100. 異世界450日目 高名な魔法使い

 2時から面会なので遅れてはまずいと1時半過ぎには屋敷の受付に到着する。ここで60分ほど待ってからやっと案内されて面会することとなった。とりあえず急用ができて会えなくなったとか言うことはなさそうだ。


 ちなみにジョニーファン様は魔道士様、賢者様と呼ばれ、世界最高峰の魔法使いと言われている。前まではアルモニアの魔法庁の長官として活躍されていたが、今は相談役というような立場のようだ。現在は研究に没頭しているらしく、研究成果は国に報告されているようなんだが、詳細はわかっていない。



 建物の中の一室に案内されると、50歳くらいの年配の男性が座っていた。彼がジョニーファン様なんだろう。ただ、なんか不機嫌そうな表情をしている。


「わしがジョニーファンだ。ヤーマン国王からの紹介だから時間をとったが、わしも忙しい。聞きたいことがあるらしいが用件をはやく言ってくれ。」


 かなりぶっきらぼうだな。こういう人は余計な話はせずにいきなり本題に入った方がいいはずだ。


「自分はジュンイチ、こちらはジェニファーと言います。早速ですが、聞きたいことは二つあります。一つは魔法の威力についてです。魔力の扱いに慣れてくれば威力も上げることはできるというのは理解できるのですが、それ以外になにかいい方法がないかを伺いたいのですが・・・。」


「そんなことか。たしかに魔力の扱いに慣れてくれば魔法の威力は上がってくる。それ以外にもあげる方法はあるが、簡単ではない。魔法はどのようにイメージできるかが重要なのだ。

 試しに魔法で手のひらに火を出してみろ。わしのも見せてやるからそれで何が違うのかを考えてみるんだ。ちなみにこの部屋は耐魔法の結界があるので、この中で試してみてくれ。」


 ドーム状の中に手を入れてから火魔法を出してみる。


「それでは交代してくれ。これがわしの火魔法じゃ。」


 そう言って火の玉を出すと、火の色が白っぽい色になっていた。


「白い火の玉!!火の温度を上げているのか!・・・でもどうやって?」


『温度が高いということは酸素の投入量を多くすればいいの?でも魔法だから酸素とか必要なのかしら?』


『イメージでより高い温度で燃えるようにすればいいのかな?でもそれは前にもやったけど変わらなかったんだよなあ・・・。』


 ジェンと英語で話をしているとジョニーファン様が驚いた表情になっていた。


「これを見ただけで温度が違うと分かるのか?」


「えっと、炎の色は温度が低いと赤、それから黄色、白となるんでしょ?その後は青だったかな?魔法で生み出すときも温度とかイメージできるんですか?」


「火が燃えるのを助けるものがあると言われている。それが何かは分からないが、それが多くあつまるようにイメージすると温度が高くなるのだ。残念ながらそれを説明してもイメージできないものがほとんどで魔法の強化はできていないのが実情なんじゃが・・・。魔法は魔素が変換されるものではあるが、自然の理にそって強化ができるんじゃ。」


 言われたとおり、火を出すときに酸素を吹き込むようにイメージしてみる。すると今まで赤かった炎が黄色っぽくなった。ただすぐに赤へと変わる。


「イメージが弱いのかな?でもこれができるようになれば威力は段違いに上がりそうだ。」


「これを聞いただけで火の温度を上げることができるじゃと?もしかして火が燃えるのを助けるものについて知っているのか?」


「そういう話を本で読んだことがあります。そうであると理解すると説明できる事象があったので、そういう物質があると言われたら納得できました。」


 もしかして他もそうなのかもしれない。ここでできるのは氷か?冷たいというだけじゃなく、分子が止まるイメージで考えればいいかな?すると氷が発生するがまとっている冷気が格段に上がった。よしよし、いい感じかも。


 「それとも液体窒素の方がいいのか?」と思って空気の分子の運動エネルギーを抑えるようにイメージしていくと、凍ってはいないが冷たい液体が出てきた。驚いて手の上から落ちるとテーブルの上を滑って蒸発した。


『もしかして液体窒素をイメージした?』


『うん、量は少しだけどこれいっぱい出せるようになったらかなり強力かもしれない。』


 やっぱり普通に存在するものからだと魔法の発動が早いような感じだ。無から有を作るのはやはり難しいだろうからね。


「もしかして今のは氷魔法か?ただ氷魔法にしては水魔法のようだったが・・・。」


「冷たい液体をイメージしてみました。水よりも低い温度で凍る物質があるので、そのイメージにすると氷ではなく液体が出てしまった感じです。」


「魔法なので魔素を使って変換するというイメージが先行していたわね。」



 ジョニーファン様は最初の雰囲気から変わっていろいろと話しかけてきた。かなり変わっていると言っていたのは研究馬鹿という感じなんだろう。


「そろそろお時間になります。」


 秘書と思われる人が時間を告げにやってきた。しまった、鍵のことを話せなかったよ。


「すみ・・」


「時間はまだ大丈夫だ。午前は特に緊急の予定はなかったな。ジュンイチ君、ジェニファーさん、昼までは時間がとれるかな?」


「えっ、ええ。ジョニーファン様の都合がつくのであればこちらとしてはとてもありがたいです。」


「わしの方は大丈夫だ。正直人と会うのは苦手でな。人と話すくらいなら自分で研究している方が何倍も楽しい。ただ君たちの話はそれ以上に興味がそそられるんじゃ。」


 30分の予定が結局3時過ぎまでいろいろと話すこととなった。ただあまり詳しいことを話すわけにもいかないので説明が結構大変だった。もう少し話をしたいと言われて明日も1日空けてくれることとなった。




 翌日も2時に訪問して色々と話をする。ただし前に決めたように自然科学についてはあまり詳しい話をしないでイメージのみを伝えることとした。

 ただやはり話していると、科学的な研究はほとんどされていないらしい。というか話していると、どうも肝心なところが抜けているような印象を受けるのは気のせいなのだろうか?



