賞を受け取った後、2日ほど屋敷にお世話になってから出発することにした。出発の朝はラクマニア様だけでなく家族全員が見送ってくれたのはうれしいね。子供達二人はかなり泣きそうなんだが、笑って見送ると必死に我慢しているようだ。


「お世話になりました。」


「またこの国に来るときがあれば必ず寄ってくれ。」


「「ありがとうございます。お元気で~~!!」」


 そういって屋敷を後にして町を出る。いろいろあったけど、無事に終わってよかったよ。


 ここから工業都市ハルマまでは一気に走って行く予定だ。街道もきっちり整備されているのでおそらく6日くらいで到着できるだろう。



 途中は拠点に泊まりながら走って行くが、さすがに往来も多いので魔獣の姿も見かけることはない。このあたりだったら護衛がいなくてもなんとかなるかもしれないというレベルだ。まあそうは言いながらも普通は護衛を雇うらしいけどね。

 拠点では時々食事を作ったりもしている。一度食材もちゃんと整理しないといけないね。腐らないからそのまま持っていることが多いんだよね。まあ収納品は一覧にしているのでまだ整理はしているんだけどね。問題はジェンが収納しているものだ。




 あれからジェンとの関係は特に変わっていない。というか変わらないように振る舞っているといった方がいいかもしれない。うまくできているかどうかはわからないんだけど・・・。

 自分はやっぱりジェンのことが好きなんだろうか?このままずっと一緒にいたいと思うのは愛情なんだろうか?こんな感覚は初めてだ。


 ジェンが自分のことをどう思っているのかは正直わからない。

 母から聞いた父も女性からの好意に鈍感だったらしい。どう考えても好意を示されているのに気がつかずにそのまま流していたと言うことがかなりあったらしく、母からも告白されてやっと気がついたと言っていた。

 そう考えると、確かに自分に好意を持っているような言動とかもあったような気がする。からかっていると思っていた行動もたしかに普通はやらないよね?


 大切な人がいるといっていたけど、やっぱり離れているとその気持ちも薄まってしまうんだろうか?でもあのときのつぶやいていた顔はそんな生半可な覚悟とは思えなかったけど・・・。


 でも今までもそう言う感じで自分のことが好きなのかなと勘違いしてしまったこともあったじゃないか。あとで他の人と付き合いだしていたから勘違いとわかったけど、勘違いして告白なんてしていたら大変だっただろう。

 そのあともいい感じと思っていた女の子がいたけど、なかなか気持ちを確かめられなくて、高校で別々になることがわかってから思い切って告白したけど見事に玉砕したからね。

 彼女とは卒業まで気まずいまま別の高校になったから良かったけど、このせいで女性の好意というものがどういうものなのかわからなくなってしまったんだよな。一緒に図書館で試験勉強したりとか、義理チョコとは言いながらも結構大きなチョコをくれたりしていたのになあ。

 あのときは顔を合わさなくなったから良かったけど、あんなことになるのならやっぱり今のままの関係の方がいい。

 自分にもっと自信を持てとか自分を卑下しすぎだと言われてもやっぱり自分に自信が持てないんだよなあ。今まで彼女がいたことも告白とかされたこともないから女性関係については特に自信が持てない。


 こんなときには誰かに相談したらいいんだろうけど、この世界で誰に相談したらいいと言うんだろう。

 女性のことで相談できる相手と言っても・・・うーん、・・・そうか、今度クリスさんとかに話を聞いてみるのもいいかもしれない。忙しいかもしれないけど、少しくらいだったら時間も作ってくれるだろう。




 予定通り6日目にハルマに到着。ここはタイガとの国境にもなっているため町の入口にはかなりの行列ができていた。これって2時間くらいかかるかもしれないというレベルだ。商人たちが多くて荷物の確認に時間がかかっているようだ。

 もしかしたら中に入っても宿が取れなくて外に出ないといけないかもね。


「イチ、あっちの門が使えるんじゃない?」


「あっちって、、貴族用だろ・・・って、一応自分たちも貴族扱いか。特権は使えるといっていたしね。」


 だめだったら諦めて並べばいいだろうと言うことで貴族用の門へと行ってみる。


「こっちは貴族用の門となります。爵位を持っている本人または貴族の関係者という証明書がなければ通ることはできません。」


 貴族の家族でも証明書がないとだめなのか。結構厳しいんだな。まあ普通に見たら冒険者だし、貴族としても親が爵位を持っていると思われるだろうな。


「これでいいですか?」


 二人の身分証明証を出すと、ちょっと驚いた顔をしていたが、すぐに受付をしてくれた。よかった、よかった。




 町に入ると、なにやら変わった匂いが漂っていた。鍛冶屋が多いせいだろうか?焼けたような匂いが漂っている。


 とりあえずまずは宿を確保しようとラクマニア様に言われたところに行ってみるが、そこは貴族専用の宿だった。


「どうする?ラクマニア様の紹介のホテルは貴族専用みたいなんだよね。他の人たちから普通のおすすめの宿は聞いているけど。」


「ここでハクセンも最後だから少しだけでも貴族用っていうところに泊まってみない?なにごとも経験よ。」


「まあお金も入っていることだし、せっかくだからそうするか。」


 ホテルに入っていくと入口で身分証明証の提示を求められたので提示すると普通に通してくれた。


「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが、当宿はどなたかの紹介がなければ宿泊ができないのです。どなたかの紹介状をお持ちでしょうか?」


 おお、一見さんお断りだったよ。まあ、変な人を泊めて常連客に迷惑がかからないようにしているんだろうな。


「この紹介状でいいでしょうか?」


 そういってラクマニア様に書いてもらった紹介状を見せる。


「はい、ルイドルフ様のご紹介ですね。身分証明証も一緒によろしいでしょうか?」


 紹介状と身分証明証を確認すると、すぐ部屋に案内すると言われる。あれ?宿泊料金の確認はないの?ちょっと怖いんだけど・・・。


「すみません、一泊どのくらいかかるのでしょうか?」


「部屋のことが紹介状に書かれていましたのでそこに案内いたします。宿の代金はルイドルフ様がお支払いすると書いてありましたので大丈夫です。」


「「ええ~~~!!」」


「確認も取れましたので問題ありません。」



 そして案内された部屋は予想通りスイートルームのようなところだった。部屋の設備など一通り説明を受けるが広すぎだろう。

 気分によって寝る部屋を変えるって意味かもしれないけど、ベッドルームが3つって意味わからないし。


「ここってもしかして特別室とかなんですか?」


「はい、当宿自慢の部屋となります。部屋には専属のメイドがつきますので何かご用があればこちらのベルを鳴らしてください。」


「わ、わかりました。」


「それでは失礼いたします。」




「なあ・・・これってどうすればいい?」


「そうね、せっかくだから好意に甘えて泊まっていきましょう。もともとこの町で3泊くらいはするつもりだったでしょ?そのくらいは遠慮しなくてもいんじゃない?たぶんラクマニア様にとってはたいした金額じゃ無いと思うわ。」


 一般人の自分にとってはすごすぎて慣れないんだけど・・・。



 まだ夕食までは時間があるので少し町の中を歩いてみることにした。場所を聞くと、東の方に鍛冶屋が多く集まっているみたいで、聞いていた鍛冶屋もそっちのエリアにあるようだ。


 さすがに有名なだけあってかなり充実した装備がそろっている。ミスリル関係の装備も結構普通に売っているのがすごいところだな。それだけ売れてもいるんだろう。非売品とかで置いているものは優レベルのものだ。すごいな。


「なあ、もし可能だったらここで鍛冶について少し学んでいけないかな?鍛冶学については最低限取得しているから、あとは技術の方だけだよね。

 ある程度できるようになったら整備もできるようになるから長期遠征の時に助かるから。」


「そうね、スキルを持っていた方がクラスの恩恵も受けられるし、タミス神の祝福も受けているから習得も早いと思うわ。」


「問題は受け入れてくれるかどうかだねえ・・・。」


「いくつか見ていって気に入った装備があるところにダメ元でお願いしてみましょう。」



 夕食は部屋でいつでも食べられるみたいだったので部屋に戻ってからお願いする。

 一番安い料理でもかなりの内容なので値段が怖くてあまり聞けない。ソースの多くかかった料理で、魚と肉のメインの皿が出てきて美味しかった。緊張している自分をよそに、ジェンはワインまで頼んでいた・・・。なんか慣れているな。

 デザートはちょっと甘すぎて自分にはダメだった。ジェンはいくつか食べていたけど特に気にならないようだ。


 食事の後はお風呂にも入ってゆっくりしてから眠りにつく。ベッドルームはいっぱいあるんだが、いつものように同じ部屋だ。なんかもう普通になりすぎてしまったよなあ。

 見ていないとはいえ、普通に隣で着替えているからね。からかってくるのもいつものことだし・・・。

 もう自分のことは安心しきっている感じだよ。普通だったら襲ってくれと言っているようなものだもんなあ。まあ同じベッドで寝たりもしている時点でもうおかしいか。おかげで時々トイレにこもらないといけなくなってしまうよ。



~ジェンSide~

 今回の件で使ったお金のことを聞いたときはさすがに落ち込んだけど、報酬をもらえてよかったわ。おかげで装備もそろえられそうだしね。だけどあの魔道具がなかったらと考えるとぞっとするわね。ほんとに危なかったわ。


 色々あったけど、下位爵の身分までもらえたので最終的にはよかったのかな?ちょっと怖い目には遭ったけど、イチの気持ちも聞くことができたしね。



 あの口げんかの後からイチの言動がちょっとおかしいような気がする。ちょっとしたことなんだけど、今までと少し違っている。からかったときの照れ具合が今までよりも強いような感じだし、一緒に行動しているときもなぜかよそよそしい感じを受けるのよね。


 でも私のことを嫌っているという訳ではないのはわかるのよね。ちょっと私のことを意識してくれるようになったのかな?少しは進展していると思っていいのかな?

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