 魔法の鍵の解錠方法についてきいてみたんだが、やはり明確な方法はないようだ。番号や記号のパスワードをみつけるか、登録されたカードを使うか、最初に登録した人の魔力でしか開かないらしい。


「一歩間違えれば泥棒の片棒を担ぐことになるんだが、なぜそんなことを聞くんじゃ?」


「古代遺跡で鍵のかかった扉があったことはわかっています。もしこの先、未調査の遺跡が発見できたときに鍵がかかったままの扉があるのではないか?その場合に調査を行うためには扉を開けられないかと思いまして。」


「今のところ遺跡で発見される扉は魔素が完全に切れると扉が開くようになっているようじゃ。いくつかの遺跡で開いていない扉があったが、それは魔法で開けることができるわけではないため強引に破壊したらしい。なので遺跡を見つけても解錠の必要はないはずじゃぞ。」


「そうですか。もしかしたらまだ稼働している古代遺跡とか見つからないかと期待したんですけどね。」


「まあ、その必要はないと思うが、君たちのことを信用して少し話しておこう。二人の魔力を合わせることで固有の魔力をある程度調整できるんじゃ。ただ、それも限界があるのでできる範囲は限定されるがな。ただ、それができるようになるには二人が同じくらい魔力の扱いに慣れておかなければならない。」


「それだけでもわかればとてもありがたいです。もし古代遺跡ですごいところを見つけたらお伝えしますね。」


「期待してまっとるよ。何か見つかれば手紙で送ってくれ。」




 他に人形を操ったり、魔獣を従えて戦闘したりできないか聞いてみたが残念ながらこっちについては実用的なものと言う前提では聞いたことがないらしい。


 魔道具で最低限の動く道具はできるが、予め決められた動作しかできないので戦闘などの複雑な動きは無理だろうと言われる。自分で考えて行動することのできる魔道具ができれば可能だが、古代遺跡でもそのようなものは見つかっていないらしい。

 唯一世界を滅ぼした古代兵器がそれに当たるかもしれないらしいが、現在見つかっている古代兵器と思われる残骸からもどういう原理で動いていたのかは分かっていないようだ。完全自立式の兵器だったのか、人間が運用する兵器だったのかも不明らしい。


 魔獣についてはもともとそこまでの知能がないので無理のようだ。狩りの補助として動物を使うのがせいぜいだろうと言うことだった。


「パーティーの強化であればやはり他の冒険者をパーティーに誘うか、奴隷を購入するということしかないな。今の実力と、魔法のことを考えると募集したらすぐに候補が来るんじゃないのか?」


「ちょっと考えてみます。」



 結局いろいろと話をしたり、実演してもらったりしていたらさらに3日もたっていたよ。まあいろいろと知ることができて良かったけどね。普段は見られない本も見せてもらえたのでよかった。さすがに魔法関係の本は充実していた。一応読ませてもらったけど、あとでまた読んでみよう。



 昼食だけで無く、夕食までごちそうになったんだが、よかったんだろうか?最初、食事も一緒にと言ったときには秘書の人が驚いていたからなあ。




 さすがに3日も訪ねていると、「あのジョニーファン様が4日も連続で人と面談したらしいぞ。」と少し噂になってしまったみたいだ。まあ初日に役場に行ったときに少し話をしたら「30分だけでも面談できたならすごいことですよ。」と言われたからなあ。

 さすがにこれはまずいと思って初日以外はジョニーファン様に許可を取って認識阻害の魔道具で変装してこっそり訪ねたので誰とまではバレていないと思う。




 翌日には郊外に出て魔法の実践をしてみた。自然現象を意識して魔法を使うことで威力が上がったのを実感できた。


 拠点について土魔法で作らないのか聞いてみたが、通常はそんなことはしないようだ。土魔法は土を操るが、固めたりするのは錬金術になるらしい。それで普通の人はできないのか。


 雷魔法については雷放電の原理から電子などの通り道を意識することで対象まで攻撃するように考えると、距離は短いが放電できるようになってきた。威力についても同じイメージで威力を上げることができたので大分実践で使える感じになってきたかもしれない。


 氷魔法は今までの氷の温度を下げることができてさらに大きくできるようになったが、今は液体窒素など冷たい液を出すことに注力している。これをレーザーのように出すことができれば対象を凍りつけることができるはずだ。これは徐々に出せる量を上げていくしかない。ただ自分にかかったりする危険性もあるのが怖いんだよなあ。


 あと闇魔法についてイメージと言うことだったので漫画からの知識で影操りのようなことを試してみた。影を固定することで動きを少しだけ止めることができるようになった。もちろん操るなんてことまではできないけどね。

 あとは前から考えていたブラックホールのイメージで対象をえぐり取る感じで魔法を考えてみた。結構怖い魔法だな。



 魔法については大きく系統は分かれているが、それぞれの魔法の系列が相互に干渉し合っているもののようだ。そのときにどれをイメージするかによってその系統であると認識されてスキルが身につくらしく、似たような魔法でも使う系統が異なることもあるらしい。


 このあと5日ほど郊外に出てからいろいろと魔法の鍛錬をしているとついに闇魔法のレベルが3に上がった。これで次元魔法である収納魔法が使えるようになったと思うんだが、使い方がわからない・・・。ガイド本には書いているんだけど、読んでもイメージがよくつかめないのである。すぐにはなくてもいいので今度ジョニーファン様に会うことがあれば聞いて見よう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る